第115話 決戦の地
もう魔力が残り少なくなってきた。光速歩法は魔力の消費が多い、あと数回できるかどうか……それに対してこの黒騎士は、まだ本気を出してる感じがしない。
せっかく、レオに忠告されたのに活かすことができなかった。
せめて子供たちだけでも助けるにはどうすればいいか………そんなことを考えていると黒騎士は不意に剣を降ろし、振り返って歩き始める。
「え?」
急に戦意を失ったかのように去っていき暗闇の中に消えていった。
「どうして………」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「フレイヤ、大丈夫か!?」
フレイヤから黒騎士に襲われたと連絡を受けて飛んできた。実際スイス政府からジェット機をチャーターしてもらって急いで来たが………。
「大丈夫だよ。言ったでしょ、もう居なくなったって」
特別保護学校の一室を使わせてもらい、フレイヤと話をすることになった。
「最悪の場合は五条に連絡を取って助けに来てもらうつもりだったが」
「ゴジョーにそんな迷惑かけられないよ」
ここには俺とエリアス、ルカの三人で来ていた。イギリスにはカルロとアンナも来ていたが、黒騎士がイギリスに現れた以上、子供たちのもとを離れるわけにはいかないからな。
「それでどんな奴だった?」
「見た目は話に聞いていた通りだった。戦った印象はもの凄く強い………恐らくレオよりも強いと思う」
「そうか……何か戦い方に特徴はあったか?」
「“結界術”と“魔法剣”を使ってたのは確認できたわ。剣を得意とするタイプ、戦闘スタイルはレオに似てるんじゃないかな」
黒騎士と実際に戦って生き残った者は、今までいない。フレイヤの情報はかなり貴重なものだ。
「でも、どうして黒騎士は戦いを辞めて去っていったんだ?」
エリアスが当然の疑問を口にする。俺も一番気になる所だ。今まで途中で殺しを止めたことなんて無かったからな。
「分からない……私の方が明らかに劣勢で向こうの勝ちは確実だったはずなのに、まるで興味を失ったみたいに去っていったの、ただ……」
「ただ、何だ?」
「気のせいかもしれないけど……誰かを探してるんじゃないかな?」
「探す?」
どういうことだ。無差別に異能者を殺すのが目的じゃなく、特定の人間を狙ってるってことか?
「どうしてそう思うんだ?」
「黒騎士が私に興味を失ったのって、私が最大の技を放ったすぐ後なのよ。これ以上打つ手がないと思った時に去っていったから、期待した実力じゃなかったって認識したのかと思って……」
その話を聞いて俺たち三人は黙り込んだ。黒騎士の行動の理由が読めなかったからだ。そんな中、ルカが自分の意見を口にする。
「実力のある異能者を探しているなら、五条のことなんじゃないか。それ以上強い異能者なんていないんだから」
「それは無いだろう。以前ならまだしも、今は五条の名前も顔も表に出ている。情報があるのに探す必要などないはずだ」
俺はルカの意見を否定した。ありえないと思ったからだ。
「………こちら側の人間じゃないとしたら?」
エリアスの言葉に俺は驚いた。
「どういう意味だ?」
「仮説なんだが、もし俺たちの世界に魔物を送り込んでる人間みたいな存在がいたとして、自分たちが送った魔物が次々倒されたら調べに来るんじゃないか? そしてこちらの世界の情報にはアクセスできない。文字も言葉も違うからだ」
確かに有り得なくはない‥………アレクサンダーも以前、何者かの意思を感じると言ってたしな。
「じゃあ、ゴジョーを倒すために来たのが黒騎士なの?」
「分からない。あくまで仮説だからな」
フレイヤの疑問にエリアスが曖昧に答える。
「筋は通るな。だが、だとすると一つ疑問が生まれる」
「なんだ? 何か気になるのか、レオ」
「もし、その仮説が正しいなら相手は五条の強さを知ってることになる。自分たちの強力な魔物を倒されているなら最大限の警戒をして刺客を送るんじゃないか? なのに何故一人なんだ」
俺の言葉に三人は考え込むように沈黙した。
「フレイヤ、戦ってみてそいつは五条に勝てそうに思ったか?」
