第一二話 勧誘
「陽毬さん、お願いします!」
「了解、押し通る。」
———どうしてこうなった?
私はふと疑問に思うが、それはそれとして同僚の陽毬さんに頼む。
陽毬さんはカーボン製の盾を使い、狭い通路にいる魔物を弾き飛ばしながら牛蒡剣———つまり銃剣だ———を駆使して殺害していく。
それでもまだ終わりは見えない。魔石を取って魔物を灰に帰す暇もないので、通路は血と油で一杯になっている。
「紗綾香!これ魔力回復!」
「ありがとう美幸!すごい嬉しい!」
しかし引くことはできない。ここで引けば非戦闘員に等しい美幸は確実に死ぬ。そうなったら私は狂ってしまうこと間違いなしだ。
そもそも私は《聖職者》の職業ってことになってるから、本来なら後方に行ってる筈なんだけどな......?
そう疑問に思うがそんなもの言葉に出す前に次がやってくるのでそっちの対応をする。
「癒しを......!」
「助かる。それと一匹逃した。」
陽毬さんはぶっきらぼうに言う。普段はもう少し言葉があるのだが流石に今はあんまりのようだ。
「ッと......!」
私はこっちに向かってきた蝙蝠の相手をする。が、
「ふっ!」
「ギィッ!?」
一閃。それで終わりだ。
私は陽毬さんのサポートに戻る。本当に陽毬さんはすごい。もう百体以上倒しているのではないだろうか?
しかし終わりの見えない魔物の襲来に、私は思う。
———どうしてこんなことになったんだっけ!?
§
始まりは、私が家に着いた時だった。
「あ、どうもどうも〜。」
そう家の前で待ち、私に向かって言うのはスーツを着た痩せた男。これと言って特徴はないが、その特徴のなさをわざと作っているようにも見える。
彼は私に話しかけてきたが、私には話しかけられる覚えはないので、
「あ、どうも。」
と言ってささっと家の中に入ろうとする。
「いやいやぁ、ちょーっと待ってくれませんか?」
ちっ、撒けなかったか。そう思うがそんな心情はおくびにも出さず私は対応する。
「......すみません、なんでしょう?父ならば現在職場にいまして、もし父に何か用があるのであれば職場に行っていただけると確実かと......」
「あ、いえいえ。お父様の方にも用があるのですが......今回は貴女本人に御用がございまして。」
......私にぃ?はて、何かやらかしただろうか?もしや、ゴミ共の関係か?しかしアレは皐月に押し付けた筈。私がバレる余地などほぼない筈だが......
「はぁ......?」
「まあまあ、取り敢えず上がりませんか?話はそれからでもいいでしょう?」
まあ、そうれもそうか。そう思い私はこの黒スーツの男を家に招き入れた。
後になって思ったが、こいつはここで追い返しておくべきだったし、追い返さなくてよかったとも思う。
......いや、本当に。
「いやぁ、すみませんねぇ。」
「いえいえ......」
男をリビングに招き、お茶をもてなす。
「あ、すみません。ワタクシ、厚労省で働かせていただいている加藤 継則と申します。こちら名刺です。」
「あ、どうも。」
私は名刺を受け取り、加藤さんの前に座る。
「えっと......それで?」
「あ、はい。えっとそれじゃあですね、あんまり長々と話すのもアレなんで、本題からいきましょうか。」
「紗綾香さん、公安局で働いてみる気はありませんか?」
「え?」
ここで「は?」と私が言わなかったのをどうか褒めてほしい。しかし驚いたのに変わりはないため、
「あの、それってどう言う意味ですか。」
と、少しばかり失礼な物言いになってしまう。
「ああ、すみません......実はですね、公安局では今、『特異能力保有者』という存在を集めているんですよ。それで、紗綾香さんがその『特異能力保有者』であると言う情報が入ってきて、こうしてスカウトに参らせていただいたわけですよ。」
「『特異能力保有者』ぁ?」
今度こそ私は失礼な物言いになる。特異能力保有者。言わんとすることはわかる、それは恐らく———
「あの、それってステータスの持ち主ってことですよね?」
「はい!その通りです!正式名称を『特異能力』......世間一般では『スキル』や『ステータス』のことですね。その保有者を公安局では集めさせていただいているんですよ〜。」
いや正式名称も何もタブレットにちゃんとスキルとかステータスとか書いてるじゃん。正式名称そっちじゃんと思うが、なんか言い負かされそうなので辞めとく。
「えっと......なんでまた......?」
「ふむ......紗綾香さん。ニュースはご覧なさってますか?」
ニュース?私は疑問に思う。なんでステータス関連の話にニュースが関わるのだ?
