第51話 神を穿つ
タイタンのいるニューヨークには一度行っているので瞬間移動で行くことができる。だがその前にやることがある。
もしタイタンを倒せば莫大な経験値が入ってくるだろう‥‥‥‥その時に効率的にレベルを上げるには最上級の職業である必要がある。そう考えて亜空間から1枚の職業ボードを取り出した。
“大賢者”‥‥‥錬金術師をカンストしたことで使用が可能となった。そのことからも錬金術師よりも上位の職業ではないかと考えている。
万が一、タイタンを倒せなかった時は、この職業をレベリングしてまたタイタンに挑む! やるべきことは全部やった、俺は瞬間移動するため空間を開いた。
高濃度の魔素が立ち込めるせいか昼間だというのに厚い雲に覆われ薄暗い中、タイタンから流れ出るマグマが不気味に光を放っている。
その巨人は悠然と大地に立ち、眼下に広がる荒廃した世界を見下ろしている。
タイタンは確かギリシャ神話に出て来た神の名前だ。巨大な体を持ち神々の大戦においてゼウスと戦い最終的には地獄のタルタロスに幽閉されたんじゃなかったっけ‥‥。
目の前のこの巨人が神だと言われても信じてしまうだろう。それくらいの迫力だ!
俺はタイタンの前に降り立った‥‥‥以前とは違い巨人は俺を“敵”と認識したらしい、静かに、だが確実に殺気を放っている。
「決着を付けよう! タイタン!!」
タイタンは溶岩が流れる足元に、ゆっくりと手を突っ込んだ‥‥‥‥そこから何かを引き抜こうと力を込め大地を引きちぎるような音を立てながら上に持ち上げた。
手に携えていたのは100メートル近くあるんじゃないかと思う巨大な“斧”だった。俺はその斧を“鑑定”で確認する。
破滅の大斧 Rank SSS
その一撃で山をも砕くと言われる
神話級の武具。
「‥‥‥俺に当てられるかな?」
タイタンが斧を振り下ろす。瞬間――
大地が爆発するかのごとく吹き飛び、融解しマグマとなった地面が辺り一面に飛び散った。当たればどんな者でも一撃で殺せるだろう‥‥‥。
もっとも俺は瞬間移動で躱していたが、本気で俺を殺しに来たことに喜びすら感じていた。
「次は俺の番だな!」
俺は瞬間移動で大気圏ギリギリの所まで移動した。これ以上行くと宇宙空間になってしまう。今は風魔法で大気の層を作り体を守っているが、宇宙まで行ってしまうと、さすがに危ないだろう‥‥‥ここがギリギリだな。
亜空間からミスリルで作った巨大な“玉”を取り出した。事前に強化魔法を掛け、硬度を大幅に上げている。
ここは丁度タイタンの真上の位置だ。玉はゆっくりと重力に従い落ちていく、俺も後を追いかけるように地上に向かって飛行する。
本来ならミスリルの玉は空気抵抗を受けながら落下するはずだが、風魔法を使って極限まで玉の軌道上の空気の気圧を下げていく、これによって玉は最大限に加速していく。
さらに玉に対して重力操作をおこない、重力を100倍まで上げた。
タイタンに対して重力操作を掛けるのは難しくても、この玉ぐらいの大きさなら充分な重力を掛けることができる。
空を覆う雲を突き抜け、音を置き去りにしてミスリルの玉が落下していく、上からの攻撃に気付いたタイタンは迎撃のため大斧を持った右手を振り上げた。
これが今の俺にできる最高の攻撃――
「――隕石極大衝撃波――!!!!!!」
衝突した瞬間、とてつもない爆発と衝撃波が辺りを飲み込んだ。
それは核が爆発したかのような、すさまじい光と爆炎‥‥‥俺は衝突する刹那、瞬間移動で10キロほど離れた地点に来ていた。
見据える先には舞い上がった砂塵と煙により、タイタンの姿は見えない‥‥‥‥あの爆発の中で無傷とは思えないが‥‥‥。
やがて砂塵が収まり始めたとき‥‥‥巨大な人影が現れる。
右手を失い、全身にも多大なダメージを受けているようだが、悠然と立っているタイタン‥‥‥こいつは本当に倒せるんだろうか‥‥‥?
しかし‥‥‥‥
その巨人はゆっくりと膝を折り轟音と共に大地に伏した。
かつて受けた7発の核爆弾より遥かに強力な攻撃を受けて、恐らくは初めて敵の前で膝を屈した巨人はそれでも10キロ先にいる俺に強い敵意を向けてくる。
「お前の弱点は図体がデカすぎることだ!!」
俺は瞬間移動で宇宙空間近くまで移動した、当然用意したミスリルの玉は一発ではない。タイタンを倒すために計4つのミスリルの玉を作り出していた。
タイタンを倒すため何回でも撃ち出すつもりだ。
再び落下するミスリルの玉と共に移動した。もっと正確にピンポイントで当てなければタイタンは倒せないだろう‥‥‥俺は”風魔法”で作り出す大気のトンネルを、より明確にイメージした。
大気圧の差により玉の軌道を微妙に調節する、狙うのは大地に伏せているタイタンの背中だ!!
超高速の隕石を四つん這いの格好になっている巨人に叩きつける!!
耐えられるなら耐えてみろ!!!
「――隕石極大衝撃波――!!!!!」
タイタンの丁度背中の真ん中に、ぶち当たる! 瞬間ー悲鳴とも怒声とも聞こえるような爆音を上げてタイタンの体を粉砕しすさまじい爆発と共に砂煙が辺りを飲み込む‥‥‥。
「テイム!!!」
地面に巨大な魔法陣が展開され、光の柱が天高く立ち上がる。俺は手に出現した光のボードに目を移した。テイムが成功していればこの“リスト”にタイタンの名前が表示される。
テイムの職業ランクは最高の“SSS”になっているし、運の値も“加護”や“女神の加護”のスキルで爆上げされている。テイムの成功率は限りなく100%に近づいているはずだが‥‥‥‥
離れた場所に移動した俺の体に大量の経験値が流れ込んでくる。
空高くまで立ち上った砂塵を見ながら、どっと疲れが出て、その場に座りこんだ。
「終わった‥‥‥‥とうとうやったぞ‥‥‥」
俺は大地に寝そべり、大の字になって達成感を覚えていた。
手の中にあるリストにタイタンの名前が表示されていた‥‥‥‥テイム成功だ!!




