第147話 上空
【航空自衛隊・清水――】
「おいおい……こんなのありかよ。こっち側の戦力じゃ対抗できないぞ」
『隊長!』
「分かってる。戦線を離脱する、他の隊もついてこい!」
情けないが、勝てないのを分かって犠牲を増やす戦いはできない。俺たちの役目はこの辺りが限界か……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【航空自衛隊・坂木――】
“朱雀”の団員の肩を借りながら歩いていたが、上空に現れた無数の戦艦を見て愕然とする。自分の役割を果たせなかったということか……。
「情けないな……」
少しでも役に立ちたかったが……正直、この数の相手ではいくら五条さんが来たとしても勝てるかどうか……。
もはや希望を抱くこともできなくなっていた。
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【航空自衛隊・岐阜基地 桜木――】
「楓、大丈夫かな? 坂木さんたち……」
「大丈夫だよ。きっと大丈夫……」
岐阜基地の一室で同僚とテレビとスマホの動画でモンゴルの戦況を見ていたが、こちらが優勢と言われていたところから一転、大ピンチに陥ってる。
坂木さんたちも心配だけど、この戦いに負ければ世界がどうなるか……。
「五条さん……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【スイス・ジュネーブ 国連本部】
「これは……」
戦況をモニターで確認していた国連軍総司令官のマシューは、その光景に絶句していた。それはマシューだけではなく、映像を見た軍部の人間も同じだ。
漆黒の戦艦からは夥しい数の戦闘機が発進している。
それは地球の全ての戦力を集めても到底対抗することはできない数だ。数百万の戦闘機など想像を絶する。
海洋においては数万の戦艦が着水し上空と海上から、こちらの軍艦や空母を攻撃していた。連合軍の艦艇は何隻も沈められ、他の艦艇は撤退するしかない。
更に漆黒の船団の中心部に巨大な“空に浮かぶ城”のような物まで見える。まるで鉄壁の要塞で、重厚な威圧感を放っていた。
「あれに敵の司令官がいるのか……。だとしたら叩くしかない。あの要塞に攻撃を集中させろ!」
十発以上の弾道ミサイルが着弾するが障壁で防がれてしまい、戦闘機からの攻撃も無効化してしまう。
今まで戦っていた戦艦の障壁よりも遥かに強い。
「ダメか……」
マシューが落胆していると要塞から細い光の線が、北東から南東にかけて弧を描くように放たれる。
一瞬の静寂が辺りを包む、そして――
光が当たった場所が弾け、凄まじい爆発が起きる。爆炎が壁のように立ち昇り、巻き込まれた物は跡形も無く消し飛ぶ。
「中国第71から77集団軍、ロシア軍の第6独立戦車旅団が全て壊滅! 被害がどれくらい広がっているのか分かりません」
マシューは悪夢を見ているのかと自分の目を疑った。
「これはダメですね。降伏も考えなければ……もっとも意思疎通ができればの話ですが……」
軍幹部の進言にマシューは苦悶の表情を浮かべる。
この状況をひっくり返すのは困難だろう。マシューはそう思い、被害を最小限に抑えるために降伏の選択肢も頭をよぎっていた。
たとえ、五条が戻ってきても劣勢の打開は難しいと考えていたからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【慶朝新聞本社――】
「嘘だろ……こんなの勝てるわけない」
「無理だ……もう終わりだ」
空一面に敵の戦艦が現れた映像は、それを見た記者たちに絶望を与えた。
そのうえ、要塞のような敵の兵器の想像を絶する攻撃を目の当たりにして、絶望はより深刻なものになる。
同僚の記者たちが座り込む中、松田は立ち上がりテレビの前に近づいて映像に釘付けになっていた。
「まだだ……まだ終わってない」
「松田……」
松田の目には、まだ希望が宿っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【レオ・ガルシア――】
「なんなんだ! アレは」
巨大な城のようなものから閃光が放たれたと思ったら、遠くで爆発が起こった。今までの黒い戦艦とは能力がまるで違う。
「どうする? レオ」
カルロが聞いてきたが、もう俺たちではどうすることもできない。
「撤退する。逃げ切れるかどうかは分からないが……」
俺たちは撤退しようと怪我人に手を貸しながら、その場を離れた。この戦場から離脱するには輸送機に乗るしかない。
別の場所で待機している輸送機に乗り込むため足早に進んでいると――
「何アレ!? こっちに向かってくる」
フレイヤの声で視線を上げると、前方から大型戦艦が三隻着陸しようとしていた。更に後方からは二隻が高度を下げている。
側面からも左右一隻ずつ近づいてきていた。
明らかに俺たちに狙いを定めてる。
「逃げられないか……」
着陸した戦艦の船首にある扉が開き、中から百人以上の人影が見える。銃を持った兵士ではない。
銀色の鎧を着て、剣を携えている者が三人。
それとは違うが、やはり鎧を着た戦士たちがその後に続いて歩いてくる。剣や弓、槍や斧などの武器を持っていた。
