第114話 光と闇
【フランス・聖ヴィクタル修道院】
先生がいなくなってから僕たちは気が抜けた状態で毎日を過ごしている。先生は落ち着いたらまた来るって言ってたけど、報道はむしろ過熱してる感じがした。
異能力の扱いの授業も、僕たちを教えられる先生がいないため今は中止されている。普通の授業を悶々と受ける日々が続いていた。そんな時――
「みなさん、今日はみなさんにお客様が来られています」
修道女が教室に入ってくるなり、そう言って外にいる人に入室を促した。なんだろうと思っていると――
「やっほーー。元気かな少年少女たち」
「「えっ!!??」」
入ってきたのは聖域の騎士団のカルロとアンナだ。憧れのスターが目の前に現れたことで驚き過ぎて一瞬頭が真っ白になった。
「まあ、ビックリするだろうけど色々あってね。修道院の許可は取ってあるから、僕らと一緒に出掛けてほしいんだ」
「ど、どうしてカルロさんとアンナさんが、こ、ここに来たんですか?」
僕がパニック状態で聞くと、カルロさんが答えてくれる。
「五条に頼まれてね」
「先生に? どうして先生が………ひょっとして異能者が殺されてる事件と何か関係あるんですか?」
「詳しいことは後から話すから、とりあえず出かける準備をしてくれ」
「出かけるって……どこに行くんですか?」
僕の問い掛けにカルロさんは笑顔で答えてくれた。
「イギリスだよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
『この映像を見る限り、五条将門さんが巨大な怪物を出して“塔”を攻撃しているわけですが、やはり異能者とはいえ異常ということでしょうか?』
『そうですね。私は異能者の研究をしておりますが、彼のような例は知りません。場合によっては彼が世界の危機を作り出しているという可能性もあります』
『しかし、五条さんが世界を救っているのも間違いないわけですよね』
『そこですよ。つまり自作自演、マッチポンプを行っているかもしれないということです。人間には承認欲求というものがありますから自分を英雄だと人々に思わせたい。それが動機ということも……』
『なるほど、あくまで可能性の話ですが専門家である宝田さんがおっしゃるのであれば軽く考えることもできませんね』
「なんだこのニュース番組は!! 誰のおかげで普通に暮らせてると思ってんだ。腹が立ちすぎてテレビを壊しそうになる」
テレビで流れてるニュースを見て清水が激高している。言っているのは極一部の人間だけなんだから放っておけばいいのに……。
「テレビ局に抗議の電話を掛ける!」
「やめておけ、ただのクレーマーだと思われるぞ。それより五条さんは今、出かけてるのか?」
「ああ、自衛隊の宿舎にいるのも息が詰まるからな。コンビニに買い物に行ったみたいだ。帽子を目深に被って変装してたぞ」
「トラブルに遭ってなきゃいいが」
◇◇◇◇◇◇◇◇
岐阜基地の前で車に乗って張り込みをしてるが、なかなか五条には出会えない。ここで目撃されることが多いだけで確実にいるってわけじゃないからな……。
そんな時、帽子を被って顔が見えにくい男が岐阜基地に戻ってきた。
俺は車から降りて男に近寄っていく。
「五条さんですか?」
「ん? 誰ですか」
当たりだな。俺は確信してバッグからICレコーダーを取り出した。
「初めまして、慶朝新聞社の松田といいます。取材をお願いしたくて待っていました。少しお時間頂けますか?」
「あーそういうのは、お断りしてるんですよ。すいません」
「五条さん、今、世間であなたのことを悪く言う人がいるんですよ。違うなら違うと反論すべきじゃないですか? 五条さんも言いたいことはあるでしょう?」
「いや、特にないですね」
そう言って五条は小走りで去ろうとした。
「待ってください。五条さん!」
五条は岐阜基地を囲む塀を曲がった。後を追いかけると――
「あれ!?」
誰もいない。五条は影も形も無く消えてしまう……まさか、これも異能力なのか? そう思っていると会社にいる後輩から電話が掛かってきた。
「どうした……え?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺が宿舎に戻ると、坂木さんと清水さんが部屋の前で待っていた。
「ああ、五条さん!」
「どうしたんですか?」
「今、官邸から連絡があって国連が五条さんに話を聞きたいと言ってるみたいなんですよ」
「話を聞きたいって、なんの話でしょう?」
坂木さんは少し言い淀んだが、俺の目を見て教えてくれた。
「実は……また二人の異能者が殺されたそうです。一人はベラルーシにいた有名な異能者だったため、五条さんを調査しろと言う声が大きくなったみたいで……」
「まったく馬鹿げた話だ。国連も日本政府も五条さんにはなんの疑いも持ってないのに、世間のガス抜きのために形だけの公聴会を開こうとしてるんだぜ」
ある種、パフォーマンスの公聴会か……そういうのも必要ってことなのかな。何を聞かれるんだろう。
「行くのはいいですが、どこで開催されるんですか?」
「日本政府は日本での開催を主張していましたが、国連は公平を期すため三日後、タイ・バンコクにある国連事務局に来てほしいと言っています」
「バンコクか……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【イギリス・特定保護学校】
「もうこんな時間……」
夜の八時を回っている。レオから連絡があって、異能者を殺している“黒騎士”と呼ばれる異能者が私の所にも現れるかもしれないって言ってたな。
ニュースで事件のことは知っている。今でもアレクサンダーが死んだなんて信じられないけど……本当に私の所にも来るんだろうか?
