蒼炎の心臓
学校帰りに僕はこの世のものとは思えないほど美しい女の人とそれを襲おうとしている赤膚の怪物と遭遇した。
僕は驚愕と恐怖で体が硬直した。
でも、僕は彼女の目を見た瞬間、そんな感情よりも彼女を何としても、それこそ僕の命を散らしたとしても必ず助けなくてはいけない気がした。
女の人にその巨大な腕を振り下ろそうと腕を上げた怪物に僕は鞄を投げ当てて、「こっちだ化け物!」と柄にもなく叫びながら彼女と怪物の間に割り込んで闘いを挑んだ。
怪物は僕の行動があまりに可笑しかったらしくしばらく笑った後、その巨大からは考えられない程の速さで僕の心臓を指で貫いた。
全くもって無意味な行動をして死にゆく僕は、心臓を潰され、口から血を吐きながらも何故か満ち足りた気分だった。
「これは、良い素体だ、、」
後ろで女の人がそう呟いたような気がした瞬間、僕の意識は暗転した。
「あれ?僕は心臓を貫かれて死んだんじゃ?」
目を覚ますと家のベットの上にいた。あまりにもリアルな死の感覚だったから身体中を触ったり服に穴が空いてないか確かめたりしてみた。
「夢、か。そ、そうだよね、あんな化け物現実にいるわけないし。」
そんな奇妙な夢?を見た僕は暫くは学校からの帰り道をビクビクしながら帰ったものの1ヶ月も経つとそんなことは僕の記憶からは消え去り、元の平穏でつまらない日常に戻っていった。
僕は土曜日のある日、母親に家に篭ってゲームばっかりしてないで少しは外に出て遊びなさいと言われ、珍しく街に出歩いていた。
商店街で歩いていると夢の中で出会った女性にそっくりな人が路地を曲がるのを目撃した。僕は自分自身が気持ち悪いと自覚しつつも運命を感じ、彼女の後をつけることにした。
彼女は夢で見たのと同じか、それ以上に美しく見えた。ゆったりと歩く彼女に気付かれないように僕は物陰に身を隠しつつその後をつけた。
ふと、不思議な点に気が付いた。彼女はハッキリ言ってこの世のものではないほど美しい。それなのに、すれ違う人が全く目もくれない。そんなことがあるだろうか?別に美人がいるからと言ってガン見したりはしないにしても、チラッと目配せをする人がいるのがいて当たり前な気がする。それなのに、彼女を見る人は誰もいない。おかしくないだろうか。
そんなことを漠然と考え始めた瞬間、空が空気があらゆるものの雰囲気が変わった。空は血のように赤く、空気は信じられないほど澄んで、少しは感じていた周囲に人がいる感覚が全くもって消え去った。
その瞬間、前を歩いていた彼女の前に化け物が現れた。彼女が何かを呟いた途端、僕の心臓が熱を帯びた。その熱は凄まじい勢いで全身に広がった。
熱い、熱い、まるで身体の中を焼き尽くされるような感覚に僕は堪らず膝をつき、呻き声をあげる。心臓がおかしくなったのかと目を向けると心臓から蒼い炎が立ち上がっていた。
その炎は瞬く間に僕の全身を巡り、体を包んだ。
体がいや、魂が僕に訴えかける。
(彼女を守れ、例えこの肉体が燃え尽き朽ち果てようとも!)
そこからの記憶は曖昧だけど、蒼い炎の化物になった僕は化け物と闘い、そいつを燃やし尽くした気がする。
でも、これだけは覚えている。
「完成だわ、私の炎の従者。貴方は最高の戦士になれるわ」
嬉しそうに悪魔的なまでに美しい彼女の弾んだ声だけは。