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今日、僕は死神になりました。  作者: Aoioto
死者ノ国編
15/17

間話 「躯のお悩み相談室」

一章が終わるまで毎日17時に更新します。

よければ応援してください!

 ――躯のお悩み相談室。

 誰がそう言いだしたのかは分からない。

 だが、困ったことがあれば私に相談するようにと触れ回っているのは彼だと聞く。

 私と仲が良くてそんな噂を吹聴する人間。

 ディーボだ。


「実はご相談があって――」


 何度聞いた台詞だろう。


 だが、内容は様々だ。

 仕事や人間関係の悩みから、未練についての悩み……。

 天気を聞いてくるような人もいた。

 おかげで、最近は書類の処理が遅れている。


「やっほー躯」

「……今は仕事中だ」


 ディーボが部屋に入ってきた。

 彼だけは、私が仕事中だろうとなんだろうと態度を変えない。

 それが嬉しくもあり、仕事と休憩で切り替えている私にとっては厄介でもある。

 一応、部下の前では少しだけ控えめにしてくれてはいるが……。


「そんな冷たいこと言わないでよ。僕と君の仲じゃないか」

「書類がこんなに溜まっていなければ、少しは相手も出来たがな」


 そう言うとディーボは苦笑した。


「それは申し訳ないな」

「そう思うなら、部下に変なことを言うのはやめてくれ」

「迷惑だった? 躯なら、なんだかんだ喜ぶと思ってたんだけど」

「……」


 それは否めない。

 部下とコミュニケーションがとれる機会が増えるということは、正直に言えば嬉しい。

 明日の天気などというふざけた相談が来た時は、そんなに親しみやすい存在になれたのかと喜びを感じたものだ。


「否定しないところを見ると、どうやら図星のようだね」


 ディーボの言葉に頷く。

 本当に、小さい頃から彼には敵わないな。


「躯のいい噂をよく聞くようになって、僕は嬉しい限りだよ」

「……そうか」


 彼なりに、私のことを心配してくれていたのだろう。

 その気遣いは素直に嬉しい。


「あ、そう言えば聞いてよ。最近よくカダベルと遭遇するんだ」

「ああ、遠征が終わったからだろうな」


 この前報告書を読んだ気がする。


「早く次の遠征に行ってくれないかなぁ……ほんっと迷惑」

「どうしてそんなに毛嫌いするんだ? 仮にも兄弟じゃないか」


 カダベルはディーボと似ていて爽やかな人物だ。

 ディーボのことも弟として十二分に可愛がっている。

 少し溺愛しすぎだと思うが……それでも、毛嫌いするほどではないはずだ。


「その()()っていうのが嫌なんだよ。

 僕が小さい時に死んだから兄って気もしない。

 でも向こうが弟として扱ってくるから……モヤモヤするし、きつく当たっちゃうんだよ」

「そうか……」


 彼には彼なりに理由があるらしい。

 それはそうだ。

 彼は理由もなく人を毛嫌いしない。

 むしろ、理由があってもこんなに露骨には毛嫌いしないだろう。

 ……そう考えると無理せずに接することができる関係なんだとも思えるな。


「どうせ、もう少しの辛抱だ」

「ええぇ! 今すぐアイツに遠征の仕事を振ってくれよ」


 躯ならそうしてくれると信じてたのに……と泣き真似をするディーボ。


「そう言われても、権力をむやみに使うことは避けるべきだ」

「僕の頼みだよ? 王様なんだから、ちょっとくらい私的に使ってもいいと思うんだけど」

「……駄目なものは駄目だ」


 そう言うと、ディーボは諦めたようにため息を吐いた。


「まあ、躯なら断ると思ってたよ」

「じゃあどうして頼んでみたんだ……」

「いやだなあ、万が一ってこともあるだろう? 一応さ、一応」


 そう言うと、ディーボは部屋を後にした。





「……そろそろ、休憩するか」


 気づけば休憩時間を迎えていた。

 今日はいつもより集中できていたようで、傍らにある茶は少しも減っていなかった。


 背伸びをして、縁側へと向かう。

 残った茶も持っていく。



 空を見ていると、ディーボのことを思いだした。


 ……私に、何かできることはないだろうか。

 さっきはあんな風に突っぱねたが、ディーボのことは友人のような存在だと思っている。

 できれば彼の力になりたい。


 ディーボとカダベルは、短時間の接触を多く繰り返している。

 お互い仕事があるから仕方ないし、まずディーボが逃げているからだ。


 ……おそらくだが、彼らにはそれが逆効果なのだろう。

 短時間の接触では、表面上でのやり取りしか出来ない。

 表面上での相性が悪いのなら、繰り返したところで関係は悪化するばかりだ。

 いっそ、長時間一緒にいたほうが相手のことを多く知れるんじゃないのだろうか。

 仕事としてならディーボも逃げられないだろうし、遠征のパートナーにするのも一つの手だ。


「ディーボの言う通り、私的に権力を使うのも悪くないかもしれないな――」


 ふと、視線を感じて振り返る。

 全身の血が冷え渡って、動悸が高まった。


 誰もいない。

 ……そうだ、いるはずがない。

 あの人達が現れるのは、日が暮れてからだ。

 そういう制約がある。

 それなのに、こんな昼間から警戒してどうする。

 空はこんなに澄んで、小鳥のさえずりが聞こえるだけの空間。

 平和、そのものだというのに。

 

 茶で喉を潤す。



 ……ディーボには、兄弟と仲良くしてほしいと思う。

 もう死んだんだから関係ない……とは言わずに、家族は大切にしてほしい。

 せっかく、同じ死神として出会えたんだから。


 私の権力を使って、何かできないだろうか。


「……そう言えば、カダベルはまだ遠征の仕事が決まっていなかったな」


 なら、私ができることはただ一つ。

 結論が出た頃には、茶を飲み干していた。

次回「カル」


お読みいただき、ありがとうございます。

躯がコープスにディーボの名前を出した理由がこれです。


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