不安な気持ちで自室に戻った。
部屋の隅にはレオから送られてきた荷物が置いてある。私が聖域の騎士団を辞めた時、レオのもとに置いていった物――
“ゲオルギウスの剣”、万が一の場合自分で身を守れってことだろうけど………またコレを見ることになるとは思ってなかった。
入れてあった黒いケースから剣を出し、手に取ってみる。その時、剣が微かに光り反応した。
「……まさか」
部屋の窓を開けて外を見る。私がいる二階の窓から見下ろすと、学校の校庭の向こうから強い殺気を感じる。
剣を持ったまま、校庭へ出るため一階に下りた。
校庭に着くと、暗闇の中からゆっくりと姿を現す人影。黒い鎧に剣を携え騎士のような出で立ち、あれが――
「黒騎士!」
私から10メートルくらいの距離で立ち止まった。
「あなたは誰? 私に会いに来たの?」
黒騎士は何も答えず徐々に加速をつけ、こちらに迫ってきた。私だけが狙いならまだいい、だけど学校には異能者の子供も大勢いる。やるしかない!
手に持ったグレゴリウスの剣が光り輝く、黒騎士の切っ先が目前に――
『次元斬』
黒い格子状の斬撃が空を切る。私が躱したあと、黒騎士はゆっくりとこちらを確認した。躱すとは思ってなかったみたいね。
光魔法”光速歩法”を使って一瞬だけ光速で動く技。躱すだけなら造作もなくできる。だけど黒騎士は構うことなく、こちらに突っ込んできた。
私は手を頭上にかかげ魔力を込める。夜空には無数の光が現れ、黒騎士に対して光の槍となって降り注ぐ。
「光源の流星!!!」
無数の光が黒騎士に襲い掛かる! でも――黒騎士は紙一重で躱していく、躱しきれない光は闇を纏った剣で打ち払う。
人間の動きじゃない。そう思った時には既に間近にいた。
格子状の斬撃を放つ。光速歩法で一歩後ろに下がったが、髪の毛の先がバラバラにされる。少しでも動きが遅れていれば殺されていた。
アレクサンダーが負けるはずだ。こんなに強い異能者がいたなんて……黒騎士は距離を詰めて複数の斬撃を繰り出した。
一撃、一撃が凄く重い! 防御に回るのが精一杯、実力の差は歴然だ………長引けば確実に負ける。
一気に勝負を付けるしかない。
剣に光の魔力を集め、相手が切りかかってきた瞬間に光速歩法で死角に移動する。魔力が最大に集まった光の剣を天にかかげ光速で振り下ろす。
「――聖竜鋼断剣――!!!」
このタイミングなら避けるのは不可能なはず、そう思った瞬間、黒騎士は剣を持っていない左手をかざし三重の光のシールドを展開した。これは――
聖戦士の結界術! 巨大な光の刃は全ての結界を破壊し、黒騎士の肩口を直撃し鎧の一部を切り飛ばした。
でも……黒騎士は何事も無かったかのように立ち上がる。結界術の光のシールドのせいで剣撃の威力が大幅に減少してしまった。大量の魔力を使った攻撃でも仕留めきることができない。
静かな殺気を放つ“黒騎士”を前に、私は死を覚悟した。




