第144話 陸上自衛隊第16旅団
【モンゴル東部上空――】
「坂木たちの輸送機が入るぞ、援護する」
「「了解!」」
清水を中心とした飛行隊は、自衛隊輸送機の進路上にいる敵を排除するため、編隊を組んで上空を旋回していった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「信号は拾ったか?」
「はい、戦艦が着陸している場所の近くから信号が出ています。ただ戦闘域のド真ん中になります。どうされますか? 坂木空将補」
少し遅くなったが、なんとかモンゴルの上空に到着した。
事前にノアに位置情報が分かる端末を渡してあるので、どこにいるのかは確認できる。
「向かってくる敵は気にしなくていい。清水に任せれば問題ないだろう」
予想通り、清水たちの飛行編隊は2機の輸送機を守りながら、進路上の敵を次々に撃破していく。
やはり改良した戦闘機は充分な戦果をあげているようだ。
「着陸したら、すぐに戦闘になるぞ。準備を怠るな!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【カルロ・バンディス――】
二機の輸送機から出てきた自衛隊員が小走りでこちらに来るが、通常の軍人が何人増えても戦力にはならない。
だがノアは彼らの力を信用しているようだ。
「カルロさん、少しの間あいつを押さえておいてくれますか。僕は自衛隊の人たちと話をしてきます」
「ああ、分かった」
ノアは降りてきた自衛隊のもとへ走っていく。何か考えがあるようだ……こっちはなんとかするしかないか。
「来い! 悪魔!!」
俺は召喚した悪魔で巨漢の男の足止めを図る。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ノア! 遅れてすまない」
「いいえ、来てもらって助かりました。すごく苦戦してましたから、力を貸してもらえるとありがたいです」
「弾薬はありったけ持ってきた。通用するだろうか?」
「やってみましょう」
坂木たちはアレスの姿を確認し、その敵を包囲するように扇型に部隊を展開してゆく。
『なんだ? この世界の雑兵か……お前らごとき何十……いや、何百何千来たところで、意味などないわ!』
「全員、構え!」
40人以上いる自衛隊は5.56mm機関銃をアレスに向け狙いを定める。相手は気にする様子も無く歩き始めた。
「――――撃ていっ!」
機関銃の銃口が一斉に火を噴く。
銃弾はアレスに直撃し、その足を止めた。アレスは太い腕で顔をガードしてその場に仁王立ちになる。
動きを止めることはできたがダメージを受けているようには見えない。
「おい、大丈夫なのかノア!? 通常の銃弾じゃ奴には効かないんじゃないか?」
「通常の弾丸じゃありません」
ノアにそう言われてカルロは改めてアレスを見る。
今まで銃弾など気にせず突っ込んできていたアレスが、防御に徹して動かなくなったことに、カルロは違和感を覚えた。
「必死に耐えてるように見える。どういうことだ?」
「あれは僕たちが作ったオリハルコンの弾丸に、先生が南極に行く前“神殺し”の力を与えた物です」
「そんな物、用意してたんだ……」
「数にして50万発以上」
「50万!?」
そんな大量の弾薬を作っていたことにカルロは衝撃を受ける。莫大な魔力を必要とするため、五条以外の人間では出来ないのは明らかだ。
自衛隊は弾が切れた隊員は後ろに下がり銃弾を装填する。その穴を他の隊員が埋め弾丸の雨が途切れないように攻撃していた。
アレスは苦々しい顔で弾丸を耐えている。
「これはイケるかもしれない……」
自衛隊の攻撃によって完全に足止めされたアレスの姿を見て、カルロは希望を持ち始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
なんだこの弾は……異常なほど威力が強い。俺の“森羅無双”の固有スキルが無ければ蜂の巣にされて死んでいる。
何故、これほどの武器をこの世界の人間が用意できたんだ?
