第143話 万能の力
【東京メディアセンター】
「先輩、先輩!」
「なんだ! うるせーな」
「これ見てくださいよ!」
後輩の木下に見せられたのは、投稿サイトに上がっていた黒い戦艦の動画だった。空を覆い尽くすほどの数だ。
「モンゴルからの投稿か?」
「ええ、動画を上げたのは一般人ですね。別のサイトにも複数の動画が投稿されてるみたいですよ」
このメディアセンターでも政府から映像や画像は提供されていたが、極一部の切り取られた物だけだった。他のマスコミからも情報不足を指摘する声は多い。
「こっちの方がよっぽどいいな」
「でしょ! ここだと情報が遅いし少ないですからね。ネット上ならリアルタイムで配信されてる所もありますよ」
「お前はここに残れ」
「え?」
「俺は本社に戻ってWebサイト用の記事をまとめる。何かあったらメールしてくれ!」
「ちょっと、先輩!」
俺はメディアセンターを飛び出し、タクシーを止める。今のご時世、情報を制限するなんて無理だからな。起きてることは全部記事にしてやる。
やっと面白くなってきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【四つの戦艦がある南東―― フレイヤ・王】
「一応確認だが、武器は持たないのか?」
『私に武器は必要ありませんよ。試してみますか?』
「上等――!」
王は如意金箍棒を地面に突き刺し、長さを一気に伸ばした。その勢いで瞬時にガイアに接近する。
『おお、速いですね』
王の蹴りをガイアは紙一重で躱す。王は如意金箍棒を収縮させ、踏み込んで棍棒を叩き込もうとするが……。
ガイアは右手の人差し指を下から上へと動かす。
「え!?」
地面を蹴って相手に近づこうとした王は驚きを隠せない。体が軽くなり、大きく飛び上がってしまう。
フワフワと空中を回って、うまく動きが取れなかった。
「これは、まさか……!?」
ガイアが王に気を取られている隙に、フレイヤが猛スピードで相手に迫る。光の魔法を使った光速移動法だ。
フレイヤの剣が届こうとした瞬間、ガイアは指を上から下に動かす。
「きゃっ!!」
フレイヤはその場に激しく倒れた。
『どうしました? 私はまだ指しか動かしていませんが』
「くそっ! フレイヤ。あいつは重力を操っている」
「重力?」
「以前、五条と訓練をしていた時、見せてもらったことがある。とにかく距離を取れ、有効範囲は狭いはずだ」
王とフレイヤはガイアから50メートル以上距離を取る。
『ほう……私の力が重力を操るものだと、すぐに気づきましたか。なかなか優秀ですね』
ガイアは嬉々とした声で王とフレイヤに余裕綽々で話しかけてくる。二人は遠距離からの攻撃を試みた。
「伸びろ! 如意金箍棒!!」
瞬時に伸びる棍棒がガイアに向かっていく、しかしガイアが指を動かすと棍棒は地面に叩きつけられ相手まで届かない。
「物理的な攻撃がダメなら……光魔法・収束する激光!」
フレイヤが放った閃光は真っ直ぐにガイアに襲い掛かった。だが――
『無駄ですよ』
ガイアの前で光が屈折し、王の棍棒と同じように地面へと落ちていった。
「そんな……」
『重力とは時空の歪みです。たとえ光であっても、重力の影響から逃れることはできない。私の能力に欠点など無いんですよ』
遠距離からの攻撃も効かないとなれば、王たちには打つ手が無くなる。
『それに――』
ガイアが手をかざすと、高重力が二人に襲い掛かってきた。
「がはっ!?」
「何!」
二人は立っていることができず、地べたに這いつくばる。
「……どうして?」
『なぜ私の能力の有効範囲が狭いと思ったのか分かりませんが、この【重力支配】の効果範囲は数キロはありますよ』
「数キロだと!?」
王は五条と訓練のため戦った日のことを思い出していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【中国・四川省成都市 十日前――】
「くそーっ! 一撃も当たらないじゃないか。前より強くなってないか!?」
「王の棒術もすごいよ。いろいろ勉強になる」
「他には、どんなことができるんだ?」
「そうだな……例えば……」
五条が手をかざすと、私の体が軽くなりフワリと浮き上がった。風が巻き起こって、上空へと飛ばされる。
「うわあああーーーー!!?」
五条が風魔法を使って私と一緒に空を飛んでいた。五条はうまく飛んでいるが、私はクルクル回っているだけだ。
