第141話 地上戦
【モンゴル上空・欧州軍輸送機内 レオ・ガルシア――】
「もうすぐ着陸地点だ。あまり近づきすぎると撃墜されるからな、目標までは少し距離が離れた場所になる」
俺とフレイヤ、カルロなどの“聖域の騎士団”の戦闘要員、それにもう一機の輸送機には子供たちも連れてきていた。
さすがに危険な戦場に子供を連れてくるか悩んだが、彼らの力がどうしても必要なほど我々にとって重要な戦力になっている。
「敵の配置はどうなってるの? 変な物を設置してるって聞いたけど……」
「確かに、一番知りたい所だね」
フレイヤとカルロの質問に俺は大きな紙の地図を広げた。
「ここが現在地だ。敵の戦艦はここに4隻、一点を囲うように着陸している。その周りに多数の兵士が出て、守りについているらしい」
「上空からの攻撃はダメなの?」
「ああ、強力な“障壁”があって空どころか、地上からも遠距離の攻撃は届かない。中央に進むには直接近づくしかないな」
「軍隊では突破できなかったのか?」
弓の調整をしながら、ルカが聞いてくる。
「何度も防衛ラインを突破して中央の装置を破壊しようとしているが、何度やっても失敗しているみたいだ」
「向こうの兵士が強いってことか?」
「いや……敵の中に特殊な能力を使う“人間”がいるようだ」
「あっちの世界の異能者だな」
「ああ、黒騎士のような奴がいると考えた方がいい」
「だが、そこまで厳重に守るってことは、よっぽど大事な物があるってことだろ。なんなのか想定してるんじゃないのか?」
ルカの言葉は、ここにいる全員が気になっていることだろう。
「明確には分かっていないが、恐らく通信妨害か魔物を出現させる装置じゃないかと司令部は考えているようだ。時間は無いと思った方がいい」
「全員で一ヶ所から突破するのが早いんじゃない?」
「それも考えたが、もし全員で行って突破できなければ大幅に時間をロスすることになり、かなりリスクが高い。ここは戦力を4つに分けて、防衛ラインを突破した者がそのまま中央の装置も破壊できればベストだ」
「まあ、確かに向こうも戦力が均等に分けられてるとは限らない。強いのと当たったら、そこで終わりになっちゃうしね」
カルロがあっけらかんと言ったが、その通りだ。
「戦力分けはどうするの?」
「フレイヤ、君は“朱雀”の王と合流してくれ。彼らもすでに来ているはずだからな……他のメンバーの分け方も考えてある。準備してくれ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【スイス・ジュネーブ 国連本部】
「聖域の騎士団と“朱雀”が合流した模様、各自散開して侵攻するようです」
「そうか……」
国連軍総司令官のマシュー・ウェイドは現状を冷静に分析していた。ここでは国連軍、NATO軍、欧州軍の指揮系統を統一し、その連携を図っている。
その巨大な軍の全指揮を任されたのがマシューだ。
「南極に変化はないか?」
「ハイ、五条氏が入っていった洞窟の入り口をモニタリングしていますが変化はありません」
「五条の力は頼れないな……地上の部隊はどうだ?」
「ダメです。やはり特殊な力を持つ“人間”に、進路を阻まれると報告が入っています」
「やはり異能者か……異能者には異能者。レオ・ガルシアたちに任せるしかない。地上の部隊を一旦下がらせろ!」
マシューは異能者に対して偏見が無く、この世界の希望だと考えていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【東京・メディアセンター】
「おい、どーなってんだ! まともな情報なんて、ほとんど入ってこないぞ」
「僕に言われてもしょーがないッスよ!」
日本のマスコミ関係者はここ、東京メディアセンターに集まっていた。今、世界で何が起きているのか国連を通して日本政府に伝えられ、その情報を一括してリリースする形を取っている。
慶朝新聞社の松田もメディアセンターに詰めていたが、重要な情報が公開されていないと不満を漏らしていた。
「何かおかしいな……パニクッてるって言うより、意図的に何かを隠している感じがする」
「考えすぎじゃないっすか」
「じゃあ、なんで五条の情報が無いんだよ! 敵の軍隊が出てきたなら真っ先に飛んでいくのがヒーローだろうが」
「先輩、五条にこだわりすぎですよ」
「うるせーよ!」
五条に関することは会見で他のマスコミも質問したが、政府の広報が明確に答えることは無かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【モンゴル・着陸した四つの戦艦の南西――】
戦艦から降りた守備隊から少し離れた場所、私は後方で船体の外板に背中をあずけ、目を閉じ腕を組んでいた。
“王”の命とはいえ、単なる守りの仕事。しかも、この世界の兵士は凡庸なこちらの守備兵を抜くことさえできないでいる。
退屈さに辟易していた時、先ほどまで銃声が聞こえていた前線が急に静かになった。
人間が攻撃するのを諦めたのか?
