第104話 心当たり
パリ郊外、“塔”を視界に捕らえる場所に俺とグレスはいた。
「どうだグレス?」
「旦那、やっぱりダメだ。距離があり過ぎて“鑑定”できない」
「そうか‥‥‥」
とは言え、これ以上近づくのは危険だ。なんの能力か分からないが、近づけば近づくほど体から力が抜けていく異常な感覚がある。
欧州議会から活動停止を通告されたせいで、充分な情報が入ってこなかった。さすがにあれだけ派手に攻撃があれば何かがあったと分かるが‥‥‥。
「くそったれが! もっと早く魔物が出現したことが分かってれば対応できてたのに。欧州の政治家には責任とらせるべきでしょう!!」
「今更そんなことを言っても仕方がない」
だが今回の件で対応が後手に回ったのは事実だ。聖域の騎士団が通常の活動ができていれば、こんな状態には‥‥‥。
そんな時、携帯に連絡が入った。
「誰からですか、旦那?」
「噂をすれば‥‥‥だ」
「行くんですか? あんな奴ら助ける価値もないですぜ」
「そうは言っても情報を持ってるのは彼らだ。行くしかない」
この規模に影響を与える魔物‥‥‥“統率者”か、だとしたら今から何ができるか分からないが、黙って見過ごすわけにはいかない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
中国・吉林省――
本格的に中国での魔獣狩りを始めて一週間になる。この日は朝から魔獣の多くいる地域に出向いて生徒たちのレベリングをしていた。
特にエミリーは‥‥‥
「――黒陽――!」
エミリーが放った黒い球体は、数十個の小さな球体に分かれ自身の周りに浮かんでいた。三体の猪の魔獣はエミリーに向かって突っ込んでくる。
猪が黒い球体に触れた瞬間、凄まじい力で球体の中に引きずり込まれた。
三体の魔獣は跡形もなく消えていく。エミリーは複数の球体を一つの大きな球体に戻し、徐々に小さくしたあと静かに消し去る。
エミリーのレベルは30を超えており闇魔法に加えて、固有スキルの“黒陽”も大分使いこなせるようになってきた。
エミリーの力を見た王も「あれはヤバイな」って言ってたからな。
他の子たちも概ねレベル40を超えてきた。
大魔導士のサラは複合魔法を、モンクであるルイスは気功武術をそれぞれが身に付けはじめている。
そして――
ノアが空を飛ぶ怪鳥に、手に持った銃を向ける。その銃から放たれた弾丸は怪鳥を貫いた。
一瞬、思考が停止したような動作をした怪鳥だがすぐさま怒り狂ったような鳴き声を上げてノアに向かっていく。
しかし空中で燃え上がり、そのまま地上に落下し燃え尽きた。ノアが使ったのは“魔導図書”に記載されていた兵器の一つで黒い銃身と金色の装飾、銃弾の表面には文字が浮かび上がり魔法が付与されている。
俺は素材を集めることはできたが、作ることはできなかった。俺の鍛冶職人の職業ランクがまだ低かったからだ。
どうしても作りたいと言うノアだったが、製作できる人間を探すのに苦労した。“朱雀”の中にもいなかったので困っていると意外な所で人材を見つけることになる。
聖ヴィクタル修道院の年少クラスにいた子供の中に、双子の鍛冶職人がいた。しかも固有スキルを持っている。
「ボクは兄のガブリエルだよ。あっちが弟のラファエル」
「ラ‥‥‥ラファエルです。よろしく‥‥‥」
最初に出会った時すごくかわいらしいイメージだったが、二人が持つ固有スキル“双頭の梟”は凄まじい能力だった。
二人で力を合わせれば、より高度な素材を使った“生成”ができるというものだ。
そもそも素材と魔道図書のような設計図がなければ、なんの役にも立たない能力だったために評価されてこなかったようだが、その二つがそろえば恐ろしいスキルだと思う。
別クラスの先生に頼み込んで、俺とノアそして双子で“魔道兵器”の製作に取り組むことになった。
危険な兵器ということで、普段は俺が亜空間で保管し魔物と戦う時だけノアに渡している。
「先生、見た? 予想以上の威力だよ」
ノアが興奮気味で言ってきた。確かに今まで戦闘能力で一番劣っていたからな。他の子に追いつけたのが嬉しいんだろう。
全員の実力は大幅に上がっている。この調子ならアメリカ遠征に行っても問題ないだろう‥‥‥そう思っていると王から連絡がきた。
「どうした?」
『今、ニュースでフランスの報道があったんだ。パリに化物が現れてプロメテウスが攻撃したらしい』
「パリに!?」
『報道で討伐は成功したと言っていたんで大丈夫だと思うが、一応耳に入れておこうと思ってな』
