第106話 流星
“塔”を映したテレビに世界中の人が釘付けになる中、上空から三つの流星が塔に向かって降り注ぐ。
塔の周辺に落ちたかと思った瞬間――
激しい光が画面を覆い、何も見えなくなる。しばらくするとフランスの隣国でわずかな揺れが観測された。
再び画面が見えるようになった時、粉塵が舞い上がり至る所で火の手が上がる。
粉塵の中に消えた“塔”がどうなったかは、まだ見ることができない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
五分前――
フランスの遥か上空、成層圏に達する場所に俺は来ていた。“塔”を一気に破壊する方法となると“メテオ・インパクト”しか考えられない。
タイタンも倒した攻撃だ。何より“塔”は動かないからな。
それも一発じゃなく、三発同時だ。
一発ずつの攻撃だと次の攻撃までに“塔”が再生してしまう可能性がある。それだと意味が無い‥‥‥やはり一度に最大火力を集中すべきだろう。
コントロールはやや甘くなると思うが、威力は半端ない! 問題は真上から落とすと“塔”に当たらない可能性があることだ。
角度をつけて当てたいが‥‥‥推進力がいる。どうしようかと少し考えて亜空間からミスリルの玉を取り出し、重力操作で玉に作用する重力をゼロにする。
風魔法を使って三つの玉と並行して飛んだ。
高速で“塔”に向かって飛行し、ある程度加速がついてから重力操作で玉に掛かる重力を一気に上げる。
風魔法で大気のトンネルを作り、塔へと狙いを定めた。
だが、やはり三発となるとコントロールがかなり難しい! ミスリルの玉はガタガタと振動し狙いから少しずつズレ始める。
塔が目前に迫り、風魔法を使って力ずくで軌道を修正していく。
「当たれ―――――っ!!!」
三発のメテオ・ストライクは、それぞれ違う場所に着弾した。一発は塔の手前に落ち、大地を大規模にえぐる。
一発は塔左下の部分を破壊し、そのまま塔の向こう側を吹き飛ばした。
最後の玉は“塔”最上部をかすり、後方に着弾する。辺り一面を爆発の渦に巻き込み、舞い上がった粉塵は“塔”の高さを超えるほどだ。
かすった衝撃で破損した卵は、ものの数秒で元に戻ってしまう。やはり“塔”その物を破壊しないと意味が無いってのは本当みたいだな。
そして俺はというと――
ミスリルの玉を先行させ、後方を飛んでいた俺自身が弾丸のように“塔”に向かって飛ぶ。全身に“気功”を纏い両腕を頭の前でクロスさせ速度を上げて突っ込む。
塔のド真ん中にぶち当たり、破裂音と共に表面が爆散し風穴が開いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【リグリア海・救助船内】
僕たちはマルセイユから出航した救助船に乗ってイタリアに避難する途中だ。今乗っているのは本来なら救助などには使われない豪華客船だ。
緊急事態ということで乗ることになり聖ヴィクタル修道院の人間を含め、多くの人達がマルセイユから脱出しようとしている。
僕たち七人は客室のテレビに釘付けになっていた。
「これ‥‥‥先生がやってるんだよな?」
アーサーが戸惑いながら言っている。戸惑うのも無理はない、僕らはレオさんたちと先生が協力して“統率者”を倒すんだと思っていた。
だけど事前にレオさんやカルロさん以外の異能者が討伐に向かったと報道が流れている。だとすれば五条先生以外考えられない。
「たぶん、先生はレオさんたちより強いんだ」
僕の言葉に驚いた表情になった子はいたけど、反論する者はいなかった。僕はニュースや新聞に載るような異能者は全員チェックしている。
それこそ聖域の騎士団や“朱雀”、他の国でも有名な異能者が話題になれば必ず目にしているはずだ。だけど先生は、あれほど強い異能者なのに噂すら聞いたことがない。
どうしてかは分からないけど、先生ならきっとなんとかしてくれる。
「大丈夫だよね。ノア‥‥‥」
エミリーが心細そうに呟く。今まで大人に心を開かなかったエミリーにとって、初めて真剣に向き合ってくれた先生のことが心配なんだろうな。
