3.♪ある~日っ森のっ中っ
数多ある作品の中から選んでいただきありがとうございます。
<(_ _)>
「お互い、この状況が全く以て分からないまま此処に至る、ということですね」
ソファに座ってお話しっていうのは私が頑張った結果だけどね。
「私、二人の子育てほぼ終了した、地元スーパーのフルタイム従業員なんです。今日も特に何かあった訳ではなく平凡な一日で終わるはずだったんですけど」
私は、ふぅっと息を吐いた。夢だと自覚してから結構長い時間が経ってる。そろそろ目が覚めてもいい頃合いなんじゃないの?
「でも夢の中とはいえ、ガンダロフさんとこうやってお話し出来たのは嬉しいです」
これだけ見事な筋肉を間近で見られる機会なんて、そうそう無いもんね!
「ぁっ、お、私も、嬉しいです。……その、『さん』付けじゃなくて『ガンダロフ』と呼んでもらってもいいですか?」
「えぇ?でも初対面の方を呼び捨てにするのは」
「是非呼び捨てで!」
圧が凄いんだけど!
「では私のことも『ロト』と呼び捨ててもらってもいいですか?あと、敬語ではない方が親しみがあって嬉しいのですけど、あの、無理のない方で大丈夫なので」
ガンダロフは口元を手で覆い徐々に俯いて、目線が迷子のように彷徨っている。あっ、もしかして女性に免疫が無いとかそういうこと?いやぁ今の私は男性だし。まさか男性だと認識されてない?でも顔は無茶苦茶綺麗だけど全体でみればちゃんと男性に見えたけどなぁ。
ガンダロフは深く息を吐き出すと私の方へ向き直り
「ロト、さん」
「呼び捨てでお願いします」
「……ロト、は、これからどうするつもりなん、だ?」
どうするもなにも、私本体の覚醒待ちなんですけどね。でも手持ち無沙汰なので
「探索でもしてこようかと思ってます。このような状況は初めてだから、何かしら面白いことがあればいいなぁと。お姫様が落ちてるとか、茸と筍が仁義なき戦いを繰り広げているとか」
「お姫様とは落ちているものなのか?」
「お伽話では軟派な王子が昏倒してる姫にキスしてたりするよね。『運命の人!』とか言って」
私のその手のお伽話に対する認識は一般的ではないらしいけど。
「ガンダロフは?良ければ一緒にいてもらえると心強いなと」
「是非ともご一緒させて下さい!」
喰い気味のお返事でやる気満々って感じ。まぁ、じっとしてても退屈だものね。そうと決まれば早速レッツゴー!
ソファセット等はそのまま置いておく。目印になるからね。
「ガンダロフが来た方向と反対に行ってみましょうか」
進行方向に目を向け、ふと耳を澄ます。葉擦れの音がさわさわと大きく小さくでも絶え間なく聞こえる。たまに誰かが喋っているようにも聞こえる。外国の言葉で大勢がそれぞれに呟いている中に部分的に日本語っぽいのが混じる感じ。
「ロト?何か気になることでも?」
「え?あ、あぁいや、何でもないデス……」
びっくりしたぁ!無反応になったのを心配したのか、ガンダロフに顔を覗き込まれてた。心配げに眉尻が下がってる。澄んだ綺麗な目をしてるなぁ、穏やかな夜の海のように見えるのは少し潤んでいるからかな。と、顔を逸らされた。耳真っ赤!
私はざわついてる木々に向かって歩き出す。
「さて、何があるかなぁ」
「危ないから俺が前に出る」
「大丈夫。熊ぐらい速攻でぶっ飛ばすから」
ガンダロフが私を追い抜こうとするのを制して、並んで歩いていく。
♪ある~日っ森のっ中っ熊さんにっ食べら~れ~た……あれ?
ガンダロフが心配そうな、ちょっと残念な子を見るような顔で
「熊が出るような所で武器も持たずに歩くなど、危険すぎないか?」
「そうだね。得物持っとくと安心するね」
では、一つ出してみましょう。頑張れ私の想像力!
