第151話 全能なる者
『ウラノス様、この要塞“アヴァロン”の主砲を使ってあの魔物たちを殲滅してはいかがでしょうか?』
魔神王ウラノスに、後ろに控えていた従者が進言する。
『いや……あれは“神託の獣”だ。この要塞の主砲でも倒すことはできまい』
『では……』
『心配はいらん』
ウラノスはそう言うと、自分の手を前にかざした。すると手の形が変化していき、まるで肉塊でできた大砲のような形となる。
その砲門に光が集束していき、大気が震えだす。
『ドラゴンブラスト――!』
◇◇◇◇◇◇◇◇
灼熱の巨人が闊歩し大地がマグマになると、地上にいた魔神の軍勢は逃げ惑うことしかできなかった。
巨人が斧を振るえば大地が爆散して周辺にあるものは全て吹き飛ぶ。
手が付けられない状態だったが、そこに遥か彼方から放射された閃光が巨人に直撃する。その光は頑強な岩の体を貫いた。
「グォオオオオオオ………」
巨人の体に大きな穴が開き、そこから光の粒子が漏れていく。
巨人は苦しそうな声を上げ、轟音と共にゆっくりと膝をつく。大地に衝撃が走り、土煙が舞い上がった中、タイタンは光となって消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
空を飛ぶ炎の竜は、灼熱のブレスで地上にいる魔神軍を焼き払い、上空にいる艦隊には火球を放って吹き飛ばしていた。
いかなる者も進行を止めることができなかったが、一筋の光が赤い竜の体を貫くと、竜は大きな叫び声を上げる。
その体からは炎が巻き上がり、腹部は引き裂かれていた。
断末魔の声を上げ、地上へと落下していく。それを見た魔神軍は何が起こったのか分からなかったが、竜が倒されたと歓喜する。
シヴァは光の粒子となって消滅した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ウラノスは当たり前のように、二体の“神託の獣”を葬った。それに対してなんの感情も抱いていない。
更に両腕を変化させ、二門の大きな大砲を作り出す。
『ドラゴンブラスト!!』
二つの砲門から膨大な光が放射される。光は海上へと向かい、そこにいた巨大な“虫”に当たった。
巨大なヴィシュヌは体に穴が開いたぐらいではビクともしなかったが、その光はゆっくりと横に動いていき、ヴィシュヌの体を両断していく。
体を両断された巨大な虫は声にならない悲鳴を上げた。
“虫”は徐々に光の粒子となって消えていくが、ヴィシュヌが生み出した大量のキラービーはそのまま残り、魔神の戦艦を襲っている。
ウラノスは手を砲門から元に戻し、手を空にかざした。
『極雷!』
空から“億”を超える雷が降り注ぐ、雷は横からもキラービーに襲い掛かる。
縦横無尽に動く稲妻は敵であるキラービーだけではなく、味方である魔神の戦艦もまとめて叩き落とした。
ウラノスが南東の方角に気を取られている中、別の方角から一体の竜が近づいてくる。かなり遠距離からだが、ヒュドラは三つの口に光を集めた。
それに呼応するようにウラノスは巨大な砲門を作り出す。
ヒュドラが破滅の光を放つと、ウラノスもドラゴンブラストを放射する。二つの光が空中でぶつかり合い、激しい光が拮抗しあう。
『やはりヒュドラになると簡単にはいかんか……』
ウラノスの背中から、うねうねと肉塊がでてきて新たな二つの砲門ができ、更に肉塊がでてきて二つの砲門が形成される。
合計五つの砲門がヒュドラに狙いを定めた。
五つの光が黒い竜に襲い掛かる。ヒュドラの光を遥かに超え、黒い竜は光の中に飲み込まれる。
光は絶対防御を破壊し、黒い竜を消滅させた。
ウラノスは肉塊を背中にしまい、新たに標的を探していると炎の塊を見つける。不死鳥は一直線に向かってきた。
ウラノスはつまらなそうに手をかざす。
砲門に変わり、ドラゴンブラストが放たれる。光は炎の鳥を貫いて、遥か彼方へと消えていく。
『やれやれ、これで強力な個体は片付いたかな?』
ウラノスが一息つこうとした時、下からこちらに向かって猛スピードで向かってくるものが見えた。
それは赤い塊で、ジグザグに移動しながらこちらに向かっている。
まるで赤い稲妻のように――
◇◇◇◇◇◇◇◇
あの浮かんでる城……確かアヴァロンだったか。さっきから光の線が何度も放射されてる。あの野郎がいるとしたらあそこしかないな。
俺は飛行速度を更に上げる。
『ヒャーハッハッハ! 会いたかったぜ、ウラノス!!』
城壁の上まで飛び上がると、そこには予想通り魔神王ウラノスがいた。
『血殺刃!!』
両手に持った血の剣を振り、血液の斬撃を飛ばす。大型の戦艦でも一撃で真っ二つにする攻撃を何発も打ち込むが、奴が張る障壁で弾き返される。
俺は魔神王の間近まで迫り、直接剣で斬りかかった。
奴が持つ剣と、俺の二本の剣がぶつかり合う。赤い火花が飛び散り、衝撃で空気が張り詰める。手を伸ばせば届く距離で奴と睨み合った。
『久しぶりだな……ウラノス、元気だったか?』
『フフ……アガリアレプト、君にまた会えるとは思ってなかったよ。迷宮の住み心地は良かったかな?』
『ああっ! 最高だったね!!』
