ギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシ
おそくなりましたじゅけんべんきょうやだきらい
ギシッ…ギシッ…
ギシッ…ギシッ…
ギシッ…ギシッ…
足元から響くきしんだ床の音。足を前に出すたびに紡がれていく譜面。その音を聞き、三人はどうしょうもない不安に蝕まれていた。それはなぜか?三人分の足音しか聞こえさないからである。それどころか目の前の少女は頭を上下させることなく滑るように、まるで浮遊しているかのように移動する。そのことが三人を言いようのない不安に掻き立てる。
よくある都市伝説のように自分は眠っており、これはショックを紛らわせるために自分が見せた夢なのではないか?
本当はここは彼女の怨念が生み出したダンジョンなのではないか?
ここは彼女の故郷であり、彼女を愛していた誰かが遺体を利用し彼女の無念を晴らすため、自分たちを罠にはめようとしているのではないか?
次々に浮かぶ恐ろしい思考。現代日本であればそんなことは科学的にありえないと笑い飛ばすところである。しかしここは異世界。魔法もなんでもありのとんでも空間で、法則を誰も理解していない未知の世界である。実際にそのようなことがあり得る。故に彼女たちは恐怖を感じているのだがそれと同時にルナからであれば呪い殺されてもいいかもしれないという思いもある。それだけのことをしてしまったという自覚があるからだ。
ギシッ…ギシッ…
ギシッ…ギシッ…
ギシッ…ギシッ…
何一つ語ることなく、静かに粛々と歩く。夏は木張りの床はあまり好きではない。夏達が通っていた高校はふる…ゲフンゲフン。歴史があり、廊下の一部が木張りだったのだ。そのせいか木張りの床を見ると学校を思い出してしまいホームシックになる。ふと視線を上げるとSLの模型がガラスケースの中を走り回っている。これは校長が趣味で買ってきたもので、ロボット部の人達がよくいじってたなぁと懐かしくな…あら?ここ中世ファンタジーの世界よね?なんで現代のものがここに?
夏 は 違和感 を 感じた
加穗留は沈黙に耐えきれずなんとなしに窓から外を眺める。目の前の少女から目をそらすことは逃げなのではないか?そんな思いを感じながらもついそらしてしまう。外には満開の桜。元いた世界の高校の周りには桜が植えられ、春が終わると大量の花びらが地面に落ち、教員玄関前の掃除が面倒くさかったなぁと懐かしさに寂しげな笑みを浮かべ…あれ?この世界は西洋ファンタジーで、クラスメートが調べたところによると桜なんてなかったはず。なんでこんなにいっぱい生えているの?
加穗留 は 違和感 を 感じた
小さな少女。頭を動かさずに、まるで滑るように移動する少女。彼女の姿を見るとなんとなく抱きついたときよりも小さく感じるなぁ…
香里奈 は のほほん と した
ギシッ…ギシッ…
ギシッ…ギシッ…
ギシッ…ギシッ…
ギシッ…ギシッ…
「「「!?」」」
「…何を考えているのかはわかりませんが、その誰かが死んみたいな顔を見るとどうせろくでもないことなのでしょう。ボクもあなた達も生きています」
いつの間にか加わった一人分の音。考え事をしていたゆえに気付くことができなかった。しかしそんなことなどどうでもいい。ルナが話しかけてくれた!そのことに歓喜を感じ顔を上げると、まるで凍りついたように動きを止めた。
見慣れた横に引くタイプの扉。
外から室内に注ぐお昼の日差し。
散乱した箸、弁当、ペットボトル。
窓から覗く規則正しく並べられた机。
手前で元気に泳ぐメダカの入った水槽。
ルナが着た、小さめの制服。
端が切り取られ、落書きされ、穴が空き、ボタンが足りず、血の滲んだ男子の制服。
いつも見に入り、いつも見ていなかった異常な制服。
ルナと初めて会ったときに、ルナが来ていた制服。
「…それ誰の?」
「ボクのものです」
「…どれくらい着てた?」
「高校入ってからずっとですよ」
「…転移?」
「半分転生で半分転移です。体は転移する過程で神に体を作り変えられたので乗っ取りではありません」
「だから運賃とか切符とか言っていたのね」
「神から直接聞いたので間違いないですよ」
三人は代わる代わる言葉を紡ぐ。ルナは感情のない声で淡々と答える。ここで会話が途切れ、重い沈黙が落ちる。今の会話で気が付いたが、確認することが怖く口火を切れないでいる。
三人は俯き、唇を、体を震わせる。
聞くことが怖い
罵られることが怖い
はっきり拒絶されることが怖い
それ以上に自分の罪を認めることが怖い
彼女たちは実行犯ではない。関わることなくただ知らないふりをして目を逸らし、逃げていただけだ。しかし、頭に浮かぶのは傍観者という言葉。学校のいじめ防止講座で必ず学ぶ見て見ぬ振りをする人で加害者に含まれる。
ここで聞き、答えを聞いてしまえば自分が人殺しであると認めてしまうことになるのではないか?そんな恐怖が彼女たちを蝕む。
堪えきれず、そうでないと否定してほしい。そんな一筋の希望を信じ、自分を肯定するために香里奈は口を開いてしまった。
「ルナ…月見瑠那君」
「はい」
「香里奈!!」
「まって!!」
「あなたは…死んだの?」
「はい」
グラリと視界が揺れた。
受験勉強のため休載中…