「そうか‥‥‥ありがとう」
おかしいな‥‥‥昨日はフランスにいたが、そんなニュースは流れてなかった。何より“敵意感知”にもまったく反応がなかったぞ。
すでに倒したなら問題ないがフランスはアーカイブでランク“A”になっていた国だ。気になるな。
「みんな少し早いが帰ろうか、明日また来ればいい」
そう言って子供たちと共にフランスに帰ることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
欧州議会・フランス ストラスブール
国連の事務総長から連絡があり、俺はフランスのルイーズワイスビルに呼び出された。そこにいたのは国連の職員とプロメテウスの空軍大将、数名の欧州議会議員だ。
そして、モニターにはハンス・ベレントの姿が見える。
現在はドイツにいるため、ハンスを始め何人かの議員はテレビ会議での参加になったとか‥‥‥。
この会議室に来る途中で、マーク空軍大将からおおよその状況は聞いた。予想していたより悪い‥‥‥もう少し早く分かっていればな。
「レオ、欧州議会は全会一致で聖域の騎士団の活動再開を承認した。君たちにフランスの“統率者”の討伐を依頼したい」
最初に発言したのはフランスの欧州議会議員、ロベール・ラングだ。この人は人権派で異能者への差別に反対していた議員だったな。
ハンスは自分では発言せず、聖域の騎士団を擁護していた議員に依頼させて断れないようにする腹積もりなのか?
どこまでも小狡い男だと思いながら、俺は返答する。
「無論、化物が現れたのなら我々聖域の騎士団が戦うのは当然と考えています」
「で、では、やってくれるか!?」
「しかし、あまりに遅きに失したと言わざるを得ません。ここまで魔物が成長してしまうと、我々聖域の騎士団でも、期待に応えることはできないと思います」
ロベール議員を始め、その場にいた人間は顔面蒼白になる。
『今は人類の存亡の機だ! 個人的な感情は抜きにして全人類のことを考えて答えてくれないか』
ハンスがモニター越しに言ってきた。その顔には焦りの色が浮かんでいる。
「私は個人的な感情で言っているわけではありません。現実的な話をしているだけです」
『レオ、聞いてくれ。聖域の騎士団の活動停止を決めたのは時期尚早だった。あくまで国民の声を聞いた結果なんだ』
何か自分のしたことを国民のせいにしているように聞こえるが‥‥‥。
『だが、結果に対して私は責任を取るつもりだ。この問題が解決したら議員を辞める。どうか力を貸してくれ』
「あなたが議員を辞めるかどうかは私に関係ありません。行動するかは合理的に判断するだけです」
ハンスが苦虫を潰したような表情になり、沈黙した。
「本当にもうダメなのか!? 何も手は無いのか? 我々にできることならなんでもするから、頼む! レオ、君にしか頼れないんだ」
すがるような声で頼み込んできたロベール議員に、俺は冷静に答えた。
「打つ手が無いとは言っていません」
「ほ、本当に!? さっきはできないと言っていたが」
ロベールが思わず声を上げた。その場にいた他の人間も驚きの様子を見せる。
「“聖域の騎士団では”できないと言ったんです」
「どういうことだ!?」
「なんとかできるかもしれない人物に、心当たりがあります」
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夕方、瞬間移動を使い子供たちと共にフランスの修道院に戻ってきた。“敵意感知”には何の反応もないのでプロメテウスが魔物を倒したっていうのは本当みたいだな。
廊下を進むと、授業終わりのフィリップ先生に会ったのでニュースのことを聞いてみた。
「ええ、確かにパリに現れた化物を『プロメテウスが爆撃した』という報道がありましたが、すでに解決したと言っていましたよ。ただ‥‥‥」
「どうしたんですか?」
「それが、“塔”みたいな物があると話題になっていまして」
「塔?」
よく分からなかったがニュースで巨大な塔の映像が流れて話題になってるけど、フランス政府からなんの説明も無いので国民が困惑しているそうだ。
俺はフィリップ先生にお礼を言って、子供たちと一緒に宿舎に戻ろうとした。すると修道女に呼び止められる。
「五条先生お戻りでしたか、お客様がお見えですよ」
「俺にですか?」
修道院のエントランスに行くと一人の男が待っていた。興味本位でついてきた子供たちはその男性を見た途端、言葉を失って息を飲む。
「ああ、五条。急に来てすまない」
レオ・ガルシアが笑顔でたたずんでいた。




