29.…生殺し?
「見たというか聞いたというか、問答のようなモノ。……あなたで試してみる?」
「待て、どんな攻撃だったかまず説明してもらえないか?」
ガンダロフの目が、いきなり実行するな!と言っている。
「目を瞑って横たわっている状態でね、問い掛けられたの。
『何故私は『私』なの?
『私』を形作るものは、何?
腕が無くなっても『私』?
脚が無くなっても『私』?
顔が変わったら?』
で、私が『姿形がそのまま私を形作っている訳じゃない』って答えたら、
『じゃあ、
依り代さんの記憶が無くなっても『私』?
ガンダロフのことを忘れても『私』?
どこまで『私』でいられるかな?』
って、なんか愉しそうに言われてむかついたから
『駄目。煩い』って言ったら、目が覚めた」
「アスタロト様もその問答をされたのですね」
「ということは、ルゥさんも?」
「はい。私の時は実際に腕と足をもがれて、その次に記憶を順に奪われて、アーリエルとの思い出だけは奪われたくない、と抵抗しましたら元の姿に戻りました」
「あぁ、やっぱり。そんなところかなと思ったら、その通りだった」
そしてまだ倒れたままの白修道服に私の感想を述べる。
「陳腐。独創性が無い」
「陳腐だと?!独創性が無い訳ないだろう!大体なんでお前達はそんなにピンピンしてるんだ!この化け物共!」
白修道服はガバッと上半身を起こすと、そう喚き散らした。胸の穴はまだ完全に塞がってないのに、元気だなぁ。灰色修道服二人が、ひぃ~~、と悲鳴を上げる。
「おそらくだけど、あなたと私に力の差があり過ぎて、単なる質問にしかならなかったと思う。あっ!どちらかと言えばその後の方が酷かった」
「あの、自分が一番心を砕いている存在に自分を攻撃させる、というものですか?」
ルゥさんの顔が辛そうに歪む。彼の場合は彼の最愛の人に攻撃されたのだろうか。白修道服がなんかニヤニヤと笑っている。
「私の時はガンダロフモドキが攻撃してきたんだけどね。何だろう、一目見て『違う』って感じだったから『出直してこい!』って言ったら、もっと酷くなって見るに堪えられなかった」
私、説明するの下手くそだって自覚はあるけど、みんなして『いったいなんのこっちゃ』って顔されるのはさすがに痛いなぁ。
「それで『切り捨てた』って」
麒麟がボソッと呟く。
「精神的苦痛を与えて弱らせようってことだったら、確かにあれは酷かった。主に造形が」
「ちょっと待て!『主に造形が』ってどういうことだ?!」
白修道服が元気に抗議する。胸の穴が完全に塞がるにはあともう少しってところかな。しかし、彼の周囲に展開している結界は綻びは見当たらない。彼が外と繋がっている形跡も見当たらない。彼にはどんな策がある?それとも単に私が侮られている?
「何れにしても、ありきたり。だいたい、ルゥさんが残っているって時点で失敗作」
「なっ!何を言う!残して置かねば大聖女との繋がりが切れてしまうではないか!それこそ『力の元』として重要なのだ!」
「だが、アスタロト様がいらっしゃらなければ、私は程なく消えてしまったでしょうね」
ルゥさんはそう言って白修道服に冷たい視線を向ける。その腕の中に最愛の人を抱いて。ん?大聖女?
