第92話 ひとつの疑問
「グレス、鑑定してくれ」
グレスは俺が持ってる“玉”を鑑定した。
「ドラゴンブラスト‥‥本当にヒュドラのブレスが使えるみたいだ。旦那、どうしますか?」
それを聞いて、レオは笑いながら首を横に振った。
「そんな物を俺が使ったら、一瞬で魔力が枯渇して死んでしまうよ。五条、君にしか使えないはずだ」
そう言ってレオは断った。確かにそうかもしれない‥‥‥それに、こんな物が使えるようになれば余計に人間離れしていくからな。
俺はドラゴンブラストの“玉”を亜空間にしまった。
「五条の話は分かった。俺は信じることにするよ。その上で今後どうするか話し合いたい」
全員の視線がレオに集まる。
「これから軍部に討伐の報告をしに行く。問題は五条のことをどう報告するかだ」
部屋は静まり返ったが、王はなんのことだと言わんばかりにレオに噛みついた。
「何が問題なんだ!? ありのまま五条が2体の“統率者”を討伐したと言えばいいだろう!」
「そんな単純な話じゃない」
レオがそう言うと、王は困惑した表情になる。
「五条の能力は強力過ぎるんだ。グレスから話を聞いたが、どんなセキュリティも簡単に突破して入れるんだろ?」
「まあ、そうなるかな」
みんなの前で能力を使ってるからな。否定するわけにもいかない。
「そうなると、各国は問題視するだろう。一切の防衛ができず国の中枢まで簡単に入れてしまう強大な戦力だ。ドラゴンどころじゃない」
レオの言うように余計な恐怖を与えそうだ。
「瞬間移動や時間を止める能力を隠したとしても、規格外の戦力をもってることはすぐに明るみになると思う。そうなれば五条にとってプラスの状況になるとは考えにくい」
「それはそうかもしれないが、五条は中国の“統率者”も倒したんだぞ! 中国政府は公表しなかったが、本来は”朱雀”ではなく五条が賞賛を受けるべきだったんだ」
王は中国政府に“統率者”を倒したのは俺だと言っていたらしい‥‥‥。当然、認められるわけないんだが。
「気持ちは分かる。だが問題はそれだけじゃない」
「まだあるのか!?」
王が心配そうに聞き返す。
「これは五条だけじゃなく、俺たちにも関係ある話なんだが‥‥」
レオは深刻な顔をして話しはじめた。
「今、世界中で“異能者”と呼ばれる者が増えてきている。“魔素”が世界に溢れたのが原因と言われているが、いずれにしろ一般人の中には異能者を差別的に見る人も増えてきた」
「まあ、異能者の能力を使って犯罪を起こそうとする奴らもいるからね。しょうがないかもしれないけど」
カルロがレオに同意する。
「そして問題は、イギリスの討伐が成功したことだ。イギリスよりも強い魔物がいる国は無いと言われている。つまり今後、世界は平和に向かっていく可能性が高い」
「平和な時代に兵士はいらないということか?」
王が少し落ち込んだようにレオに聞いた。レオもまた暗い顔で言葉を続ける。
「“朱雀”がいる中国はまだいいかもしれない。共産主義の社会だから政府の意向が尊重されるだろう。だが、我々がいる民主国家は良くも悪くも民意が重要なんだ。国民が望めば、異能者への差別は加速するかもしれない」
部屋は重苦しい空気に包まれる。
「五条を守るためにも報告はしない方がいいって、そう言いたいんだね」
カルロの言葉にレオが頷いた。
「五条は俺たちの命とイギリスを救った英雄だ。彼が不利益を受ける状況を作りたくない」
複雑な表情を浮かべる王が口を開く。
「五条、お前はどうしたい。本当にそれでいいのか?」
レオが俺のことを本気で心配して言ってくれてるのは“念話”の能力で分かっている。ありがたい話だ。
俺は自分の思いをレオたちに伝えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【ブレスト・第一軍事会議室】
「で、ドラゴンに止めを刺したのは君なのか? レオ」
「それは‥‥‥」
俺は目の前に座っているNATO軍のハイデン陸軍大将を見据えて、はっきりと答えた。
「私が止めを刺しました。今後ドラゴンの数は減っていくでしょう」
