第135話 鍵
「魔神王の劣化版……俺が……」
『私は魔神王を倒すため、どうすればいいのかをずっと考えていた。結論は魔神王と同じような能力を持つ戦士を作り出すことだ。魔神王と対極の能力だったアイアスが敗れた以上、それ以外にはないだろう』
「でも、俺では勝てないんだろ? 理由はなんなんだ」
『君に渡した能力は、私が“魔神”や“神託の獣”の能力を模倣して作った物だ。オリジナルの能力には及ばない。例えば“神速”はキマイラほど速くはしてくれないし、“業魔の鎧”はタイタンほどの魔法防御は与えてくれない』
「魔神王は違うのか?」
『魔神王は、魔神が使う能力をほとんど持っている。能力も、他の魔神より劣るなんてことはない。そもそも人間の君には“魔神”や“神託の獣”と同じ能力を使うことは無理なんだ。だから人間でも使えるように調整した物しか渡していない』
そういうことか……。確かに“統率者”の凄まじい能力を完全に受け継いでいる感じは無かった。人間の肉体では限界があるってことか……。
「だったら魔神王を倒すことは永遠に無理ってことなのか?」
『いいや……魔神王に勝つ方法はある。そのために君をここに呼んだんだ』
ラーゼスはそう言って手をかざした。地面に魔法陣が展開されて、中から半透明の炎の鳥が現れる。
「不死鳥!」
『元々は、私がテイムした精霊だったんだ。今は君がテイムしているけどね』
不死鳥は舞い上がり、ラーゼスの頭上を飛び回る。
「ひょっとして、そいつを俺のもとへ来させたのは……」
『私だよ。君にはこの不死鳥を使いこなしてもらう必要があったからね。この精霊こそ魔神王を倒すための一つ目の鍵だ』
何体かいたゴーレムが、大きめの杯を持ってやってきた。不死鳥は一番大きなゴーレムの肩に止まる。
ゴーレムは杯をその場に設置し、静かに後ろに下がる。
「これは……?」
『“神炎の聖杯”だ。私が作った魔道具の一つだよ』
ラーゼスが聖杯に近づき、両手をかかげ魔力を込めているようだった。実体の無い体だが、魔力は操れるみたいだ。
さっきは魔法陣を展開し不死鳥を呼び出していたし、俺がテイムしている魔物をどうやって召喚するのか分からなかったが、この迷宮内でラーゼスはなんでもできるような気がした。
そんなことを考えていると、聖杯から白い炎が噴き上がる。
ゴーレムの肩に止まっていた不死鳥が高く舞い上がり、真っ直ぐに聖杯の炎の中に飛び込んでいった。
「うわっ!?」
白い火の粉が辺りに飛び散り、聖杯の中の炎は一際燃え上がる。
噴き上がった炎の中から白く神々しい炎を纏った不死鳥が現れた。不死鳥は以前より大きくなっているようだ。
「これは……?」
『今の君なら、この“神託の獣”を操ることができるだろう』
俺は鑑定を行使する――
神炎の不死鳥
精霊種 Lv3901
【固有スキル】
不死身 神炎
「何か強くなってるぞ!」
手の上にテイムのリストボードを展開し、確認した。
【テイム】
神格種 ヴィシュヌ SSS
神竜 ヒュドラ SSS
岩の巨人 タイタン SSS
炎竜王 シヴァ SS
守護者 ラべリア SS
羅刹種 ラーヴァナ SS
獣人種 ハヌマーン S
精霊種 神炎の不死鳥 S
妖精種 スプリガン AAA
魔獣種 キマイラ AAA
金属の巨人 ギガス A
竜種 飛竜 B
不死鳥がAAからSにまで上がってるな……。【固有スキル】に“神炎”ってのが増えてたけど、どんな能力なんだろうか?