「それはないよ。黒騎士は強かったけどゴジョーの強さは規格外だからね」
エリアスの問いにフレイヤが答える。それはそうだろう五条に勝てる存在がそうそういるとは思えないからな。だけど……。
「何か嫌な予感がする。五条と、この“黒騎士”を会わせてはいけないような。そんな気が……」
「だったら五条と黒騎士を一対一にさせなければいい。俺たちがサポートすればいいだけの話だ」
「そうだぜ。俺たちは飾りじゃないんだからな」
ルカとエリアスが俺の不安を払拭してくれる。確かに五条と共闘すれば万が一にも後れを取ることは無いだろう。
「そうだな。余計なことを口にした……フレイヤ、君に頼みがある」
「何、急に?」
「戻ってきてほしいんだ。この件が片付くまでで構わない、頼む!」
俺は真剣な目でフレイヤを見つめた。アレクサンダーが抜けたことで戦力不足はいなめない。どうしてもフレイヤには戻ってきてほしいが……。
「うん、分かったよレオ、子供たちが安心して暮らせないようじゃ困るからね。この黒騎士を倒すまでは協力する」
フレイヤが明るく承諾してくれたので俺やエリアスたちも安堵の表情を浮かべた。
「これからどうするの? 五条の周りで黒騎士が来るのを待つの?」
「いや奴が五条を狙っているなら、次に来る可能性が高い場所の見当が付く」
エリアスとルカも、俺の言葉の意味が分かったようだ。
「それって何処なの?」
「タイのバンコクだ。五条が国連の公聴会に呼ばれてる。もしそこに聖域の騎士団や“朱雀”が集まったとしたらどうだ?」
「強力な異能者が揃うってこと?」
「そうだ。この公聴会は世界的にも注目されてるし、黒騎士が情報にアクセスできなかったとしても異変には気づくだろう」
「絶対ではないけど、可能性は高いってことね。じゃあ私たちにとってバンコクが……」
「ああ、決戦の地になるはずだ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
公聴会、当日――
俺がいる岐阜基地から自衛隊の航空機で、タイのバンコクに行くことになった。坂木さんや清水さんとは別れ、若い自衛隊員数名が同行してくれるみたいだ。
「五条さん、公聴会自体は心配しなくていいと思うけどマスコミ関係が大勢集まってるはずだから、そっちだけ気を付けてな」
清水さんが見送りに来てくれた。今では自衛隊での階級が上がったみたいで、忙しいはずだけど心配してくれるのはありがたい。
「分かりました。行ってきます」
航空機の扉を閉め、出発の準備をする。今、搭乗しているのはU-4という多用途支援機らしいが、わざわざ国費を使って乗せてもらうのは気が引ける。
バンコクに行ったことはないが瞬間移動と飛行の能力を使えば、すぐにでも行けるだろう。まあ、こんなことを言うと桜木さんに常識しらずと言われそうだが……。
そんなことを考えていた時、同乗した隊員に声を掛けられた。
「五条さん、自分は岐阜基地所属、3等空尉の東堂と言います。岐阜基地でお会いすることはほとんどありませんでしたが、一言いわせてください」
「はい、なんでしょう……」
「自分は、日本が化物に襲われていた時、最前線にいました。五条さんが助けてくれなければ死んでいた人間の一人です。改めてお礼を言わせてください」
「いいですよ。そんな……」
「そのうえで、五条さんに聞いてほしいことがあります」
東堂と名乗った隊員は、真剣な眼差しで俺の目を見た。
「自分の周りで五条さんを悪く言う人間は一人もおりません。みんなあなたに感謝していますし、それは世界中の人も同じだと思います」
「そう言ってもらえると嬉しいけど」
「批判している人は単に声が大きく聞こえるだけで、五条さんを称賛する声の方が圧倒的に多いのは間違いありません」
東堂は語気を強めて主張した。
「五条さんは自分にとって、我々日本人にとって誇りです。それだけは覚えておいてください……言いたいことはそれだけです」
「……ありがとう。覚えておくよ」
面と向かって言われると、ちょっと照れ臭い感じがするな。航空機はゆっくりと動き出し、バンコクに向かって飛び立った。