まあいい、防御に徹して耐えればいずれ弾丸は尽きるだろう。その後、ここにいる全員を皆殺しにしてやる。
わずかな時間だけ希望を抱くがいい。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【ノア・シュミット――】
「ノア、俺たちも加勢するぞ!」
ルカさんが弓に矢をつがえ、怪物のような男に狙いを定める。
「待ってください。攻撃するのはまだ早いです」
僕の言葉にカルロさんやルカさんは驚いたようだ。
「どういうことだノア。あいつが防戦一方になってる今がチャンスだろう!」
「ルカの言う通りだと思うけど、何か考えがあるのかい?」
「以前、先生が言っていました。強力なスキルほど大量の魔力を消費すると、あの大男の防御力や腕力は単に身体的なものじゃないと思います」
「つまりスキルだってことか?」
「そうです。そしてスキルであれば使い続けることで魔力が切れるはず、切れたところを一斉に攻撃することであいつを倒せます」
坂木さんたちの五十万発の弾丸はあいつの魔力を削り取るのに充分なはずだ。
「勝負は弾が切れた瞬間です。その時のために準備してください」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【航空自衛隊空将補・坂木――】
これだけの銃弾を浴びて耐えるのか。倒せないまでも、ある程度ダメージを与えられると思っていたが……。
ハッキリとは見えないが、かすり傷一つ付いてないようだ。
「坂木空将補! もう残弾に余裕がありません」
「分かってる」
ノアには相手を消耗させれば充分と言われているが、この化物は本当に消耗してるのか? 何人かの隊員は弾を撃ち尽くしてしまった。
弾幕が薄くなると、化物はガードをしたまま前進してくる。
「全員、後退しながら撃ち続けろ!」
一人、また一人と残弾が無くなると、化物は両腕の隙間から歪んだ笑みをのぞかせた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
自衛隊の最後の一人が弾を撃ち尽くした時、アレスは勝ち誇るように両腕のガードを下ろす。
『ハッハッハ、もう終わりか? では、こちらの番だな!』
アレスは地面を蹴って前方にいた自衛隊員に襲い掛かった。その時――
銃声が鳴ったかと思うと、アレスの頭から血が流れている。坂木が振り返るとノアが銃を構えていた。
「後は僕たちがやります。全員退避してください!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【ノア・シュミット――】
「ノアが言う通り、あいつの頭に傷がついた。やはり、あの防御力や腕力はスキルだってことだね」
カルロさんは召喚している悪魔を前に出して戦闘態勢に入る。
『キサマらーー!!』
「ルカ、アンナ! 回り込んで奴を囲め。エリアス、結界術を前方に展開、他のメンバーも距離を取って迎え撃て!!」
カルロさんの指示で聖域の騎士団や“朱雀”の団員も巨漢の男を取り囲む。
こっちも後れはとれない。
「サラ、クロエ、ビクター。遠距離から攻撃支援! アーサーとルイスは待機してくれ。最後に止めを刺してほしい」
「ええ」
「分かった!」
恐らく、まだ完全に魔力が尽きたわけではないだろう。だが、こちらの猛攻には耐えられないはずだ。
僕は持っていた2丁の拳銃を連結させ1丁のライフルにする。ここに戦力を集中させたのは正解だった。
「決着をつける!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【カルロ・バンディス――】
「行け! 悪魔、猛毒の黒炎だ!!」
悪魔が口から吐き出した毒の炎は怪物に直撃し、黒い炎となって辺りに広がってゆく。
間髪入れずにルカは一射で三本の矢を放ち、アンナも火魔法を唱えて攻撃した。
だが怪物は、それをモノともせず腕を振って払いのける。
能力が完全に使えなくなったわけじゃなさそうだ。“朱雀”の団員が放った矢が当たっても平然とした顔をしていた。
ここから先は根競べだ。
