現実…ミタクナイナァ…
おそくなったぜよ!
「…今回は未知数だ。何もわからないからこそ上層部は最高戦力であるお前たちの投入を決定した」
僅かな沈黙の後、アレクは重々しく口を開いた。その一言で部屋にいた一同はザワつく。
「未知数ってどういうこと?」
香里奈が心底不思議そうな顔でたずねる。その言葉はこの部屋にいる者達すべてが持つ疑問である。
未だ駆け引きができず、フィジカル任せにぶん殴っている勇者達は対人戦ができない。いや、もし相手を翻弄技量があったとしても、平和な日本の価値観が尾を引き、出来ないだろう。故に対人戦は危険だと判断され、今の彼ら、彼女らに任される任務は強力な魔物の討伐のみであると始めに告げられていた。
魔物はものによっては国家を転覆させかねない程大きな力を持つ。たとえ辺境の農村であっても、いくつも滅びたという噂が広がれば国民から王への信頼は揺らぎ、国家は立ちいかなくなる。滅びなかったとしても被害が大きければ、被害者に対する補助や兵士の武器などの整備、治安維持のための部隊の編成など支出が増え国庫はあっという間に空になる。
にも関わらず貴族は魔物の素材の独占や名声の獲得、派閥争いなどくだらない理由で中央からの軍の派遣を拒む。仮に秘密裏に派遣したとなれば政治の場で激しく非難される。だからといって放置し被害を出せばなぜ国軍を派遣しなかったと避難されるのは火を見るより明らかだ。
そんな理由があり、国の上層部はまだ顔の割れていない勇者を流れの凄腕冒険者として秘密裏に派遣、国家転覆クラスの魔物を討伐させているのだ。
そのことに勘付いている貴族もいるだろうがそういったものたちは皆優秀なので、自分の被害を最小限に抑えられ、貴族の面倒ないざこざも発生しない便利な道具と考え黙っている。むしろ大いに利用し領地の問題を一気に片付けるようなつわ者さえ存在するのだ。
しかしそれはごく一部であり気がついていないものが大半だ。故に下手にバレて便利な戦力を失いたく無いから目立つような行動は控えたいというのが上層部の総意である。よって魔道具や密偵などを使いきちんと調べ上げた上で、これ放置する事はできないと判断された場合の最終兵器として投入されるのが勇者である。つまり危険度が未知数にも関わらず送られることはいつもならあり得ない事なのだ。
「隣国で先日大規模な魔法が確認された。しかし、発動する前どころか発動中も大規模な魔力の収束は観測されなかった。それなのに発動したのは国境からも観測できる程の大規模魔法。これが戦争に投入されたら?」
「…やばいね…」
蚊の鳴くような声で夏が呟く。
「突然巨大な氷が冒険者ギルドと思われる建物を飲み込んだ瞬間を多くの兵士が確認している。その後精神系統の魔法による幻覚では無いことは複数の魔道具並びに魔法使いによって確認した」
「えっと?ってことは…ラノベとかのテンプレで考えると?お隣さんちの実験をたまたま目撃したか」
「隣国からの脅しということか?」
「そういうことだ。そして我々は…脅しであるという判断を下した」
加穗留の言葉を夏が引き継ぎ、アレクが脅しと告げると意味を理解した約半数が青ざめた。
「…開戦が近い」
香里奈の呟きにより理解したもう半分の顔からサッと音を立てて血の気が引いた。
「訓練にしては明らかに情報を見せ過ぎている。なんらかの魔道具の暴走の線も考えたが魔力の収束を感知する魔道具に反応がないことから『暴走』である可能性は皆無だ。しかし、正常に動いたからこのような現象が発生した可能性はある。とはいえどれも推測の域を出ない。故に未知数だ。聞こう。我こそはと志願するものはいるか!」
勇者は皆顔を背ける。これまでであれば自分が!と皆志願し、大騒ぎしたであろう。しかし今は誰もが心のなかで押し付け合いをする。こんな状況となったのは、先の遠征で最高戦力たる管崎が右腕をを失い帰還したからだ。
気取らぬように
目立たぬように
誰一人傷つけぬように
虐めぬように
殺さぬように
そういった理由から勇者は3人一組での行動を義務付けられている。今回、管崎達は相当な戦力が必要と判断され、全員攻撃特化のメンバーで出陣ということになった。
管崎は最高戦力というだけあってかなり強い。対魔物戦力と考えれば国内最強である。討伐に向かった魔物も格下ということで皆楽観視していた。
回復メンバーなんかいなくても余裕っしょ!
っと。彼らも同じように考え、最速で目標を達成し王城に帰還するため体力があり攻撃に優れたものを集め出撃して行った。その結果が一人は右腕欠損、もう二人は傷だらけでフラフラという有様である。
どんなに強かろうと、一瞬の油断で食い殺される。
どんなに強かろうと、心が負ければ死んでしまう。
この世界のルールを目の当たりにした高校生に、戦う気力は残っていなかった。
※ギルド内で強力な結界とかが発動しているのに感知されなかったのはルナとベルの氷によって魔力が遮断されたから。