と思ったけど、使うのはガンダロフよね。彼自身に強くて使いやすい物を考えてもらったほうが良いかも。
「ガンダロフの武器を出したいのだけど」
「難しいのか?というか、出せるのか?!」
私は難しくはないよ、と首をふるふると横に振って
「実際に使う人が使いたい物を想像したほうが、満足のいく出来になるんじゃないかなって」
「なるほど。で、どうすればいい?」
「先ず、こういうの欲しかったんだぁ!っていう物を具体的に考えて想像して。形が出来たら私と手を繋いで」
「手を繋ぐのか?!」
そんなの恥ずかしくて無理!みたいに言わなくても。
「……無理ですか」
「いいいや大丈夫だ!」
どっちやねん。
「それで、手を繋いだら私が『ガンダロフの思い描いた武器が出来ますように』って念じるので、ガンダロフも想像した武器が欲しいと強く念じてください」
ガンダロフは両手を見ながら閉じたり開いたりわきわき動かして暫く考えて込んでいる。私は邪魔にならないようおとなしく待ってる。
相変わらず葉擦れる音がさわさわと聞こえる。手持ちぶたさん。そういえば昔、豚が沢山降ってくるという絵本があったような。未来絵日記だっけ?空を見上げる。どんよりとまではいかないまでも晴れそうでもない曇り空。何かが降ってくる気配は無い。
「ロト」
ガンダロフが右手を差し出した。
「準備できた?」
「あぁ、お願いする」
私は差し出された手を右手で握手するように掴んだ。少し震えている。更に彼の右手を包み込むように左手を添える。彼はビクッと小さく跳ねて、はぁ~~っと息を吐くと私の右手を包み込むように左手を添えた。なんかの儀式みたい。聖剣でも出てくるのかな?
お互いの視線が交わる。相変わらず瞳が潤んでて綺麗。表情が硬いけど、緊張してる?
「うん、大丈夫。出来る」
彼が安心するように、自分を鼓舞するように、ニコっと笑みを浮かべて。それから俯いて目を閉じる。
集中!
ガンダロフが想像した通りの武器が出来るように。願わくば、その武器が彼自身と彼が大切に思うものを守るよすがとなるように。
お臍の奥辺りから熱いモノが湧き上がり身体全体を駆け巡る。グルルルル~と何度となく巡っていき、その一部が繋ぎあわせた手から流れ出す。熱い。ちょっと身体全体が軋むようなキツさを感じる。けど、やる。出来るから、やる。
ガンダロフの手も熱い。
「んんっ…………ん、ふっ……ふぅっ」
かなり辛そう。でも、頑張れ。私も頑張る。
貴方が望む物を、その手の中に!と、二人が繋いだ手の間から温かく柔らかい何かが湧いてきた。そこでもう一度強く念じる。
ガンダロフが想像した通りの武器が出来るように。願わくば、その武器が彼自身と彼が大切に思うものを守るよすがとなるように。
「はぁ……凄い……出来た……素晴らしい」
私も顔を上げて見る。二人の手が握っているのは、仄かに光を帯びた見事なロングソード。ガンダロフは興奮気味に眺めている。いや、かなり疲れたよね。お互い肩で息してるし。
「うん、頑張った!上出来!」
私としてはニッコリ笑ったつもりだったんだ。でも自然と目が閉じて視界が暗くなって、あぁ、目が覚める、と思った。その内身体が重くなって感覚が無くなっていくような。
いつもであればその後、お布団の中で温々している感触が戻ってくるのに。自分が指先からつま先から髪先から塵になって拡散していくような、自然に任せて散り散りになって溶けて混ざって……何て言うんだっけ?こういうの。エントロピー現象?お腹の内側からも、別の何処かに中身がさらさらと流れ出すような感じ。あぁ、小宇宙を身体全体で感じる……これがペガサス☆ファンタジーとかいうものなのかなぁ…………。
(ロト!アスタロト!)
男の人の声が聞こえる。凄く焦ってるなぁ。
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
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