「そうか、分かった。すぐにイギリスに調査隊を派遣して調べさせよう。確認できしだい大々的にマスコミに発表する」
「聖域の騎士団は世界中から賞賛されるぞ」
「今回はNATO軍との連携もありましたからな、いやはやここまで戦果を挙げるとは思ってませんでしたな。ハッハッハッ」
軍のお偉いさんは上機嫌のようだが、五条がいなければここにいる全員が死んでいる。俺が嘘を言ったせいだが、少し呑気さすら感じてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【スイス・ジュネーブ】
「五条さん、聖域の騎士団のレオさんがテレビに映ってますよ」
桜木さんが空港にある大型テレビに映っているレオたちを指さしている。NATO軍は公式に聖域の騎士団と“朱雀”そして日本の自衛隊の協力があって、討伐が成功したと発表した。
レオは俺が言った通り、目立つ役割を引き受けてくれたようだ。
彼が予想した異能者が生きにくい環境は確かに来ると思う。今は英雄として賞賛されている聖域の騎士団ですら、今後どうなるか分からない。
俺は桜木さんや萩野さんと共に、政府専用機に乗り込んだ。
席に着いた時、自分のステータスを確認する――
勇者 Lv99
HP 5317/5317
MP ∞/∞
筋力 105630
防御 52800
魔防 22960
敏捷 56070
器用 5204
知力 46440
幸運 387450
【職業スキル】
魔術 Rank SSS 称号“魔術王”
回復術 Rank SS
複合魔術 Rank A
マッピング Rank SSS 称号“岩窟王”
魔道図書 Rank D
剣術 Rank SS
武術 Rank SSS 称号“拳王”
生成術 Rank C
解体 Rank C
強奪 Rank D
弓術 Rank B
テイム Rank SSS 称号“魔を統べる者”
錬金術 Rank D
アーカイブ Rank D
気功武術 Rank A
魔法剣 Rank A
結界術 Rank B
光の加護 Rank C
【固有スキル】
時空間操作 結界防御 業魔の鎧
無限魔力 超回復 神速
重力操作 天下無双 竜王の柩
全状態異常耐性 神眼
女神の加護 不老不死
【スキル】 【魔法】
鑑定 (ⅩⅦ) 風魔法 (ⅩⅨ)
空間探知(ⅩⅩⅡ)土魔法 (ⅩⅧ)
筋力増強(ⅩⅩⅩ)火魔法 (ⅩⅧ)
千里眼 (ⅩⅠ) 光魔法 (ⅩⅥ)
魔力強化(Ⅷ) 召喚魔法(ⅩⅩⅩ)
寒熱耐性(ⅩⅥ) 雷魔法 (ⅩⅩⅡ)
物理耐性(Ⅹ) 水魔法 (ⅩⅧ)
魔法耐性(Ⅹ) 闇魔法 (ⅩⅣ)
魔法適性(ⅩⅢ) 強化魔法(ⅩⅥ)
成長加速(ⅩⅡ) 回復魔法(ⅩⅨ)
隠密 (ⅩⅡ)
俊敏 (ⅩⅩⅩ)
精密補正(ⅩⅠ)
威圧 (Ⅶ)
演算加速(Ⅹ)
念話 (Ⅷ)
敵意感知(ⅩⅢ)
模倣 (Ⅷ)
精神防御(Ⅵ)
加護 (ⅩⅠ)
【テイム】
神竜 ヒュドラ SSS
岩の巨人 タイタン SSS
炎竜王 シヴァ SS
妖精種 スプリガン AAA
魔獣種 キマイラ AAA
精霊種 不死鳥 AA
金属の巨人 ギガス A
竜種 飛竜 B
金属の巨人(中位) B
岩の巨人 (中位) B
人型の巨人(中位) B
人型の巨人(低位) C
勇者のレベルがカンストしている。“光の加護”も強力な職業スキルだが、“成長加速”のスキルレベルが上がっていた。
これは勇者の職業で獲得できるものなのか‥‥‥。
「五条さん」
隣の席に座った桜木さんが声をかけてきた。
「改めて、お疲れさまでした。日本に帰ったらゆっくりできますね」
「そうですね。ただ一つだけ気になることがあるけど」
「なんですか?」
「フランスです。大賢者のアーカイブで確認した時、フランスの危険度は“A”だった‥‥。だけど何度か行ったフランスには魔物がまったく現れてない」
「そういえばそうですね」
「これから現れるのか、あるいはすでに‥‥‥」
一つの謎を残したまま、離陸した政府専用機はジュネーブを飛び立った。
これで第六章は終了となります。今までで一番長い章となりました。第七章も引き続き読んで頂けると幸いです。




