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今日、僕は死神になりました。  作者: Aoioto
死者ノ国編
10/17

第十話 「遠征」

一章が終わるまで毎日17時に更新します。

よければ応援してください!

 ☆



 月日が経って、死神の仕事にもだいぶ慣れてきた頃。

 俺の部屋に躯が来た。


「む、躯さん!?」

「久しぶりだな。今、時間あるか?」

「は、はい……」


 俺、何かしたかな……?


「すみません、お茶も出せずに」

「お茶? 喉は乾いてないから気にしないでくれ」


 いや、そういう問題じゃなくて、一応礼儀なんだよな……。

 って、それは人間ノ国だけだったか。


「たまたま通りかかったから、近況を聞きたくて寄ったんだ」

「そうなんですね。気にかけてもらえて嬉しいです」

「最近どうだ?」

「上手くやれてます。仕事も順調で、戦い方や守り方も分かってきました。

 生活も、かなりサイクルが決まってきましたね。

 あと、死者ノ国の住民とも仲良くなれました」

「そうか」

「はい。あ、もちろん調べ物もしてます。

 発音の原理が分かったので、全言語を聞き取ることはできるようになったはずです。

 あと、最近は異形について学んでます」


 そう言うと、躯は意外そうな顔をした。


「異形が気になるのか?」

「はい。ああいうのが実際にいると思えば怖いですけど、色んな種類の人がいるんだなあ……って勉強になってます」


 ……個人的には、全言語を聞き取れるようになった方に食いついてほしかったなぁ。

 なんて思ったことは言わないでおこう。


 異形と言うのは、突然変異みたいなものだ。

 手足の数が多かったり、身体の一部が異様に大きかったりする。

 遺伝とかは関係なく、ごく稀にそういう人が生まれてるらしい。


「そうか。

 図書室のものだけでは資料が少ないだろうし、今度、異形についての文献を貸そう」

「ありがとうございます」


 その会話を最後に、沈黙が訪れた。

 話題がない。

 なんだろう、久しぶりに話した親戚と二人きりになった時みたいだ。


「コープス、未練の方はどうなってる?」

「未練、ですか……」


 最近はすっかり忘れていたな。

 仕事と生活、勉強に集中していたから、仕方ないと言えば仕方ない。


「お前の未練を聞かせてくれないか。

 私の方でも協力したい」


 躯の言葉に驚く。

 彼は、俺よりも俺の未練に向き合おうとしてくれている。

 優しい人なんだな……。


「……これからの未来に存在したかった。

 それが、俺の未練だと思います」


 大した未練じゃないんですけど。と付け足す。


「そうか。……それは、難しい未練だな」

「ははは、ですよね……」

「私の方で、似たような事例がないか探してみよう。

 進展があれば報告する」

「あ、はい。ありがとうございます」

「ああ。……それと」


 そこまで言うと、躯は真っ直ぐ俺を見た。


「死者ノ国に強制送還されないということは、そう簡単なことじゃない。

 お前の未練は、十分、大したものだ」

「……」


 これでも、勉強はしてきたつもりだ。

 当然、俺の未練が強いことも分かってる。

 だけど、それでも素直には頷けなかった。


「……お前の方でも、未練について何か進展があったら報告に来てくれ」


 そう言い残して、躯は部屋を出ていった。


「ま、待ってください!」


 せめて、言葉を掛けてくれたことへの礼をしないと。

 慌てて躯の後を追い、部屋を出る。


「……あれ?」


 もう、躯の姿はなかった。

 代わりに、銀髪の女性が立っていた。

 躯に掴みかかって、挙句の果てには俺に舌打ちした怖い人――


「ひぃっ」


 思わず頭を下げる。

 怖い人にはお辞儀、または土下座が一番だ。


「ちっ」


 あ、駄目みたいだ。


「あの……俺、何かしましたか?」

「……お前は、躯に特別扱いされてるから嫌いだ」


 目障りだ。

 そう言い捨てると、カルは踵を返した。


 ここを通りたかったんじゃないのか?

 ……まあ、いいか。

 いつか殴られそうだし、近寄らないようにするのが無難だな。


 それにしても、特別扱いか。

 ディーボもそんな風に言っていた気がする。

 そりゃあ、俺の部屋にまで来てくれるんだもんな。


 どうして気に入られてるんだろう。

 単純に、性格的な相性か?