私はルゥさんの腕の中に収まっている最愛の人を観察する。豊かな長い白髪、少し小柄で、凜として清楚な感じの妙齢の女性だ。
「どう、されましたか、アスタロト様?彼女に何か?」
ルゥさんが不安げに私に問い掛ける。
「うん、気になって」
……背中と腰と両太腿の外側。
「彼女さんの傷、治さないの?」
なんか異様な気を感じるけど、それも含めて痛そう。 ルゥさんとルゥさんの最愛の人はびっくりして
「傷?!ここではゆっくりと診てあげられないけど、何処にあるんだい?」
「いえ、そのようなものは…存じ上げませんが」
と二人とも困惑して、ルゥさんは再び私に問う。
「傷、というのはどのようなものなのですか?」
「えーっとねぇ、場所は背中と腰と両太腿の外側。実際には見てないから細かくはわからないのだけど、広範囲でキリキリと痛い。なんか食い込む感じ」
と言うと、彼女さんは、はっ、と息をのむ。そして震える声でこう答えた。
「それは、紋様のある場所です……」
「今も痛い?というか、痛そう……」
「そんなに広範囲に紋様が?君は奴に一体何をされたんだ?!」
ルゥさん、白修道服を射殺さんばかりに睨む。それはそうと
「ルゥさん、治せない?」
さっきから白修道服のニヤニヤが止まらない。癪に障る。
「申し訳ございません。ここで彼女の肌を露わにするのは忍びなく……」
「いえ、わたくしは大丈夫です。この積年の苦痛から解放していただけるのであれば、肌を見せること位はなんともありません!」
もうずっと痛かったんじゃないの?でも
「直ぐに診てあげたいところだけど、先にアレをなんとかする」
と、こそっと彼女さんに告げる。
「もしかしたらあなたの方に痛みがいくかもしれないけど、それはルゥさんがなんとかするから。ね、そうでしょ、ルゥさん?」
「は、はい!もちろんです」
では、アレをなんとかしますか。でもその前に。
「ガンダロフ」
私はガンダロフに呼び掛けて
「うむ、何か手伝う、こと、でも?」
彼の言葉を待たずに抱き付く。んふふっ。この、いきなり抱き付いても揺らがないドーンッとした感じ、良いわぁ。彼もドギマギしながら抱き返してくれる。好き。
「だぁーーーーっ!そこっ!なんで意味も無くイチャつく?!そんなキタナイモノ、見せるな!」
白修道服は、立ち上がって私達を指差して非難する。そこまでムキにならなくても。
「美意識というのは本当に人それぞれだよね」
私はガンダロフの暖かくて気持ちの良い腕の中で、気力を溜める。彼の鼓動が伝わってきて……あ、油断すると、寝そう。
「……ロト、かなり疲れているのではないか?そのまま放って置けるのであれば、アレの処置は明日に廻しても良いのでは?」
私の後頭部をゆっくりと撫でながら、ガンダロフが提案する。私は白修道服を一瞥して
「…生殺し?趣味じゃないなぁ」
「なんだその『生殺し』とかいうのは!お前達に私がどうこう出来るとでも思っているのか?!」
いや、それは思ってはいないけど。
「じゃあなんで結界を破って出てこないの?」
白修道服は、明らかに動揺して
「で、出、出られない訳じゃない!おおお前達がどういう手段で私を退けるのかをみみみ見てただけだっ!」
これ、演技だったらコメディアンとして大当たりするよ。
「そっかー。私はてっきり『上司に怒られそうで出るに出られない』のかなぁって思ってた」
と言った途端、白修道服はビクッと震え、はっと何かに気付いた表情のまま動きを止めた。……え、まさかの図星?!本当にこれが演技だったら、コメディアンとしてはアカデミー賞級じゃない?知らんけど。ガンダロフも『まさか?』と少し驚いたような顔をしているし、ルゥさんと彼女さんも『嘘でしょ信じられない』って目が言ってる。
私は改めてぎゅっとガンダロフを抱き締めると、
「じゃあそろそろやってみましょう!」
と彼から離れて白修道服の方へ一歩踏み出す。白修道服は、はっ、と我に返り
「やれるものならやってみるがいい!」
とにやりと笑った。『何を?』とは聞かないんだね……。
私は両手の平を合わせて力を込める。頑張れ、私の想像力!やがて両手の平の間に直径約15cm程のボールが出現した。上半分が赤くて下半分は白、継ぎ目は黒のラインが走っていてそのラインを止めるように親指の爪程の大きさのボタンが付いている。それを右手に持って
「いっけーーーっ!」
と大きく振りかぶって、投げた。
特段早い動きではなかったのだけれど、ボールは結界をすり抜け白修道服の顔面にゴッとぶち当たると、黒いラインから上下にパカッと開き、白修道服を吸い込んでパクッと閉じた。石畳の上にコン、コロンと落ちると、中で抵抗しているのかグラリ、グラリ、グラリと3回揺れると、カチッ、と何かが嵌まったような音がしてピタッと動かなくなった。
シーーーー……と一時、静寂が場を支配する。私は白修道服が収まったボールを拾い上げて呟く。
「ゲット……したくなかったなぁ」
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
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御使い様のその後(夢の世界)はこちらです。
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