第85話 灼熱の巨人
爆発したような衝撃と共に光の中から現れた巨人タイタン。体からは溶岩が溢れ出し、凄まじい熱気を辺りに放つ。
タイタンは大地を灼熱のマグマに変えながら歩き始める。悠然と炎竜王に近づいていき眼前にいる敵を見下ろす。
足元には炎竜王の咆哮によって集まったアース・ドラゴンの一体がいたが、タイタンは構うことなく足を振り上げそのまま踏み潰す!
堅牢堅固な外殻が粉々に砕け溶岩の中へ沈んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「きゃあああーーーーっ!!」
突然の爆風で吹き飛ばされる。ゴジョーが竜の王に向かっていった後、光の柱の中から巨大な影が現れた。
飛竜の手綱を引いて何とか体勢を立て直すと、目の前にはマグマを吹き出す山のように巨大な壁がある。
上昇して距離を取ると壁の全貌が見えてくる‥‥‥それは壁ではなく人の形をしていた。
「巨人‥‥!?」
信じられない光景に言葉を失う。ゴジョーはどうなったの‥‥‥?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんだアレは‥‥‥?」
急に凄まじい突風が巻き起こった。ここから突風が発生した場所までは、かなりの距離があるがそれでも全員が吹き飛ばされそうになる。
見上げると竜の“統率者”の前に真赤な溶岩を体から垂れ流す、途轍もない大きさの巨人が立ちはだかっていた。
「レオ! 五条は何をしたんだ!?」
ルカが叫んでいる。俺も五条が何をしたのか分からない、竜の“統率者”に向かっていったと思ったら、いきなり巨人が現れた。
俺から少し離れた場所でグレスが腰を抜かしたように地面に座りこんでいる。
「‥‥タイタン‥‥本当に出しやがった‥‥‥」
グレスの言葉が聞こえてきた‥‥‥‥タイタン? 巨人のタイタンのことか!? アメリカを滅亡の淵まで追い詰めた、あのタイタン! その巨人がこの場に現れたということは‥‥‥。
五条が召喚したのか!?
人間にそんなことができるのか? 基本的に自分より弱い魔物でないと“テイム”は成功しない。カルロの持つ“キルケーの杖”など例外はあるが、五条も特殊な武器を持っているのか‥‥。
もし違うのなら‥‥‥倒した!? タイタンを‥‥だからアメリカから突然消えたのか! 五条、お前はいったい‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うわ~。こんな所まで地面が溶岩になってきてるよ! 王、五条ってあんなこともできるのか!?」
「いや、私も初めて見る。よく分からんが、あれは五条が変身した姿なのか?」
「そんなわけないっしょ! 召喚したんだよ。あのバカでかい巨人を!!」
王は天然なのか? にしても、あんな物を召喚したら魔力が全部持っていかれて死んでもおかしくないはずだが‥‥‥。
「何にしろ五条なら何ができてもおかしくない! 私たちは巻き添えにならないように、ここを離れよう。カルロ、みんなを連れてきてくれ!」
王が言うように、この場は離れる方が良さそうだ。ここに向かってきていた飛竜が方向を変えて逃げていくように見える。
アース・ドラゴンも踏み止まっている。あの巨人を恐れてるんだ。
あんまり頼りたくないけど‥‥‥頼んだよ。五条。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺のうしろにいるタイタンを睨んでいた炎竜王が、その威圧感に気圧されたのか一歩後ろに下がった。
逆にタイタンは一歩前に進む、踏みしめた地面は岩が融解しマグマ溜まりとなり炎竜王が現れた時以上に気温が上昇していく。
炎竜王はタイタンに向かって咆哮し、首を上げ膨大な魔力を口の奥へと集め始める。大きく開いた口から、町も吹き飛ばす火球を全力で放つ!
俺は瞬間移動で躱したが、後ろにいたタイタンには直撃した。
核爆発でも起きたかの凄まじい光と熱が辺りを包み込む。かなり離れた距離に瞬間移動していたが、ここまで爆風が押し寄せる。
土煙と炎は数キロ先の上空にまで舞い上がった。
かなり距離を取っていたレオたちも、今の爆風で吹き飛ばされたようだ。異能者だから大丈夫だと思うが‥‥‥。
今も砂ぼこりで姿が見えないが、タイタンは間接的な魔法攻撃に強い。とは言えこれほどの威力の火球を受けたことはさすがに無いだろう。
俺が心配していると――
炎と煙の向こうから巨大な人影が現れる。地響きと共に悠然と歩む巨人。やはりタイタンに魔法系の攻撃は効かないようだ。
タイタンはマグマ溜まりとなった地面に巨大な手を突っ込む。中から赤く不気味に光る巨大な斧を大地から引き千切るように取り出した。
引き抜かれた大地は粉々に砕け、マグマが噴き出す。
炎竜王は翼を広げ飛び立とうとする。だが、バランスを崩しその場に突っ伏した。
俺が“大気操作”で炎竜王を飛べなくしている。“模倣”でレオの技を試したが、うまくいったようだ。更に“重力操作”を使って尻尾を重くしている。
この大きさの魔物だと全身に掛けるのは難しいが尻尾くらいであれば数十倍までは重くすることは可能だ。
炎竜王は異変に気付き首をこちらを向けた。俺を認識すると口の中に魔力を集め破壊の火球を作り出す。
放たれた火球を瞬間移動で躱す。遥か後方にあった町は見る影もなく吹き飛び蒸発していく。邪魔だった俺がいなくなった事で炎竜王は自由に動けるようになった。
だが、もう遅い――
タイタンはすでに攻撃が届く場所にまで近づき、大斧を振り上げている。炎竜王は相手を威嚇するように叫び、口に魔力を集める。
火球ではなく、炎のブレスでタイタンを攻撃した。
普通の岩なら蒸発するほどの高熱のブレス。通常の魔法を遥かに超える火属性の攻撃でタイタンの体や大斧まで炎に包まれる。
全身を焼かれているはずのタイタンだが、まったく意に介する様子もない。構うことなく燃えさかる“破滅の大斧”を振り下ろす!!
あれほど頑丈だった炎竜王の外皮は何の抵抗も無いように“破滅の大斧”に切り裂かれ、地面にまで斧が達した時、大地が爆発したかのような衝撃が辺り一帯を破壊した。
大地の破片が遥か上空まで飛び散った時、炎竜王を一撃で倒したことを確認する。
「テイム!!!」
巨大な魔法陣が展開し、光の柱となる。
テイムのリストボードを確認すると“炎竜王シヴァ”の名前が刻まれていた。