情けない連中だ……そう思っていると、向こうから一人の男が歩いてくる。
剣を携え、鎧をきていた。
あれは今まで来ていた“雑兵”ではない。前線にいた、こちらの兵を一瞬で倒した力のある戦士だ。嬉しさで顔が緩むのが自分でも分かる。
私は“戦士”に向かって歩き出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『まさか、ここに一人で来る者がいるとは驚いたよ』
突然、話しかけてきたのは長い黒髪で、鎧を着た男だった。
「言葉が分かるのか?」
『これは“念話”という能力だ。話しているわけではない』
「よく分からないが、あんたがここの防衛ラインのボスのようだな」
『まあ、そうだな。ところで何故一人で来たんだ。大勢で来た方が、ここを抜けて中央に行ける可能性が高かったんじゃないのか?』
「かもしれない……だが強力な敵がいれば足止めされる危険性もあるからな。リスクを分散させただけだよ」
『ハハハ、なるほど賢明な判断だ。確かに、ここに戦力を集中させていたら全員死んでいただろう』
自信ありげに笑い声を上げる。ハッタリではないようだな。
「あんたが、ここに来た異能者の中で一番強いのか?」
『その通り、私より強い者はここには来ていない』
「そうか……死ぬのが俺だけなら問題ない」
『潔いな。名を聞こう』
「レオ・ガルシア。あんたは?」
『クロノス……“王”より授かった名だ』
俺は持っていた剣【デュランダル】を鞘から抜いた。
「もっとも、ただ黙ってやられるわけにはいかないが」
『だろうな』
クロノスと名乗った男も剣を抜く。どこまで通用するか分からないが、やれる所までやってみるさ。
爆風を巻き起こし、相手の視界を奪った瞬間に斬りかかった。
だが、剣で正確に受けられ刃が届かない。クロノスの攻撃を何回か受けるが、もの凄いスピードとパワーだ。
気を抜くと意識を持っていかれる。
『思ったより、良い腕だ。この世界でも相当強い方だろう』
「それはどうも、ただ上には上がいるんでね」
俺が風の魔力を宿した魔法剣で相手の剣をはじき返す。クロノスはわずかによろけるような仕草を見せた。
ここで一気に畳み掛ける。
風魔法を使って俺の後方から強い突風を吹かせた。相手の体勢を立て直すことを阻害し、俺自身は加速して相手との距離を詰める。
剣を振り上げ斬りかかった。
『調子に乗るなよ』
クロノスの目に見えない程の剛剣が、俺の胴体を横に真っ二つにする。
『何!?』
俺の体は揺らめいて消えていく。密度の異なる空気の層を作り出すことで、光を屈折させ幻影を生み出す――
「風魔法・幽世の蜃気楼!」
屈んだ状態でクロノスが剣を振り抜くのを待っていた。隙が生まれた瞬間、奴の脇腹目がけて剣を放つ。
鎧を砕き、深々と剣が突き刺さる。充分な手ごたえを感じた。
「よしっ!」
『見事だ。ここまでとは……』
勝利を確信したが何故か記憶が曖昧になり、見るとクロノスの剣が俺の脇腹に刺さっている。
「え?」
剣を突き刺そうとしたはずなのに、クロノスは無傷だ。
「……どうして……?」
『0.5秒時間を巻き戻し、時を止めた。もっとも君は何が起きたのか分かっていないだろうが』
「がはっ!」
剣が引き抜かれ、口と傷口から大量の血が噴き出す。何をされたんだ……!?
見上げるとクロノスは不敵に笑っていた。
神将クロノス
魔神種 Lv4428
【固有スキル】
時空間支配