後ろからも戦艦から降りた百人近い人間が歩いてくる。
左右に着陸した戦艦からも、それぞれ数十人は降りてきている。合わせれば総勢300人近い敵に囲まれることになった。
しかも、こいつら一人一人が相当強いぞ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『オイオイ……“敵意感知”に反応があったから念のため降りてきたが……コイツらこの世界の異能者か?』
神将アポロン
魔神種 Lv3546
『まとまってるのはいいわね。まとめて殺せるから』
神将ペルセポネ
魔神種 Lv3311
『それよりクロノスたちの反応がないぞ。まさかとは思うがコイツらに殺されたんじゃないだろうな?』
神将ヘルメス
魔神種 Lv3473
『考えにくいが、奴等が役割を放棄していなくなるとは思えない……。こいつらが殺したと考えるべきだ』
『まさか下等な人間ごときが魔神を……それも神将を倒したと言うの?』
『皆殺しにするしかないな』
アポロンは取り囲んでいる魔神たちに合図を送る。魔神が武器を構え戦闘態勢に入った時、人の集団の一人が魔法を帯びた矢を放った。
矢は魔神の張った魔法障壁にぶつかり爆発したが、やはり異能者……それも、かなりの手練れであるとアポロンは確信する。そして――
『やれ!』
300人近くいる魔神が一斉に魔法や矢で攻撃した。人間も必死で結界を張って対抗しようとしたが防ぎきれず何人もが被弾している。
人間たちは戦力の薄い側面の魔神たちに攻撃を仕掛けようと、十人程の剣や槍を持った戦士が左側にいる魔神に斬り込んだ。
『無駄なことを……ヘルメス!』
アポロンが声を掛けるとヘルメスは笑いながら剣を抜く。
『任せておけ』
そう言って一歩踏み出すと、その姿が消える。左に向かった人間たちの目の前に現れると一瞬で二人の戦士の体を上半身と下半身に両断した。
人間側がひるむと容赦することなく一斉に遠距離からの攻撃を集中させる。人間側の被害は甚大で、一人また一人と死んでいく。
『この世界の異能者がここに揃ってるなら、全員殺してしまえば私たちに対抗する力はもう無いってことね』
『そうだな、だが油断はするな。確実に一人ずつ始末していけ』
◇◇◇◇◇◇◇◇
「やめろーー!!」
朱雀の団員が何人も殺されていく。団員が殺されているのに団長の私が黙って見ているわけにはいかない。
銀の鎧を着た男の剣を如意金箍棒で受け、間近で睨みあう。
『ほう、少しは戦える奴がいるようだ』
「貴様!」
瞬間、男の姿が消える。どこに行ったのかと探すと――
「がはっ!?」
剣で背中を斬られた。この速さ……中国で五条が倒した“統率者”並だ。
「王!!」
レオやフレイヤが私を助けようと駆けつけてくる。だが、こいつ相手では全員やられる可能性がある。
「来るな!!」
背中の傷が思ったより深い、恐らく長くはもたないだろう。
「私がこいつを押さえてる間に、みんなで脱出を考えろ! レオ、”朱雀”の団員たちを頼む……」
「そんな……」
フレイヤが涙目でこっちを見てくる。この子も才能に恵まれた者……ノアやエミリーと共に、こんな所で死んではダメだ。
この状況では全員生き残るのは無理だろう。
私は覚悟を決め、残った“気”を如意金箍棒に集中させる。余裕ぶった笑みを浮かべた銀の鎧の男に、最後の戦いに挑んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
この日、あまりに多くの敵が突如現れたことにテレビや動画でその様子をみていた世界中の人々は絶望することになる。
一時、こちらが有利との報道が流れたこともあって安心していただけに、ショックがより大きかった。
ある者は神に祈り、ある者は失意に沈み、ある者は奇跡に縋ろうとする。
そんな中――
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うおおおおおおーーーーーー!?」
ラーゼスが開いた扉から出たら、いきなり空中に放り出された。
びっくりしたが、重力操作で体を軽くし風魔法で体勢を立て直す。落下するスピードを殺し、空中に浮かび上がって周りを見渡した。
ここがどこかは分からないが、雲の合間から何か黒い物が見える。
「なんだアレ?」
それはもの凄い数の黒い船だ。空中に浮かんでいるようで、至る所で爆発が起きていることから戦っていることが分かる。
「あれが魔神の軍勢ってことか……」
どうやら戦いの真っただ中に来たみたいだ。そして今まで感じたことのない異様な存在を感じる。
いるな……。この中に魔神王が……。
俺は自分の手にはめた【冥王の十指】を見る。黒い手袋に十色の宝石が付いた物だが、使い方は詳しく聞いてない。
ぶっつけ本番で試すしかないな。
俺は右手を握りしめ魔力を込める。右手にある宝石の内、オレンジ色の物が粉々に砕けて膨大な魔力が辺りに噴き出した。
頭の中に唱えるべき言葉が浮かび上がる。
「なるほど……こうやって使うのか」
俺は胸の前で腕を交差し、落下に身をまかせながら意識を集中した。
「召喚系最高位魔法――」
俺の体からオレンジ色の光が溢れ出し、大気が静寂に包まれる。
「――神々の最終戦争――!!」
大空に巨大な十二の魔法陣が描かれた。




