第44話 ミラー・パーク
十代後半の男女が半壊した街の中を駆け抜けていた。後ろからは10メートルを超える巨人がその巨体に合わないスピードで追いかけている。
「エル! もう少しだから、がんばって!!」
足に怪我をしている少年の手を引きながら少女が叫ぶ。
「だめだミシェル! 先に行ってくれ、二人とも捕まっちゃう!!」
「もう少しなのに‥‥‥もう少しでミラー・パークに‥‥‥‥」
この姉弟、ミシェルとエルは両親と共に車で避難してきたが、途中で巨人に襲われ両親が殺された。命からがら逃げ出したが、目的地だったミラー・パークの目前で巨人に追い詰められている。
半壊した建物に逃げ込んだが、巨人は建物を壊しながら入ってきた。手を伸ばしてつかみかかる。
その時――
「ガリガリガリガリッ!!!」
襲い掛かろうとしていた巨人が、何か強い力で建物から引きずり出された! そのまま大きく投げ飛ばされ轟音と共にビルに叩きつけられ転がって落ちてきた! 地面に仰向けに倒れた巨人は、すでに動かなくなっている‥‥‥。
何が起きたのか分からなかった。ミシェルが崩れ落ちた屋根の隙間から見たのは銀色の巨大な人影‥‥‥‥
鉄の巨人だ! 金属の鎧を着たような巨人、いろんな種類がいる中で最も強いと言われている。
その巨人が私たちを追いかけていた巨人を殴り飛ばしている‥‥‥‥仲間割れ? 理解できないでいると‥‥‥
「大丈夫か?」
鉄の巨人の後ろにもう1体、岩の巨人がいた2体ともかなり大きい‥‥‥‥岩の巨人の手の上には男の人が立っていた。
「敵じゃない! 敵じゃない! 言葉通じてるかな?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はニューヨークに行く前に、テイムした巨人での戦闘を試すため各地で巨人と戦っていた。そして気付いたのがとにかく人に出会わないということだ‥‥‥。
まさか、アメリカ人全員が巨人に殺されたなんてことは無いと思うが、さすがにこれだけ出会わなければ心配になってくる。
そこで“千里眼”のスキルで人間を探していたところ、この若い男女を見つけることができた。
「君たち、この辺に住んでるの?」
このまま巨人の上でしゃべっているのもなんなので、巨人を消して話を聞くことにした。
「いえ‥‥‥私たちは避難してきたんですけど‥‥‥‥‥‥‥あの巨人は、あなたのなんですか!?」
「ああ、そうだよ一緒に戦ってるんだ」
とりあえず言葉は通じているようだ。アメリカに来る時に英語の本を片っ端から持ってきて読みまくっていた。元々、英語が苦手だったが“演算加速”のおかげで、あっという間に覚えることができたのは良かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あれがミラー・パークです‥‥‥!」
彼女に連れてきてもらったのはアメリカのドーム球場だった。ミラー・パークというように公園の中にある施設だ。
彼女の話によればアメリカでは各地の避難所などに多くの人々がまとまって生活して巨人たちの脅威から逃れているらしい‥‥‥‥。
軍隊が守っている場合もあれば民間人だけのケースもあり、彼女が元々いた避難所は民間人だけで立てこもっていたが複数の巨人によって襲われ家族で逃げてきたそうだ。
今から向かうミラー・パークは軍隊が一緒に常駐している避難所で安全性は高いと言われているみたいだが‥‥‥‥
「あの‥‥‥すみません! まだお名前も伺ってませんでした。私はミシェル・ブラウン、この子は弟のエルです。助けていただいて、ありがとうございました」
「ゴジョーだ! 俺の方こそ避難所に案内してもらって助かったよ。ありがとう」
3人でミラー・パークの入り口に来た時、突然声をかけられた。
「止まれ! 避難者か?」
入り口上の窓から2人の軍人が銃を構えてこちらに向けている。
「はい! 私、弟と逃げてきて‥‥‥‥」
「後ろの男もそうか!?」
「えっ‥‥‥ええ‥‥そうです」
「‥‥‥‥分かった、今扉を開けるから待ってろ!」
俺たちは荷物の確認をされた後、中に案内された。球場に出た時、その光景に息を飲んだ‥‥‥‥。
中には3000人以上の人間がひしめき合うように生活していた。