『君が魔神王に勝つのに必要なのは、十二体の召喚獣だ。それもAランク以上、より強力な召喚獣でなければならない』
「十二体の召喚獣って……」
『君はすでに十一体のAランク以上の召喚獣をテイムしている。残り一体……その一体は最強の魔物が必要だ』
「そんな魔物がどこにいるんだ? 都合よく現れないだろう」
『そのために呼んだと言ったはずだ』
「じゃあ……」
『そう、いるんだよ。魔神王を倒すために最も必要な魔物が、この“次元の迷宮”に……私たちがいる場所のすぐ下の階層にね』
「どんな魔物なんだ?」
『それは歩きながら話そうか、不死鳥おいで!』
ラーゼスが不死鳥を呼ぶと、ゴーレムの肩から飛び立ちラーゼスの後をついていく。しばらく歩くと下の階へ続く階段があったので、そのまま進んだ。
階段は暗かったが不死鳥の炎が灯りとなって足元を照らす。
その階は、赤い霧がかかったような場所で視界も良くない。歩いていると、上の階層と同じように少し開けた空間がある。
「どこに魔物がいるんだ?」
『うーん……少し厄介なことになった』
「なんのことだ?」
『本来、この迷宮は一度入ると抜け出せないような迷路になっているんだが、今日は君が来るため、その機能を停止しているんだ』
本当に“次元の迷宮”をコントロールしてるみたいだな。
「それに何か問題があるのか?」
『招いていないお客さんも来てしまっている』
俺はハッと気づき、霧の向こうに視線を移す。俺たちが来た階段と反対方向から人の気配があった。
この赤い霧のせいで“空間探知”での発見が遅れてしまったのか……。
霧に阻まれて、その姿がハッキリ見えなかったが近づいてくるにつれ、だんだんとその容姿が見えてくる。
銀色の甲冑を着た二人組だ。色こそ違うが甲冑のデザインは黒騎士が着ていたものと似ていた。
「あいつらは……」
『魔神だね。それも“神将”のようだ』
向こうも俺たちを認識したらしい。見た目は人間と変わりなく、白人の男性と背の高いヒスパニック系の女性に見える。
『おい、あいつらじゃないのか?』
『右の若い方が探していた男ね。もう一人は大昔に逃げたお尋ね者の“錬金術師”じゃないの?』
『二人とも連れて帰れば大手柄だな。久しぶりに腕がなる』
男の方が構えると、体の周りから炎が噴き出す。
『やりすぎて殺さないでよ。生かして連れ帰るように言われてるし、ここから出る方法を知ってるのもあいつらだけなんだから』
『分かってるよ!』
男は腰に下げていた鞘から剣を抜き、こちらに向かって振り下ろす。
剣先から炎が迸り、体の周りで噴き出していた炎と合わさり巨大な火球となって俺に襲い掛かってきた。
「結界術!」
俺は前方に光のシールドを展開し炎の攻撃を防ごうとしたが、思ったより威力が強くシールドは破壊されてしまう。
固有スキルの“結界防御”が発動してなんとか防ぎ切った。
『おお! 防がれたか……思ったよりやるようだな』
『遊んでる場合じゃないわよ。奴らを捕らえてさっさとここから出ないと、この世界の侵攻の手柄を他の“神将”に取られるじゃない!』
『チッ、分かってるって言ってるだろうが……おい! そこの奴ら。五条とラーゼスだな、俺は魔神将のハイペリオン。こっちは同じくテミスだ。お前らを殺す気はない、おとなしく投降しろ!』
俺たちを殺しに来たんじゃないのか……。
「あんなこと言ってるけど、どうする?」
『できれば邪魔なので帰ってもらいたいところだが……』
まあ、そりゃそーだろーな。だけどあいつらから色々情報が聞けるかもしれないし、できれば生かしたまま捕らえたいな。
「こっちもお前らを殺すつもりはない。武器を捨てて降伏してくれ」
『ハハハ、何かほざいてるぞ!』
『私たちの力を知らないってことかしら?』
『魔神になることすらできなかった出来損ないのヒュブリスを倒したぐらいで付け上がるなよ! 本物の魔神がどういうものか教えてやろう』
黒騎士の……アイアスのことを悪く言ってるようだ。ラーゼスは無表情だったが、静かな怒りを感じる。
「黙らせてくる」
『ああ……頼んだよ』
俺は二体の魔神に向かって歩きだした。




