第54話 武術の国
中国――
安徽省の黄山に俺は来ていた。中国では獣型の魔物が大陸中に溢れている。
突進してくる巨大な猪を正面から迎え撃つ!! 俺の正拳突きが猪の頭にめり込む! 獣はかん高い叫び声を上げながら空中にくるくる回転しながら飛んでいき、地面に落ちて動かなくなった。
今ので4枚目の”武道家”の職業ボードがカンストした。
武道家 Lv99
【職業スキル】
武術 Rank D → S
獲得“スキル” 俊敏(Ⅰ)×7
俺がここでレベル上げをしているのには、いくつか理由がある。
一つは武術を極めようと思ったこと、中国と言えば武術、武術と言えば中国! ここで鍛えなければどこで鍛えると言うんだろうか?
まあ、それは置いといても俺の力に耐えられる接近戦用の武器がない‥‥‥今は職業スキル“魔道図書”にあったナックルに似た武器をミスリル(低純度)を使って作っている。数十匹倒すと壊れてしまい、その度に“生成”で直しているが、かなり効率が悪い!
武術を極めれば武器に頼らなくとも素手で戦える可能性がある。タイタンみたいに魔法がまったく効かない敵もいるかもしれないからな‥‥。
そして、もう一つは、10日後に大連で“朱雀”という異能力集団の入団テストがある。
この“朱雀”に入団しようと思ったのは日本に帰った後、清水さんたちの助言があったからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
1週間前――
日本に帰ってきた俺は清水さんたちと次にどの国へ行くか相談していた。坂木さんは用事で大阪に行っているらしく、この部屋にいるのは清水さんと坂木さんの部下の桜木さんだ。
俺は“職業スキル・アーカイブ”で表示できるようになった光のボードを机の上に展開する。
「なんですか、それ?」
桜木さんが目を大きく見開いて聞いてきた。
「大賢者の能力で各国にいる魔物の分布や強さを見ることができるんですよ」
「大賢者? 五条さんは大魔導士の職業だったんじゃないんですか?」
いぶかしげに桜木が聞いてきた。
「レベルが99までいけば、その後は好きな職業になれるんですよ! 今は大賢者になってるだけで、また違う職業になろうと思ってますけど‥‥‥」
「そんな無茶苦茶な‥‥‥」
呆れたように言った桜木さんを見て清水さんがケラケラ笑っていた。
「五条さんの無茶苦茶は今に始まったことじゃないだろう! それよりも次にどの国に行くのかもう決めてるのか?」
「一応ランクがAの中国かロシアに行こうと思ってるんだけど‥‥‥」
「だったら中国がいいじゃないかな、なんと言っても最近話題になってるし」
「話題?」
清水さん曰く世界各地で特殊な力を持った人間が次々発見されているらしく、ある者は魔法を使え、ある者は片手で岩を粉砕するなど‥‥‥。
そのような人間を世界的に“異能者”と呼ぶようになったらしい。中国では、この“異能者”の組織化に成功しているとされていた。
「要するに五条さんみたいな超人がたくさんいるってことだよ! なっ!! 興味あるだろう!?」
嬉々として語ってくれた清水さんだが、彼が各国の情報を持っているのも、日本国内の“魔素”の量が減ってきて通信状態が改善しているためだと後から桜木さんが教えてくれた。
「特に“朱雀”と呼ばれている異能力集団には“王欣怡”っていう、かなり強い女性の異能者がいるって聞いてるからな! うまくすれば今後、五条さんが戦ううえで重要な仲間になるかもしれないってことだよ!!」
「仲間か‥‥‥」
中国にいるはずのボスモンスター(最近では“統率者”と呼ばれているそうだが)はまだ発見されていない‥‥‥この異能力集団の目的が“統率者”を見つけて倒すことなら俺の目的と一致する。
とりあえず日本政府に協力してもらい、中国政府に“朱雀”に日本政府の関係者として入れて貰えないか打診してもらったが、中国からは命に係わるため入団に必要な実力が認められなければ“朱雀”に入れることはできないとの回答があった。
それで仕方なく“朱雀”の入団試験を受けることになるのだが‥‥‥‥
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ところでお土産があるんですけど‥‥‥」
「お土産?」
航空自衛隊基地の外、開けた場所まで移動してきた。
「この辺りでいいかな‥‥」
次の瞬間――
「えっ?」
「は?」
目の前に鈍く光る銀色の山が突然出現した。
「“魔鋼鉄”です。100tくらいはあると思うけど‥‥‥まあ、好きに使ってください!」
“錬金”でミスリル(低純度)を作れるようになったので、大量に置いていくことにした。まだ採掘や加工が大変だと思ったからだ。
「‥‥‥なんなんですか? いったい??」
「いくらなんでも無茶苦茶すぎる‥‥‥」
二人ともドン引きしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
‥‥‥‥さて! 武道家は職業ランクが“S”になったが武道家のボードはまだ5枚ある。あと10日でどれくらい上げられるか、コツコツとやれるだけやってみよう!




