第60話 異変
「とにかく、被害の状況を確認してくれ」
私は劉に指示して、その場に座りこんだ。今回の遠征は失敗だな‥‥‥“統率者”の姿こそ見ることができたが、消耗しすぎて、これ以上の継続は無理だ‥‥‥。
団員たちを無事に帰さないと‥‥‥2人が行方不明になっているが、改めて捜索に来るしかないか。
それにしても五条‥‥‥あいつが何をしたのか分からなかった。
五条の目前に迫った魔物が突然消え、気付いたら大量の魔物が死んでいた。なんらかの異能を使ったのか‥‥‥?
「王! 大変だ。また団員が3人いなくなったみたいだ!」
「何!?」
どういうことだ‥‥最初の2人と合わせて5人が行方不明になったということか?
「辺りは探したのか?」
「ああ、探したがどこにもいない!」
「すぐに探しに行くぞ! 班をいくつかに分けて‥‥‥」
「待て! 王、今は危険だ!! 一旦戻って立て直そう」
「まだ近くにいるはずだ! 見捨てるわけにはいかないだろう」
「落ち着け! 全員消耗してるんだ。最悪、全滅するかもしれないんだぞ。リーダーのお前がそんなことでどうする!」
劉と口論することは、よくあるが大抵は劉の方が正しい。そして今回も‥‥‥
「分かった‥‥一旦帰還しよう、その後なるべく早く捜索隊を組んで探しに戻ろう!」
「ああ、分かってくれて嬉しいよ。あいつらだって素人じゃないんだ! 簡単にはくたばらないさ」
団をまとめて帰路につくことにした。ここにいる連中を無事に帰すのも私の責任だからな‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
帰ることで話がまとまったみたいだ‥‥‥。確かに、このまま捜索を続けるのは危険だろう、正しい判断だと思う。
そう思って俺も帰ろうとした時、王から声をかけられた。
「さっきは助けてもらって感謝する。あの“統率者”炎の鳥のことは、どう思う? 五条の意見を聞かせてくれ」
俺は少し考えた後、王に答えた。
「アレは“統率者”ではないと思う‥‥‥恐らく別種の魔物だ」
王は一瞬、血の気が引いたような表情になった。
「どうしてそう思うんだ?」
「俺が見た“統率者”と比べると“強さ”や“存在感”などが圧倒的に足りない。これだけ広大な中国で影響を与えているのに日本の“統率者”より弱いとは考えにくい」
実際ステータスも鑑定できたし、レベルも2000台なのも低い気がする。不死身の能力を込みで考えても“統率者”ではないだろう。
「そうか‥‥」
王はがっかりした様子で歩き続けた。そんな時、後ろの列から声が上がり、1人の団員が慌てて走ってきた。
「どうした?」
王が走って来た団員に尋ねると
「また1人いなくなってます!!」
それは明らかな異常を知らせるには充分だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
“朱雀”の団員が6人もいなくなった‥‥‥ありえない! 彼らは普通の人間ではなく異能者だ!
例えトラブルが起こったとしてもなんの形跡も残さず消えるなど考えにくい‥‥だとしたら――
「攻撃されてる! どんな方法かは分からないが‥‥‥」
私の言葉に緊張の糸が張りつめた。
「王、どうする? 迎え撃つか、逃げるかだ!」
劉の問いに、私は即決する。
「撤退だ! 相手が分からない以上、戦うのは危険だ!! 3人以上で行動し、単独では絶対に行動するな! 山を下りるぞ」
長白山は木々も多いが岩場もたくさんあり、特に視界が悪いわけではない。敵が来るのであれば見逃すはずが無いんだが‥‥‥‥
“朱雀”の団員は、すぐに隊列を組み足早に下山する。全員が辺りを警戒していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「カンストしてるな‥‥‥」
いつの間にか2枚目の“モンク”がレベル99になっていた。
モンク Lv99
気功武術 RankC → B
獲得“魔法” 強化魔法(Ⅰ)×3
気功武術のランクは“B”にまで上がった。王と同じランクになったから、そろそろ俺も王と同じくらい“気功”が使えてもおかしくないはずなんだが‥‥‥
亜空間から“モンク”の職業ボードを取り出す。気功武術のランクはなるべく上げておきたいと思うので表面をタッチし3回目の“モンク”となった。
それにしても魔物に攻撃されているならなんの気配も感じないのは、おかしい。俺には“敵意感知”や“空間探知”のスキルがあるが、なんの反応もしていない。
だとしたら敵は“隠密”や、それに近い能力があるのか?
色々考えていると、後ろで声がする。隊が止まって王と劉が確認しにいく。一番後ろにいた3人がいなくなっていると報告を受けたようだ。
「バカな!? あれほど警戒していたのに」
王の怒りを帯びた言葉に、劉が答える。
「逃げきれないかもしれない‥‥‥‥完全に狙われている!」
元々31人いた“朱雀”の団員が今は22人になっていた‥‥‥。