「大丈夫だよ。先生を信じよう」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【スイス・ベルン 聖域の騎士団本拠地】
ベルンにある施設に聖域の騎士団のメンバーが集まっている。いつもは海外を飛び回っているため、ほとんど形だけの本拠地だが今日に限っては14人のメンツが揃っている。
「凄い爆発が起きてるけど、俺たちが知らない魔法や技を色々持っていそうだね。五条は」
ソファーに座ってテレビ中継を見ているカルロが、感心するように言っている。他のメンバーもいったいなんの魔法を使ったのか分からないようだった。
「もし五条が戦ってダメなら、その時は気持ちよく諦められるね。君もそうだろう? レオ」
「そうだな‥‥‥」
確かに五条は俺たち全員を合わせたより強い、彼が無理なら誰がやってもできないということだ。
テレビでは粉塵が少しずつ収まり、塔が姿を現し始める。
「頼んだぞ、五条」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【国連本部・ジュネーブ】
国連のプレスセンターに詰めていた各国のメディアは、現在の映像を見ながら混乱に陥っていた。
いったい誰があの“塔”を攻撃しているのか分からなかったからだ。国連や欧州議会の議員でさえ詳細は知らないようで、情報が入ってこない。
唯一知っているはずの聖域の騎士団も今はどこにいるのか不明だ。
色々な情報が錯綜していた。可能性があるのは今までに“統率者”を倒したことのある異能者。中国の“朱雀”、ロシアの軍の異能者。そして――
【日本・東京 慶朝新聞社】
「日本人? それ、どっから出てきた情報なんだ?」
「国連に登録されてるらしいんですよ。日本人の異能者として」
「知らんな。日本政府からは何も発表されてねーだろう」
日本有数の新聞社、慶朝新聞の記者である松田は、映像を見ているしかない状況に苛ついていた。謎の異能者が誰なのか分かれば大スクープになるが、その糸口すら掴めないため後輩に当たることしかできないでいる。
「そうなんですよ。日本が大混乱していた時期に国連に報告されたようで、ほとんどの日本人は知らないと思いますよ。自衛隊の中に異能者がいることは知られてますから、その一人じゃないかと」
「確かにイギリス討伐の時も日本の自衛隊が協力したって話はあったな‥‥‥‥いや、待てよ」
松田は指を顎にあて、考え込んだ。
「そう言えば日本の“統率者”が倒された時、自衛隊と魔法使いが討伐に参加したって噂が流れたな。政府が認めなかったから有耶無耶になったが」
「その時の“魔法使い”が今、攻撃してるんですか?」
「分からんが、調べてみる価値はありそうだ‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇◇◇
“塔”に突っ込んだ後、立ち上がり辺りを見回す。塔の表面が予想以上に硬かったせいか、思ったより内部に食い込まなかった‥‥‥だが、生命吸収の影響は特に感じない。やはり“不老不死”か“超回復”が効いてるのか?
今は、表面から5~6メートルの地点にいる。大きな穴は開いたようだが、周りにいるヒルのような生物がうねうね動き塔を修復しようとこちらに近づいてきた。
俺は両手を天に掲げる。
大魔導士の職業ランクが上がった今なら、かつてできなかった上級魔法も使うことができるはずだ。俺の周りにドス黒いオーラが霧状に現れる。
ヒルのような生物は俺を外敵と認識し、四方八方から触手が伸びるように襲い掛かってきた。
「複合魔法――不浄なる死者の国――!!」
日本の“統率者”だった不死の王が使った黒い霧は急激に拡散し、ヒルのような生物に触れると黒い炎となって辺り一面を焼き尽くしていく。
その威力は強烈で、消し炭になった場所は簡単には再生できないようだった。
俺は外に飛び出し、空中で改めて塔を見上げる。
近くで見るとその大きさに圧倒された。黒い炎が噴出しているといっても巨大な塔の極一部分でしかない。
そして何よりも不気味なのは、これだけ近づいてるのに“敵意感知”が反応しないことだ。
この“塔”は今までの敵とは何かが違う。




