第16話 厄災の日
7月1日まだ夜明け前、それは突然起こった。マグニチュード8を超える直下型地震が各地で起こる。
それは日本だけではなく世界各国で同時多発的に起きた。日本では多くの人が就寝中だったため家屋の倒壊などで多くの犠牲者が出てしまう。
この地震によって各国の交通網、通信網は深刻な被害を受けた。
だが、この出来事が後々“大災害”ではなく“厄災”と呼ばれるようになったのは、この後に起こった信じられない現象が理由となる‥‥‥‥。
大地震によって地面に空いた亀裂から、隆起した別の大地が盛り上がってきた。
その大地は青黒い色をしており、周囲とのコントラストの異様さから不気味な雰囲気を漂わせている。
そして青黒い大地の穴や亀裂から未知の生物、化物と呼べるものたちが這い出して人間を襲い始めたのだ!
当然、各国の軍隊(日本では自衛隊)が化物達の迎撃にあたったが彼らの使う武器弾薬は化物には効果がなかった。
いや、正確に言えば殺すことはできた。しかし効率が悪く時間がかかりすぎ、より強い個体には効かないケースもある。
後々分かったことだが、この生物たちや地震で隆起した大地などには“未知の素粒子”が大量に含まれていることが分かり、ドイツの研究所は“暗黒物質”の一種なのではないかとの学説を発表したが“暗黒物質”自体が仮説にすぎないため信憑性は定かではない。
日本では、この物質のことを仮に“魔素”と呼ぶことにした。魔素を含まない武器弾薬では化物たちに致命的なダメージを与えることができず、短期間で回復してしまうケースも見られた。
逆に人間が魔素を含む生物に傷つけられると、その傷の治りが遅くなることも確認されている。
この化物は出現した国によって種類が違い、ある国では巨大な“竜”が空を舞い、ある国では“巨人”が闊歩した。日本では映画に出てくるような腐乱した“ゾンビ”のような化物が人を襲いだす。
人類にとって絶体絶命の状況が続いて数か月が経った頃、EUが青黒い大地の一部に微量の金属が含まれていると発表した。
これは化物と戦う各国の軍隊にとって、これ以上ない朗報になる。なぜなら、この金属は大量の“魔素”を含んでおり、化物に対抗する武器を作り出すことができるからだ。
しかし、岩石の中に含まれている金属の含有量が微量なうえ安全に採掘するのが難しいため希少な金属になってしまう。
剣や鈍器のような武器ならともかく、銃弾にして大量消費するのが困難であることから戦況を覆すにはいたらなかった。
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航空自衛隊・岐阜基地――
「厚木とは連絡は取れたか?」
「ダメです。昨日から通信が途絶えたままです‥‥‥やはり壊滅したのでしょうか? 直前に空を飛ぶ鳥のような化物に襲撃されたとの報告もありましたから」
「米軍の支援は期待できないな‥‥‥横須賀は完全に壊滅状態だと聞くし」
岐阜基地・1等空佐 坂木は険しい顔で現状を確認していた。
“厄災の日”に日本で特に巨大な異形の大地が現れたのは東京と福岡だ。東京には首都機能が集中していたため壊滅状態になった時、国の主要な機能は全て停止してしまう。
またこの時の化物の襲撃によって横須賀の米軍基地、関東周辺の自衛隊基地が交戦する間もなく壊滅! 日本は化物に対抗する戦力の多くを失った。
これによって関東を境に東西に分断され、北海道の千歳基地などとの連携が取れなくなってしまう。
福岡からも大量の生物が溢れ出し、甚大な被害を出している。
沖縄の米軍も現在九州に進軍し交戦中らしいが、なにせ通信状況がズタズタで正確な情報がなかなか入ってこない。“魔素”の濃度が高い所ほど通信状況が悪くなる。もしかすると“魔素”には通信を妨害をする機能があるのかもしれない。
首相官邸は政治の機能を大阪に移し指揮系統を立て直そうとしているが、東京に溢れ出した化物共もこちらに移動して来ているとの情報がある。
関東周辺の避難民が関西に移動していることから、人間が集まっている所を目指してきているようだ。
現在この岐阜基地や愛知県の陸上自衛隊基地などと連携し、最終防衛線として東京から来る化物共を迎え撃つつもりだ。
もし、ここを抜かれたら日本は滅亡することになるかもしれない‥‥‥‥。