「いや、見てないですけど。」
「であれば、今すぐにご覧になられればと思います。どうぞ、ごゆっくり。」
そう言われて会話が途切れたので私はスマホでニュースを確認する。
『ダンジョン発見!異世界からの侵略か?』
「はぁ!?」
思わず席を立ち上がる。なんだ?このふざけた見出しは。
『本日12時、神奈川県海老名市の(株)櫂湾運送の一階にて八皿儀 平八さん(34歳 清掃員)が不審な階段を発見。中に入り調べてみると石煉瓦で組まれた長い廊下があり、中を進むと猪と思われる生物を発見。平八さんは驚き逃走したとのこと。その後「会社内に猪が出た」との通報を受けた警察によって現在その場所は封じられている。現在世界中でこのような構造物が見つかっており、警察は現在調査中であり、もし不審な場所を発見しても入らずに通報するようにと呼びかけている。』
いやいや、嘘でしょ?なんでこんな、え?マジで?
私は混乱しながら記事を読み切る。そしてまさかと思い、METUBEを開き「ダンジョン」と検索する。すると、そこには、
「今世界を賑わせるダンジョン、入ってみた!」
と言うタイトルのついたライブが公開されていた。
「......あちゃあ......」
いつかこうなるかなーと思っていたが、まさか今とは......
「あのー、確認、終わりました?」
私は天を仰いでいると、加藤さんが話しかけてきた。
「ええ、まあ......」
私はうんざりしながら答える。もう隠す気力すら無い、だってこれからの代替の流れが読めたからだ。
「えー、そのですね。紗綾香さんにはこれから政府に所属していただき、『特殊地下構造物』の攻略をしていただければと思うのですが......」
「結構です!」
そう私が言うが、加藤さん———加藤は別に驚いた風もなく、私にこう返す。
「おや?参加していただけないと?」
「当たり前です。私はまだ学生で、2年後には大学受験を控えています。こんな危ないことしてる暇はないんです。さっさとお引き取り願います。」
「ああ、大学受験ですか!そちらでしたらワタクシ共の方で大学の推薦枠をご用意させていただきますので!落ちてしまうかもしれない受験より、安心で確実な方を選んでみては!」
「いやです!記事には猪のようなものに襲われたと書いていました。それって多分魔物とかそう言うやつですよね?わたしたち死んじゃいますよ!?」
「いやぁ、そこは『特異能力保有者』の皆様なら安心だと思われますよ?その力があれば!貴女が魔物と呼んだ『特殊害獣』を狩猟出来るかと!」
クソッ、何を言っても通じない。どう切り込んでも飄々と交わされる。
「そもそも私たちは子供です!子供に死んでこいって命令するのが大人たちのやり方ですか!?」
「いえいえそういうわけでは決して!我々は最大限サポートさせていただきますし、もし死亡なされた場合は保険金が親族の方々に対して下りるようになっておりますのでご安心ください!」
「根本的な解決になってません!」
だめだ。ペースに呑まれてる。いま相手するのは分が悪い。
「とにかく!お引き取りください!また後日お伺いいただければ!」
そう言って私は締めくくろうとする。
「......そうですか、では仕方ありません。また後日。」
すると加藤は不気味な程あっさり引く。なんだ、この寒気は。
「いやあ、そこまで嫌がられるのであれば仕方がない。あ、そうそう———」
———貴女の幼馴染の澤田美幸さんは、受け入れてくれましたよ?
そのあと、私は加藤を押し倒し馬乗りになっていた。
「ガッ......!?」
「......今、なんて言った。」
不思議なほど、心は落ち着いている。が、それと同時に心の中で熾火のように燻る感情があることに気づく。
「けほっ......いや......ですので、幼馴染の澤田美幸さんがですね......ワタクシ共の提案を受けていただいたという......」
美幸が、こいつらの、提案を、受け入れた。
美幸がこいつらの提案を受け入れた美幸がこいつらの提案を受け入れた美幸がこいつらの提案を受け入れ美幸がこいつらの提案を受け入れた美幸がこいつらの提案を受け入れ美幸がこいつらの提案を受け受け入美幸がこいつらの提案を受けて美幸がこいつらの提案を受け美幸がこいつらの提案受けた美幸がこいつらの提案受ける美幸が提案受けた美幸が提案受けた美幸が受けた美幸が受けた美幸が受けた美幸受けた美幸受けた美幸受ける美幸受け美幸受美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸美幸
「受けます。」
私は馬乗りを解除して言った。
「おお、ありがとうございます!」
加藤が喜ぶ。私の心には響かない。
「あ、それではこちらの日程でまたお伺いしますので、それではまた!」
そう言って加藤は去っていった。私はそれをじっと見ていた。
「......」
そのままずっと立ち尽くす。何一つとして考えがまとまらなかった。
そして、椅子に座る。そして思うのだ。
「どうして、こうなったんだろう......?」
もう、なんだか色々嫌だ。