 それか、誰かに似ているとか……。

 やめよう。

 考えるだけ無駄だ。


 今日はもう寝よう。



 ☆



 それは、いつものように仕事を受けに行った時のことだった。


「こちらになります」

「はい」


 いつも通り、対象についての書類を受け取る。


「吸血鬼ノ国……珍しく、遠い場所なんですね」

「はい。躯様が、もうこのくらいの仕事はこなせる段階にいると言われたので」


 なるほど。

 昨日は俺がどのくらいの仕事が出来そうか、わざわざ見に来てくれたんだ。


「吸血鬼ノ国と言うと、遠征になりますね」

「はい。ですので、パートナーと仕事をしてもらうことになります」


 パートナーか。

 そう言えば、パートナー項目に俺の名前が書かれている。

 ”カル”という名前も。

 おそらく、この人がパートナーなのだろう。


「あの、カルさんってどこにいますか?」

「あちらです」


 振り返る。

 そこには、銀髪の怖い人が……。


「じ、冗談ですよね?」

「いいえ」

「私に何か不満があるのかよ?」

「ないです、すみませんでした」


 だからそんなに睨まないで……。


「行くぞ」

「はい……」


 仮病で休もうかな。

 あ、俺死んでるんだった。


 そんなくだらないことを考えながら、俺はカルと屋敷を出た。


「お前、名前は」

「コープスです」

「あっそ」


 興味ないなら聞くなよ。

 そう言いたいが、カルは先輩だ。

 迂闊なことは言えない。


「早く飛べ」

「は、はい」


 ここで過ごし始めて、こんなに感じの悪い人は初めてだな。

 ディーボや躯だけじゃなく、死者ノ国の住人は大体優しい。

 だから、油断してた。

 まあ、これはこれで新鮮だと思おう。


 吸血鬼ノ国か……どんなところだろうな。


「今回の任務は、一週間ほどの監視。

 場合によっては護衛だ」

「殺さないんですか?」

「馬鹿か。対象はまだ死なない」


 どういうことだ?

 不思議に思い、書類に目を通す。


 本当だ。

 死亡予定時刻はまだまだ先。

 少なくとも、これから百年は死なないだろう。


 ん?

 書類が二枚ある。

 一枚目の写真と似たような顔つきだが、少しだけ大人びている気がする。


「そっちは監視、場合によっては殺す」

「……なるほど」

「死因に戦死と書いてある通り、書類の二人は戦う。

 勝敗の調節だと思えばいいが、現場は私が指揮するから難しく考えるな」

「はい」


 意外と親切に説明してくれるんだな……。


「それとお前、書類くらい目を通せ」

「……はい」



「すっかり夜になりましたね」


 ずっと飛び続けていると、いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。


「前が見えないか?」

「いや、見えます」

「そうか。なら、このまま飛び続ける」

「……はい」


 気持ち的には疲れたが、身体は疲れていない。

 なるべく早くに着きたいだろうし、我儘は言えないな。


「……勝敗の決められた決闘なんて、本人が知ったらどう思うだろうな」


 ふと、カルが言った。


「俺なら、馬鹿らしくなりますね」

「だろうな。……私もだ」


 手の平で踊らされているという表現が、まさに正しい。

 嫌だな。

 戦おうと思った矢先に、自分が死ぬなんて知ったら。


「生死に関わるものは、全て死神によって調整される」


 決まっていることだとはいえ、そう考えると気まずいな。


「どうすれば、死神の調節を受けずに済むと思う?」

「え、そんな方法があるんですか?」


 死神に協力してもらって、不正をするとか?

 でも、リスクが高そうだ。

 現実的ではない。


「ああ、簡単な話だ。死神より強ければいい」

「それは……」


 そうだけど。


 でも、一人倒せばまた新しい死神が現れるだろう。

 死神のトップと張り合えるくらいじゃないと。


「強さが全てだ」

「ま、まあ確かにそうですね。その話では……」


 そう言うと、カルは俺を睨んだ。


「この話だけじゃない。全てだ」

「え」

「弱い者に権利はない。だから、お前が危機に陥っても私は助けないからな。

 当然、私のことも助けなくていい」


 それが言いたかったのか。


「……分かりました」


 彼女の言いたいことも頷ける。

 死神がパートナーで行動する最大の理由は、片方が消滅、または苦戦を強いられている時に、もう片方が報告に戻るためだ。

 報告しないと、誰が消滅したか分からないのだ。


 消滅とは、文字通りこの世界から消えること。

 転生することも、地獄に行くことも叶わない。

 勿論、死体も残らない。


 だから、ピンチであればあるほど、仲間を見捨てなければならない。

 死神の仕事は、そういうものなのだ。


 馴れ合いはしないほうがいい。

 見捨てる時、躊躇してしまうかもしれないから。

 そう考えるのなら、カルの態度の悪さにも頷ける。

 それに、彼女はなんだかんだ丁寧に教えてくれる人だ。

 もしかすると、そういう理由で悪態をついているのかもしれないな。


 月明かりに照らされたカルの奇麗な髪を見つめながら、そんなことを考えた――

次回「吸血鬼ノ国」


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