「みんな攻撃の手を緩めるな! あいつが反撃できないぐらい、こちらの攻撃を叩き込め!!」
「「おおっ!」」
『このクソどもが……!!』
そんな時、地面に影が差した。上を見るとクロエが召喚した飛竜が三体、こちらを見下ろしている。
「みんな、離れて!」
三体の飛竜は口を開け、灼熱の炎を吐き出し怪物を攻撃した。
『ぐおおっ……!』
飛竜の背にはクロエだけではなく、もう二人乗っていた。アンナとビクターだ。二人は持っていた杖を高くかかげる。
「雷魔法・轟雷!!」
「複合魔法・雷炎!!」
激しい稲光と赤い稲妻が怪物に直撃した。
『ぐわああああ!!』
効いている。やはり能力はずっと継続するわけじゃない。
「みんな、一斉攻撃だ!」
一定の距離を空けて矢や魔法を叩き込む。何発かは能力で弾いたようだが、全ては防げず体中に傷を負っていた。
『キサマら! いいかげんに――』
「悪魔!」
悪魔は地中から飛び出し、怪物の右手にしがみつく。全身から黒い炎を噴き出し、自分自身も炎となっていった。
『なんだ!? これは!』
悪魔が微笑んだかと思うと、そのまま自爆する。周囲に黒い炎が飛び散り、爆発した場所にはクレーターが生まれた。
『グワァァアアアーーーー!?』
怪物は右手を失い絶叫する。もう能力を使って防御することはできまい。
「今だ! ありったけの攻撃で押し込め!!」
再び空中にいる飛竜が炎を吐き出す。怪物はたまらず炎から出ようとするが、そこへサラとビクターの魔法が襲い掛かる。
ルカの放った矢は肩に刺さって爆発し、アンナやエリアスの魔法も避けることができず直撃していた。
“朱雀”の団員が放つ矢も何本も刺さっている。
『こんな所でーーー!!』
俺に向かって怪物は突っ込んでくるが――
『グアッ!?』
ノアのライフルから放たれた弾丸が怪物の右目を直撃し、血を流しながらたたらを踏んでいる。
俺は手を振り上げ合図を送った。
「接近戦で止めを刺す、行け!!」
それまで待機していた剣や槍、武術を使う戦士たちが一斉に飛び出してくる。怪物も残った左腕を必死に振って応戦するが、多勢に無勢だ。
アンナの魔法剣が腹に突き刺さり、アーサーが振るった剣で頭を斬りつけられ大量の血を流す。
ルイスや“朱雀”の団員など武道家は相手の急所を的確に突き、槍や棍棒を持つ団員は距離を空けて攻撃している。
満身創痍――
もはや決着が着くのは時間の問題だった。ルカが放った三本の矢が胸に刺さって爆発すると巨大な体はゆっくりと地面に倒れていく。
大地が揺れるような衝撃と共に土煙を上げ、怪物は動かなくなった。
「やった……」
相手を倒したとはいえ、こちらもかなり消耗してしまった。早く中央へ行かないと……。
「やりましたね。カルロさん」
「ああ、君や自衛隊。それに、ここにいる皆のおかげだ」
他の仲間たちが怪物の死を確認している。俺も近くに行くと自衛隊を含め、みんなが集まってきた。
「ルカ、どうだ?」
「息はしてない。死んでるみたいだ」
「そうか……」
取り敢えずホッと一息ついて振り返った。その時、後ろで大きな音がする。
慌てて振り向くとルカを左手で突き飛ばし、こちらに突っ込んでくる怪物の姿が目に飛び込んできた。
まっすぐノアに向かっていく。
マズイ、ノアは銃をしまっている。今は無防備な状態だ……俺はノアを庇おうと全力で飛び出した。
ノアは五条から預かった大切な子供だ。この戦いでも中心となって活躍してくれた。この子を死なせるわけにはいかない。
そう思って手を伸ばしたがギリギリ届かない――
次の瞬間、ノアの前に一人の男が立ちはだかった。男は怪物に押し倒されるが、拳銃を怪物の口に突っ込み引き金を引く。
何発かの銃声が鳴り響くと怪物は完全に動かなくなる。
今度こそ本当に死んだようだ。
「坂木さん!」
「オリハルコンの弾丸は拳銃にも入れてたからな。数発しかないが……」
「大丈夫ですか?」
「ああ、年甲斐もなく無茶してしまった……。押し倒された時、骨を何本かやってしまったようだ」
さっき来た自衛隊員がノアを助けたのか……。最終的にはこの戦い、異能者でもなんでもない自衛隊員が決着を着けてしまった。




