21.我等聖獣ファイブ!
「この辺りで良いのではないか?」
中央部が見えるかな?っていうところで留まって、手は繋いだままで地図を開く。ガンダロフも右手で持って一緒に見る。
「…九州を気持ち小さくして逆さにした感じ?」
「きゅうしゅう?」
「依り代さんの国で南にあるでっかい島」
ガンダロフは、これ以上聞いても意味は無いと判断したようで。
現在地は緑豊かな山奥のポツンと開いた野原の住宅。
「意外と近くに海があるんだな」
「美味しいお魚いるかな?漁村とかあると情報収集も出来るよね」
「そうだな。今、居るところは結構な山奥だな。移動手段はやはり転移魔法か」
「『空を飛ぶ』のもありかも。建物の周囲は野原……前はペンペン草も生えてないただの広い空き地だったから」
「洞窟も詳しく調べでおく必要があるな。教会と何らかの繋がりがあるのだろうし。魔法陣からは何かそういうものは感じなかったか?」
「魔法陣……ねちょねちょした嫌な感じしか覚えてない」
あ、思い出すだけでぞわっとした!ぶわわわっと鳥肌が立つ。
「だ、大丈夫か?思い出すだけでそんなに毛が逆立つなんて…」
「うん、凄く気持ち悪くて嫌。でも大丈夫」
繋いだ手を改めてきゅっと強く握った。ガンダロフの熱が伝わってくる。縮こまった身体が緩んで、ほぉっ、と息を吐いた。
逢いたい。
「誰に?」
「誰に?何が?」
ガンダロフが私に訊いてくる。え?
「今、『逢いたい』って聞こえた……女の人の声」
小さな悲鳴のような、細やかな祈りのような。
「こんな周りに何も無いところでか?…分身体では?」
「ううん、違う。確かに頭の中に小さく響いただけなんだけど」
逢いたい。
「うん、凄く『逢いたい』って。でも、誰に?」
「いや、俺に訊かれてもなぁ。大体、誰が誰に逢いたいんだ?」
ガンダロフは眉をひそめる。確かにこんなこと言われても困るよね。
「……女の人が誰かに……わかんないけど…」
「気になるのか?」
「うん、気になる。凄く」
はあぁ~~~っと彼の何か諦めたような溜息。だからはっきり言う。
「行かないよ」
私はそこまで無鉄砲じゃない、はず。彼は少し意外そうに
「行かないのか?気にしているのに?」
「うん、行かないよ」
私はニヤッと笑って
「今は、ね」
あ、彼の目が何か言いた気に半目になった。
「南の方、この地図でいうと真ん中辺りかな?ガンダロフは何か感じない?」
陸地が続いて先の方は雲?に隠れてよく見えない。彼もそちらに目を向ける。
「いや、特には。というか、何処という訳ではなく全体的になんだが、こう、もやっとしているというか。上手く表現出来ないのだが」
「うん、それ。全体的に重くてすっきりしないのだけど、特に南の方が胸が締め付けられるような痛い感じがする」
こんなに澄み切った青空の下、山の緑も海の青もキラキラ光って綺麗な景色の中を自由に飛び回るんだから、もう少し感動しても良いはず。なんだけど、そのもやっと感が全てを台無しにしているというか。
「教会の雰囲気とはまた違うのだが。気が滅入ることに変わりはないな」
彼は眉間に皺を寄せ、ふぅ、と息を吐いた。
この地図では右側が北、左側が南。方角が判明したということで
「出でよ、聖獣ファイブ!」
ポポポポポンッ!
