団長の休暇 その1
「こんにちは!」
「こんにちは。一人で訓練か。頼もしい限りだ」
「あっありがとうございます!」
「こ〜ちゃ〜」
「こんにちは。配達ご苦労さま」
「いえいえ〜これが私の仕事ですから〜」
こんな早い時間にからぷらぷらと散歩するのは初めてだが、随分色々な人に話しかけられる。こんな無愛想な筋肉ゴリラの何がいいんだか?
そう考えながら少し嬉しそうな苦笑いを浮かべる。
全く何が団長働きすぎです!だ?今はお隣のバカが勇者召喚なんかして大騒ぎ。やることが山のように溜まっているのに、私はこんなところを当てもなく歩き回って…あれ?私もしかして厄介払いされたのか?
打って変わって軽く青ざめる。
「やはり戻るべき?いや、アイツラに嫌がらせをしたいわけじゃない…もう戻らないべきか?」
「…団長?また変なこと考えてますね…」
近くから声をかけられ、驚き顔を上げると幼馴染がいた。思考に没頭しすぎたのか接近に気が付かなかった。最近書類仕事ばっかりで鈍っているのかもしれない。これは部下から厄介払いされても仕方ないな…
「団長?何ひとりで更に沈んでんですか?地下深くにまで潜って石炭でもとってくる気ですか?」
「…私はもう団長ではない。部下から見限られたただの筋肉ゴリラだ…」
幼馴染の皮肉にも全く反応を見せずさらに深くへと沈み込む団長。そんな彼女を見慣れているのか呆れたようなため息を吐き、額に手を当て軽く顔を伏せる。
「団長?沈んで石炭とってくるのは街としてありがたいですが、団長が居なくなると困ったり悲しんだりする人がたくさんいるのでやめてください」
「…だが私は厄介払いされた身だぞ?」
「団長?タイムカードに記入した昨日の勤務時間って何時間ですか?」
この国の全騎士団、並びに任意だがほぼ全てのギルドにタイムカードの制度が導入されている。これは私と双璧をなすこの町の筋肉、冒険者ギルドのギルマスによってもたらされた異世界の知識だ。
「たしか…にじゅう『団長?もー帰って寝ろ!!』ピッ…」
突然の大声に団長は驚き、会話を聞いていた街の人達はうんうんと大きく頷く。
「団長?まさか執務室に泊まったとか言いませんよね?あそこ防犯のため宿泊禁止だって規則知ってますよね?」
その言葉に、団長から信じられない量の汗が流れ出す。顔も引きつり、目も若干そらされた。
「だ〜ん〜ちょ〜?」
「きっ気がついたら鍵がかけられていて出られなかったのだ!!いや!鍵をかけたものが悪いのではなくて…その…」
一気に言い訳を捲し立てるも、途中で誰かのせいにしておることに気が付き言い淀む。
「団長?私は…あなたのことを信じてますよ?だから正直に言ってください」
「…施錠頼まれたけど仕事に没頭してたら朝になっててしてませんでした!!すみませんでした!!」
なにか吹っ切れたのか、頭を下げながら大声で謝罪する。
「…団長?昨日私のところに鍵を取りに来たのが朝の1時くらいで、追い出されたのが今日の5時過ぎくらいだから…勤務時間は40時間?あんた馬鹿なの?ゴリラかと思ってたけど実は馬車馬だったの?」
「ばっ馬車馬はいくらなんでもないじゃない!」
「団長?そう呼ばれたくないなら1週間分の勤務時間のノルマ2日で達成しないでもらえる?」
「あたし頑張ったんだよ?隣のバカが勇者召喚とかするからその処理頑張ったんだよ!?なんであたし怒られなきゃなんないの!?」
「団長?働きすぎだからもっとサボってもらえないかな?アンタ見てあぁ〜騎士団って大変なんだなぁ〜とか思う人増えて志願者減ってんだからサボってしばらく遊んでもらえる?」
「なっ!?あっあたしってそんなに邪魔なの!?」
「団長?邪魔じゃないの。頑張りすぎるのが悪いの?わかる?アンタがめっちゃ働くから部下も休めない空気ができてみんなの勤務時間やばいことなってんの!」
「結局邪魔って言ってるようなもんじゃん!わ~ん傷ついた!傷つきました!!」
「団長?あんた一人が傷つくことより全体のことを優先するのが組織ってやつなの?わかる?だからあんたがどれだけ傷つこうが私以外に関係ないんだから!」
「っ〜!?言ったなこいつ!!もーあんたのことなんかだ〜〜〜〜〜いっきらい!!」
「あ!?言っちゃいけないこと言い上がった!!いいもん!あんたがそんなこと言うんだったらこっちにも考えがあるもん!!」
「どんな考えがあるっていうの?」
「まず今日添い寝するとき前にあんたと一緒に作った抱きまくらだいて寝てやる!」
「うぐっ…」
「あと晩御飯のとき隣じゃなくて反対側の席に座ってやる!」
「うぐぐっ…」
「ついでにお風呂で背中流さずに見てるだけにする!!」
「うぐぐぐっ…」
団長は苦しそうなうめき声を上げ、まるで信じていた部下から刺されたときのような苦悶の表情で幼馴染を睨みつける。
対する幼馴染は勝ち誇ったように胸をそらしながらも、その表情は形を取って無理矢理くっつけたような引きつった笑みだった。
「それが嫌なら…何か言わなきゃね?」
「…ごめんなさい…」
「私も意地悪しちゃってごめんね?」
互いに謝罪し合ったあと、どちらからともなく抱き合う二人。しばらくすると周りからの生暖かい視線に気が付き慌てて距離を取る。しかし繋がれた手を決して離す事はなく、二人仲良く逃げていくのであった。
…おかしい
なぜ1話の予定だった話がこんなに長くなってかつ百合百合してんだろう?
あれれ?私は一体どこで道を間違えたんだ?