フラフラになって地面に着地する。
「これが“重力操作”だ。俺がもっとも得意な能力でもある」
「す……すごいな。ちょっと吐きそうだが……」
五条が言うには対象の物体を重くすることも、軽くすることもできるらしい。正直、反則みたいな能力だと思った。
「この能力があれば魔法も武術もいらないんじゃないか?」
「うーん、とは言っても欠点もあるしね」
「どんな欠点があるんだ?」
「例えば有効範囲だ。俺を基点に半径50メートルくらいしか影響を与えられないし、それに致命的だと思う所もある」
「なんだ?」
「それは――」
◇◇◇◇◇◇◇◇
敵の放つ高重力が私とフレイヤにのしかかり、メリメリと音を立て体が軋む。恐らく、もっと負荷を上げることはできるだろう。
これ以上、重力を上げられたら耐えられない。
『抗っても無意味、“重力”は全ての物質に作用する万能の力です。諦めるしかないと思いますよ』
「……そうかな、自分の……力を過信…しすぎじゃないか?」
『息も絶え絶えになりながら、そんな強気な態度が取れますか……素晴らしいですね』
そう言って鎧の男は重力の負荷を更に増す。
「がはっ!!」
如意金箍棒を地面に立て、それでなんとか体を支えるが……もはや立つことはできない。フレイヤも地面に這いつくばり、耐えるのが精一杯だ。
私は最後の賭けに出る。
「伸びろ! 如意金箍棒!!」
金箍棒を斜め上に向けて伸ばした。この棍棒の伸縮は、強力な力をもってしても簡単には抑え込めない。
『いったい、どこを狙って……』
鎧の男は如意金箍棒が自分の真上に来ていることに気づく。
「重力は確かに強力だが、その力の向きは上から下へと一方向にしか働かない」
長く伸びた如意金箍棒は、大地に引っ張られるように猛スピードで落ちていった。男は慌てて能力を解除しようとしたが間に合わず――
『ギャアアアアアーーーーー!!』
金箍棒が鎧の男の肩に直撃する。鎧と骨を砕き、ミシミシと音を立て肩に深々と食い込んでいく。
重力を操る能力が解除され、体が軽くなった。
「フレイヤ!!」
「分かってる!」
フレイヤは光速の歩法を使い、敵にあっという間に接近した。手に持った剣には眩い光が宿り、体勢を立て直せない敵に襲い掛かる。
「――聖竜鋼断剣――!!」
フレイヤが放った一閃は男の上半身と下半身を分断した。あまりの速さに対応できず、鎧の男は一瞬で絶命する。
「ハア……ハア……やったね。王」
「ああ、なんとか勝てたな」
この敵が一歩も動かなかったのは、単に余裕ぶってただけじゃなく自分の能力の効果範囲に入ることを嫌ったんだろうな……。
私は膝を突いているフレイヤに手を差し伸べる。
「急ごう、レオたちも中央に来ているか心配だ」
「うん!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【四つの戦艦の北西―― カルロ・バンディス】
「おいおい……嘘だろ……」
30人以上いたこちらの戦力がもう半分以下になっている。この獣みたいな化物、強すぎるだろう。
『フハハハ、どうした。この程度か?』
俺たちに囲まれながら、まったく意に介する様子もない。
「カルロさん。ここは一旦引きましょう。このままじゃ全滅もありえます」
「ノア、俺もそうしたいが倒れた仲間を置いていくわけにはいかない。少なくとも、あいつの足止めをする必要がある」
目の前に立ちはだかる巨漢は笑いながら、その腕力で“朱雀”やルカたちを薙ぎ払っていく。地面を殴れば大地は爆ぜ、衝撃で辺りにいた仲間たちも吹き飛ばされる。
力だけなら五条より上なんじゃないか?
この化物には物理攻撃はまったく効かず、魔法でもほとんどダメージを与えることができなかった。
俺たちが苦戦していた時、東の空から2機の輸送機が近づいてくるのが見えた。
「どこの国の機体だ?」
こんな所に来たら危険だ。
「ルカ、爆発する矢で威嚇射撃できるか? こちらに近づけないようにしてほしい」
「分かった。やってみる」
ルカが弓を構え、矢を放とうとすると――
「待ってください!」
ノアが叫んでルカを制した。
「どうしたんだ、ノア?」
「あれは自衛隊の機体です」
自衛隊? 日本の輸送機だったのか……。
2機の輸送機が着陸すると、数十人の武装した隊員が降りてくる。
「これで勝てるかもしれません」
ノアが自信ありげに笑みを浮かべた。




