ドールハウスにこびとが住んでいる
子供のころのことって、ほとんど忘れているよね。
印象深いことだけが残っている。
その中のひとつがドールハウスである。
――――
「ママ~これで遊んでもいい?」
「え? ん~いいよ。大事に遊んでね」
そういって母からもらったものはドールハウスだった。
結構古いドールハウスだ。
母に聞くと、母のお母さん、つまりわたしのおばあちゃんにもらったものらしい。
ドールハウスにはキッチンがあり、食器棚もちゃんとあります。
テーブルにいす、なんと暖炉まであるのです。
しかもかなりクオリティーが高い。
2階には机とベッド、2段ベッドまであった。
本棚もちゃんとあり、なかには本も入っていた。
そこに、ウサギの家族がいたのです。
お父さんウサギ、お母さんウサギ、お姉さんウサギに妹ウサギ。
さらに、双子の赤ちゃんウサギの5人家族のようです。
わたしはこのドールハウスで遊ぶのが好きだった。
毎日のように遊んでいた。
でも、母に必ずいわれていたことがあった。
それは、遊び終わったら必ずドールハウスは片づけるということでした。
まあ、当たり前です。
遊んだら片づけるはあたりまえ。
だから、片づけないでいると怒られていた。
しつけだ。
ある日、祖父が遊びにきた。
なんと、ドールハウスのテーブルといす、滑り台にベンチと木で作って色も塗ってもってきてくれた。
「ありがとう、おじいちゃん」
祖父は手先が器用だった。
かなりの出来栄えだ。
家具が充実してたくさん遊んだ。
ひとりで家族ごっこをして遊んだ。
――――
そんなわたしが大人になり、社会人になった。
アパートの2階で、一人暮らしをしている。
毎日、会社に行きほとんど家にいない。
あわただしい毎日を過ごしていた。
そんなある日、久しぶりの休みの日。
めずらしく家でゆっくりしていた。
ふと、コーヒーの香りがした。
ん?
コーヒーの香り?
気のせい?
わたしいれてないし、下のうちかな?
クンクン!
香りのする方にいってみた。
ドールハウスの中からする?
ドールハウスは大事に飾っていた。
遊びはしないが引っ越しでもってきた。
そして飾ってある。
少しほこりがかぶっている。
でも、なんでこの中からコーヒーの香りがするの?
わたしは、不思議に感じた。
まあ、たまたまだろうとその日は気にもとめなかった。
しかし、その日の夜。
小さな音で目が覚めた。
ん?
今のなんの音?
ほんとにかすかに聞こえたちいさな音だった。
でもその後、何も聞こえなかった。
なんだったんだろう。
気にせず寝た。
次の日、ドールハウスの中を見るとハウス内の配置が少しかわっていた。
え?
いすここじゃなくてこっちに置いたはずなんだけど……。
なにか。違和感を感じていた。
あ、時間がない!
会社に行かないと。
急いで会社にいった。
――――
ふぅ~
今日も疲れた。
わたしはベッドに横になり寝た。
すると、夜中に目があいてしまった。
ふと、ハウスに目を向けた。
すると!
だれかいる!
動いている!
だれ?
こびと?
わたしは、驚いた。
でもここで声をあげたら、どうなるかわからない。
見て見ぬふりをした。
今のなに?
こびとだよね。
いつからここに?
そんなことを思っていたら朝になってしまった。
あ~眠れなかった~
ハウス内をみた。
こびとの姿はない。
ベッドの布団がよごれているのが目に入った。
手洗いをして干した。
そして、会社にいった。
――――
会社からもどり、布団をドールハウスのベッドにもどした。
その夜、寝たふりをしてみていた。
すると、やはりこびとがいた。
こびとは綺麗になった布団をみて、とまどっているようだった。
ふふっ。
ふと、このこびとはひとりなのか気になった。
みているかぎりひとりのようだ。
だって、ウサギの家族と会話をしているようだった。
このこびとさん、もしかしてずっとひとりなの~
このウサギさん家族が家族なのだろうか。
そんなことを思って、かわいそうになった。
わたしはあんなにこどものころに遊んでいたのに、いまでは忘れて飾っているだけ。
ほこりもかぶってかわいそう。
こびとさんがいすに座りコーヒーを飲んでいた。
となりのいすにウサギさんのお母さんが座っている。
ふたりでコーヒーを飲みながら、子供たちの話でもしているように見えた。
すごく楽しそうだ。
――――
次の日、母に聞いてみた。
「ねえ、おかあさん」
「なに?」
「ドールハウス覚えてる?」
「もちろん」
「あのドールハウスってもしかして、こびと住んでる?」
「ゆきちゃんもみたの?」
「え? ……もってなに?」
「お母さんもこどものときみたんだよ」
「そうなの?」
「まだ、いるんだねぇ」
「そうみたい」
「よかった~」
「何が?」
「まだいるってことはドールハウス大切にしてくれてるってことよね」
「うん、まあ」
「大事にしてね。あの、こびとさんの家だから」
「うん」
わたしは、ドールハウスの手入れをした。
ピカピカになった。
これでこびとさん喜ぶだろう。
そして、わたしはリスのお友達も椅子に座らせてあげた。
これでまた、コーヒーを飲みながらお話しができるね。
わたしはこびとさんに気づかれないように、ドールハウスを綺麗にした。
あるときは、布団を干した。
ドアが壊れたら修理した。
わたしのこどもにも、このドールハウスで遊ばせようと思う。
遊んだら、しっかりお片付けをしようね。
こびとさんの大事なお家だから。
最後までご覧いただきありがとうございました。
もしかしたら、あなたの家にも受け継がれているものがあるのかもしれない。
忘れているなら思い出して。