「聖獣ふぁいぶ?ってあの重石か」
突如として出現した聖獣達に、ガンダロフは一瞬ギョッとして握っていた手に力を込めた。
「戦隊物みたいな名前にしたかったの」
私は地図を放してまず青龍を手に取り
「君は『青龍』、東を守護する者」
と言って地図の下側に置く。すると青龍は青く光る。同じように朱雀、白虎、玄武を南、西、北に置くと朱雀、白虎は赤、白と光り、玄武は周囲の光を吸い込んだかのように黒くなった。
「そして、君は『麒麟』、中央を守護し、全ての聖獣を統括する者」
地図の真ん中に置くと麒麟は黄金の輝きを放った。その光はふわっと広がっていき、他の四聖獣を呑み込んだ途端に一気に収束した。
「……生きてる?」
ガンダロフが呟く。ただの透明な石だったのが、今はそれぞれが生き物のような質感を備えている。大きさはそのままだけど。
「ガンダロフがそう思えば彼等は生き物だよ。私としては世界最強に格好良い、ガンダロフと私達の住処を守る最高の守護者を想像したの」
聖獣達は地図の上で麒麟を真ん中に横一列に並び
「我等聖獣ファイブ!主とますたーに忠誠を尽くすことをここに誓います!」
「「「「誓います!」」」」
と、 ざざっとそれぞれの形で平伏した。ガンダロフは呆気にとられた感じでそれを眺めて、ポツリと呟く。
「……あるじ?」
「うん、ガンダロフが主で私がますたーなんだって。剣ちゃんが言ってた」
私もびっくりしたもんなー『主』と『ますたー』呼び。
「待て待て待て。剣はともかく、この者達の主はアスタロトだろう?」
ガンダロフは私と聖獣達を交互に見てそう問い掛ける。私は首を横に振り
「ガンダロフが主だよ。あなたを護る為に彼等を作ったから、間違いない」
と彼を真っ直ぐに見る。
「あなたが私に向ける思いと、私があなたに抱く思いが同じようなものかどうかはまだ、いまいちよくわからない。だけどね、あなたが傷つくなんてことは考えたくもない程、嫌。でも」
本当にちらっと思うだけでも泣きそう。でも
「だからといって何も対策を立てないなんて愚の骨頂。過剰と言われようが、少しでも不安が無くなるようにやれることはやっておく」
ガンダロフは私の話を静かに聞いていた。と、途中から黒い瞳が夜の満ち潮のように潤んできて、頬にぱぁっと赤みが差してきて、いつの間にか漂っていた甘い花の香りが濃厚になる。私が話し終わって一拍おくと、右手に持ってた地図を放して私を抱き締めた。
「ありがとう、ロト。凄く嬉しい。あぁ、本当に嬉しい!誰かに、自分の好きな人に大事に大切にしてもらえるなんて、うわぁ~~、こんなに嬉しいものなんだなぁ~」
予測はしてたけど、やっぱり抱き締められた。で、地図!私も彼も手を離した状態ですが!まぁそこは聖獣達がしっかりと持ってたりするんだけどね。出来る子達で良かった。…甘い花の香りが漂う中に混じって、爽やかな少し甘酸っぱい香りがする。あぁ、これ、ガンダロフの香りだ。美味しそう。食べたいなぁ。彼の背に腕を回して抱きつくと、彼の香りを思う存分吸い込む。はぁ。いい香り。彼の身体から発する熱の暖かさと浮遊感もあって、なんだか気持ち良いなぁ。
「ロト」
ガンダロフの呼び掛けで腕を下ろす。身体も気持ちもふわふわと浮ついていて、彼に捕まえててもらわないと何処かに行っちゃいそうだ。
「ロト?アスタロト。調子が良くないんじゃないのか?」
私のいつもと違う様子に彼が心配して、頬に手を当て顔を覗き込む。うわっ、顔、近っ!びっくりして俯くのを彼の手が阻む。彼の黒い瞳の中に目を丸くした私が映ってる。
「だ、大丈夫!ちょっと?かなり気持ち良くて……」
凄くドキドキしている。身体の奥で熱いモノがぐるぐる渦巻く。熱い。顔も身体も熱い!いや、落ち着け、ここは空の上!
「気持ち良い?」
彼も赤面しているけど、私の心配の方が勝っているようで
「具合が悪い訳では無いんだな」
と真剣な面持ちで確認してくる。うん、格好良い。彼は私の頬に当てていた手で後頭部を優しく撫でながら
「現在地の位置は大体掴めたから、もう下に降りよう」
と、ほぅっと一息吐いた。
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
続きが気になる、面白い、と思われた方は是非スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆☆☆☆☆に評価やブックマーク、いいね感想等ぜひ願いします。




