第20話 部外者
「お話があります」
俺は今まで聞いてきた“魔法”のことや長野の避難民のことを山本空将補に話した。
「今、長野とは連絡が取れないので捜索班を編成して長野に向かわせるべきと考えます」
俺の話を聞き終えた山本空将補は少し考えた後‥‥‥‥。
「坂木‥‥‥お前正気で言っているのか?」
眉間にしわを寄せ、かなり怒りをにじませて俺を睨みつけた。
「関東から、数万を超える化物共がこの防衛ラインに向かってきているんだぞ! 自衛隊員は各地での交戦や避難民の救助で手一杯だ。重要事項の“魔鋼鉄”の採掘でさえ人手が足りない状況だ!!」
山本空将補は溜息をついて、あらためて俺を見た。
「そんなおとぎ話のような、いるかいないかも分からない人間を探すのに捜索隊を派遣だと!? 馬鹿も休み休み言え! 現実を見ろ、坂木。お前にはやるべきことが山ほどあるだろう!」
空将補の言うことはもっともだった‥‥‥‥人員が足りていないのは現場で働いている俺が一番よく分かっている‥‥‥。
だが現実を直視すれば、このままでは自衛隊が壊滅するのは時間の問題だ。
参謀本部を出た俺はスマホを取り出し、ある人物に連絡を取った。岐阜県内であれば電波ぐらいは入る。
「何かしなければ‥‥‥‥‥ただ死を待つわけにはいかない!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前が俺を呼び出すなんて初めてじゃないか?」
「すまないな清水‥‥‥」
俺は2年前に自衛隊を除隊した同期の清水を呼び出していた。清水に今までの経緯を全て話し協力を頼むためだ。
「そんなに状況は悪いのか?」
「はっきり言って絶望的だ。このまま交戦すれば数日で戦線は崩壊する」
「だからって、そんな本当にいるかも分からない奴を探すのに、わざわざ岐阜より危険度の高い長野に行けって言うのか!? 俺はもっと安全な関西方面に避難しようと思ってたところなんだぞ」
「本当にすまないと思っている、だが自衛隊員は動かすことができない。俺も持ち場を離れるわけにはいかない。お前に頼むしかないんだ! この通りだ」
俺は深々と頭を下げた。
「本当に“魔法”なんか使う奴がいると思ってんのか!?」
「それが1人なのか複数いるのかは分からない‥‥‥だが俺はいると信じている!」
ハァーと、ため息をつきながら清水が頭を掻いた‥‥‥。
「しかたねえな‥‥‥お前の頼みだ。一つ貸しにしておくからな」
「ありがとう! 恩に着る」
「それで‥‥‥‥タイムリミットはどれくらいなんだ?」
「化物共が防衛ラインに到達するのがおよそ1週間後‥‥‥」
「1週間か‥‥‥‥」
「交戦状態に入ってからは数日ももたないだろう‥‥‥なんとか1週間以内に連れてきてくれ」
俺は切実な顔で清水を見ていた。
「分かってると思うが、仮にその男が見つかって連れてくることができたとしても戦況が変わる保証はどこにもないんだぞ。いや、むしろ変わらない可能性の方が高い。それでも待つのか?」
「分かってる。藁にもすがる思いなんだ‥‥‥」
「ハー‥‥、希望薄でタイムリミットもある厄介なミッションか‥‥‥民間で働いてるのにこんなことになるとはな‥‥‥」
清水は立ち上がり、背中を向けて歩き出した。
「今から出発する‥‥‥‥期待しないで待ってろ!」
俺は心から感謝し、その背中を見送った‥‥‥‥‥。この後、清水が想像を超える体験をすることになるなど、この時はまだ知るよしもなかった。




