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今日、僕は死神になりました。  作者: Aoioto
死者ノ国編
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第一話 「死」

一章が終わるまで毎日17時に更新します。

よければ応援してください!

「あー、今日も疲れた」


 部活帰り、俺はいつものように呑気な独り言を零していた。


「……それにしても、寒いな」


 冬は帰るころには真っ暗だ。それに、寒い。

 練習で汗だくだった俺の身体が冷えるのに、そう時間はかからなかった。

 早く、春よ来い。

 俺の好きな夏よ来い。

 女子の服装が一番かわいい秋よ来い。

 俺の誕生日がある冬よ来い。

 ……って、思わず冬に戻ってしまった。


「結局、今が一番なんだよなー」


 あ、俺、今すっげー深そうで浅いこと言った。

 恥ずかし。

 一人の時でよかった。


 ……いや、待てよ?


 俺が賢いから深そうで浅いと思ってしまうだけであって、馬鹿な奴なら深いと思うかもしれない。

 幸いにも、馬鹿な奴には心当たりがある。


 さっそくスマホを取り出して、幼馴染と言う名の”馬鹿”にLIMEを送ることにした。


『なあなあ』

『なんですかー』


 即レス。

 どうやら、ちょうど暇だったらしい。


『結局、今が一番だよな』

『え? あ、うん』

『どうよ、深くね?』

『うーん、深そうで浅い。いや、やっぱり限りなく浅いよ』


 まじか。

 思わぬ返答に言葉を失う。


『ん? 拓真さん?』

『おーい、既読無視するなー』

『深いって勘違いして言っても恥ずかしくないよー』

『ねー』

『見てんのに無視すんなー!』


 しまった。あまりのショックにぼーっとしていた。

 アイツは拗ねたら、機嫌を直してもらうのに苦労する。

 慌てて返信する。


『悪い、ショックで』

『はあ? メンタル豆腐じゃん』

『はい、俺は豆腐です』

『なにそれw

 なら、明日醤油かけて食べちゃおーっと』

『それは勘弁』

『はいはい。 じゃあ、代わりに明日の放課後は私に付き合ってくださーい』

『しょうがないなあ』


 なんだろう。

 愚痴でも聞かされるのだろうか。

 それとも、勉強会でもするのか?

 いやいやいや、アイツに限ってそれはない。

 それなら、ゲーセンとかカラオケに行く可能性の方が高いな。

 ……明日は、いつもより多めに金を持っていかないとだ。


『話変わるけどさ』

『おう』

『拓真は、大人になったらどの国に行ってみたいとか考えてるの?』


 どの国に……か。


 ふと、視線を上げる。

 遠くには、もう見慣れてしまった高い壁が見えた。


 正直、あの壁の向こうに、話に聞くような国があるとは思えないんだよな。


 俺の住んでいる人間ノ国では、成人してから初めて国外に出ることを許される。

 子どもうちに国外へでることは、たとえどんな理由があっても法律違反で許されていない。

 人間は能力を持たずして生まれてくるのがほとんどだ。

 他種族に比べれば非力で、武器の扱い方をしっかりと教えてくれる学校は少ない。

 しかも、そういう学校は学費が高い。

 成人してある程度知識を蓄えて分別がつくようになれば、地図を使って異国に行くこともできるらしい。


 知識も力も分別もつかない子どものうちに外に出ると、魔物や盗賊に襲われるのが関の山だ。

 他国の人攫いに捕まる可能性も十分にある。

 子どもが襲われると、親が騒ぐ。

 親が騒ぐと、国が騒ぐ。

 その結果、戦争が起きる可能性も低くはないんだとか。

 だから、国は子どもが国外に出ることを固く禁じている。

 国外へと続く門を一つにするために、人間ノ国をあの高い壁が囲っているのだ。


 政府は、子どもが他国に関心を持たないようにしている。

 街中で他国の話をしてはいけないとか、他種族にきつく当たれとか、そういうものじゃないけど、教育に他国の話を組み込むのはタブーとされている。

 あと、一応、公共の場で他国の写真や風景画、映像を見せるのもタブーだ。

 他国の書籍も、記録も一般的には公開されていない。

 そういうこともあって、全く想像ができないのだ。


 さて、どう返信しようか。

 「俺は特に考えてないかな」と言ってしまえばそれだけだが、この手の話にそういった答えをするのは、いわゆる”ノリが悪い”に分類されるだろう。

 そうは思われたくない。


 あ、そういえば、この前すれ違ったエルフ族のお姉さんが美人だったな。

 何とは言わないが、なかなかに見ごたえのあるものを持っていらっしゃった。

 よし、エルフノ国にしよう。


『エルフノ国』

『お、私もエルフノ国に行きたいって思ってたんだよね』

『あーいいよな、エルフは美人が多そうで』

『うわ……。私は変態の拓真とは違う理由なんですけど』

『なんで行きたいんだ?』

『お母さんを探したいから』


 ああ……そういえば、アイツの母親はエルフだった。

 詳しくは知らないが、モラハラな父親に耐えかねて家出したって聞いた気がする。


 ……。

 それにしても、気まずい。

 なんて返信すればいいんだ。


『成人したらさ、一緒に行こうよ。ついでに、私のお母さんも一緒に探してくれると嬉しいな』

『おう。絶対見つけような』


 追いLIMEのおかげで変な空気にならずに済んだ。

 もしかして、俺が返信に困らないように配慮してくれたのだろうか。

 普段は抜けてるけど人の気持ちには敏感で、気をつかってくれる。

 そんなところが好かれて、アイツはクラスの人気者だ。

 クラスの中心で笑っているアイツを見ると、安心する。

 時々表情が暗くなるのは、きっと母親のことを考えているんだろう。


 アイツの母親、見つかるといいな……。



 ん? 視界の横が妙に明るい。

 明るいを通り越して眩しいぞ。

 懐中電灯でも当てられてんのか?


 横を見ると、車がすぐそこまで迫っていた。


 まずい、避けないと__

 だが、今更気づいたところでどうしようもない。


 次の瞬間、俺の身体は宙を舞った。





 あー、これ死ぬわ。


 頬が生暖かくなったと思ったら、どんどん血だまりが大きくなっていく。

 まじか。これ、全部俺の血?

 笑えない。

 気持ち悪い。


 明日、アイツに放課後付き合ってくれって頼まれたのに……。

 大人になったらエルフノ国に一緒に行くって、約束したのに。


 俺、このまま死ぬんだよな。

 卒業もしてないのに。

 まだ若いのに。


 俺に、明日はない。

 これからの未来に、もう俺は存在できないんだ。


 その事実が、物凄く悲しかった。

次回「現状理解」

目を覚ますと、俺は見慣れた高校の前に立っていた__



お読みいただき、ありがとうございます。

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