奴の剣を跳ね上げ、一気に斬り込む。力勝負なら誰にも負けねえ、ウラノスが一歩下がったところを剣を振り抜く。
俺の剣は奴の肩から腹にかけて切り裂いた。
血が噴き出したと思った瞬間、奴の剣が俺の顔に刺さっている。
『あ?』
ウラノスはかすり傷一つ負っていない。これは――
『夢を見るのは楽しかったかな? アガリアレプト』
『時間を巻き戻したのか……小ズルい奴だぜ』
俺は顔に刺さった剣をすり抜け、赤い霧になって空気に溶けてゆく。
『俺に斬撃は効かないぞ……分かってるはずだ』
『そうだったな。だが、お前もまた私の体に傷を付けることは不可能。どうする気なんだ、古き友よ』
『知れたこと!』
ウラノスの真後ろに移動し、手を伸ばし灼熱の魔法と共に奴の体を貫く。手が突き抜けた腹からは血が噴き出し、炎は体を焼き尽くす。
『テメーが倒れるまで何度でも攻撃してやる!!』
本来なら大ダメージを与えているはずだが、目の前にいたはずのウラノスは消えていた。そして俺のすぐ後ろで声が聞こえてくる。
『無駄な努力だよ。固有スキルで火魔法の威力を上げても所詮、付け焼刃だ』
俺が振り返ると、奴は手をかざしていた。手の前から火の粉が散ったと思った瞬間、目の前が炎で埋め尽くされる。
『炎滅の都市!』
炎は数百メートルの範囲で、ありとあらゆる物を焼き尽くしていく。俺の体を構成する赤い霧も焼くことができる力だ。だが――
拡散している赤い霧から、再び元の形に戻る。
『残念だったな。どうやら俺に炎は効かないようだぞ』
『ああ、そうか……ハイペリオンの力を奪ったのか。だとしたら確かに炎は効かないな、覚えておくことにしよう』
やはり普通に攻撃しても全て無効化されるな……だったら。
俺たちがいる更に上空から、竜巻のような水の柱が何本も落ちてくる。ウラノスに気づかれないように海水の塊を移動させていた。
『ほう……これは【海流操作】か。なるほどオーケアノスも殺して能力を奪い取ってきたのか……そんなに私を殺したいのか?』
『テメーを殺すことだけを考えて、この数百年生きてきたんだからな! どんな手を使っても必ずぶっ殺してやる!!』
水の竜巻は徐々に巨大になっていき、逃げ道を塞いでいく。その状態でウラノスの真上にあった海水の塊を落とす。
海水はウラノスを飲み込み、球状の牢獄に変わる。
更に水球の中に【炎帝の寵愛】による炎で灼熱の水にし、沸騰させていく。爆発しないように加減して炎と水の力で奴を閉じ込めた。
【炎帝の寵愛】は火魔法を無効にし、【海流操作】は水魔法を無効にする。
時間の巻き戻しは長時間はできないはずだ。これで奴を抑え込めれば、時間を巻き戻してもダメージが継続して無傷ではいられないだろう。
『水の中で死ね! ウラノス!!』
『無駄だよ』
『な……』
俺の真後ろで声が聞こえた。振り返れば無傷のウラノスが空中に浮かんでいる。どうやって脱出したんだ?
『ああ、他の魔神には見せたことが無かったが、私やクロノスは瞬間移動できるからね。閉じ込めるのは意味が無いんだよ』
『こいつ……』
ウラノスは右手の人差し指を俺に向ける。黒い閃光が走ったと思うと、俺の太ももに大きな穴が開いていた。
『これは闇魔法……』
赤い霧で構成された俺の体が削り取られている。
『フフ……時間はかかるが、お前の粒子を削っていくことは可能だ。対してお前は私にダメージを与える手段がない。さあ、どうする?』
『この野郎……』
◇◇◇◇◇◇◇◇
【レオ・ガルシア――】
空を埋め尽くしていた戦艦が次々と撃墜され、地上にいる軍勢には“真紅の猿”と“金属の獅子”が向かっていく。
俺たちは怪我人を抱えながら、輸送機まで避難しようとしていた。
そんな時、空から人が降りてくる。あれは――
「五条!!」
静かに地面に降り立った五条は、こちらに駆けつけてきた。
「大丈夫か、レオ?」
「俺は大丈夫だ。だけど……」
俺は言葉に詰まる。仲間はほとんど死に、五条の生徒だった子供たちも失ってしまう。王やフレイヤも助けることができなかった。
五条にそのことを伝える。自分の力の無さが、ただただ悔しい……。
「そうか……」
五条は自分の手を見つめていた。
「今なら……今の俺なら助けられるかもしれない」
「何? どういうことだ!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は自分の手を見つめ、鑑定を発動する。
ここに来る前に、一枚の職業ボードを使っていた。ずっと極めたいと思っていたが、枚数が足りずランクアップができなかった職業だ。
今は、召喚した召喚獣がたくさんの敵を倒したため、かなりの経験値が入ってきている。確認すると、やはりレベルがカンストしていた。
僧侶 Lv99
【職業スキル】
回復術 RankSSS 称号“天上の癒し手”
今の俺ならできるはずだ。
俺は右手に魔力を込める。“冥王の十指”グローブに付いている十色の宝石の内、右手にある透明の宝石が割れた。
「回復系最高位魔法――」
右手から白い魔力が溢れ出し、まるでシルクの繊維が地面に流れるように広がっていく。やがて至る所にいる怪我人や死者へと繋がっていった。
「――死者蘇生せし神々の法――!!」




