表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深川あやかし綺譚 粋と人情とときどきコロッケ  作者: 高井うしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/39

エピローグ

 衛が目を開けると、そこは深川龍神の泉の前だった。


「帰ってきた……」


 衛はふと不安になって隣を確認した。


「衛さん、どうしたの?」


 そこにはさっきまでと同じく穂乃香がいるのを見て、衛はほっと胸をなで下ろした。


「パパ、ママ! すごい雨だよ!」


 瑞葉が空を指さして叫ぶ。瑞葉の言う通り、屋根の外は土砂降りの大雨だった。


「これはダッシュでいくしかないな」


 四人は走って家まで向かった。しかしゲリラ豪雨のような大雨でびしょびしょに濡れてしまった。


「わぁー。みんな風呂入って」


 衛は女性陣を風呂に追いやると、バスタオルでわしゃわしゃと髪を拭いて乾いた服に着替えた。そしてふとテレビを付ける。


『五時の天気予報です……急速に北上をしていた台風○号は、急速に勢いを衰えさせ関東一帯は大雨となっております……お出かけの際には傘をお持ちください』


 ちょうどやっていた天気予報ではそんな事を言っていた。これは龍神の抑えていた嵐の余波なのだろうか、と衛は考えた。


「これでめでたしめでたし……ってか」


 衛は店のフライヤーの電源をつけた。そしてジャガイモを茹で、コロッケを仕込み始める。


「ああ! いいにおい! パパ、コロッケ作るの?」

「ああ。みんなお腹空いたろ」


 衛が挽肉を炒めていると、瑞葉がめざとくひょっこりと顔を出した。そこに穂乃香が追いかけてくる。


「瑞葉、まだ髪乾かしてないでしょ! ……あら」

「どうした穂乃香」

「衛さんがそこに立っているのってなんだか変な感じがするわ」

「……そうか? ああそうか」


 衛は一瞬ぽかんとしたが、ここに立つようになったのも穂乃香の居ない数ヶ月間の出来事だったのだ、と思い直した。


「どうだ、立派な総菜屋の親父だろ」

「やだぁ……、でもそうね亡くなった父もそうしてコロッケを揚げてたわ」

「そっか」


 衛は衣をつけたコロッケを油の中に投入した。じゅわっと音を立てるコロッケ。その音に反応したのか、藍と翡翠がやってきた。


「こんな時間にどうしたんですか」

「あら、この子達は……?」

「穂乃香、こいつらは居候の付喪神の藍と翡翠」


 衛は二人を穂乃香に紹介する。


「もしかして、この人衛さんの奥さん?」


 藍が驚いた顔をして穂乃香を見る。そしてくっくっと笑い始めた。


「そうだよ。……なんか可笑しいか?」

「いえ、ミユキさんの娘さんとは思えなくて……」

「悪かったね、藍」


 そこに顔を出したのはミユキだ。

「あんまり生意気言うと真っ二つにしてしまうよ」

「ああ、勘弁してください」


 藍と翡翠はこりゃかなわんと逃げ出した。衛はその様子を見て呆れながら、ため息をついてコロッケを引き上げた。

 からりと上がったほかほかのコロッケ。衛はロールパンに切れ目を入れるとそのコロッケを挟んでたらりとソースをかけた。


「瑞葉―! 穂乃香ー! ミユキさんー! 朝ご飯ですよー!」


 衛は大声で家族達を呼ぶ。その脇でコーヒーメーカーの電源を入れる。


「わぁ、コロッケパンだー」

「今日は特別! あげたてコロッケのコロッケパン! さあ召し上がれ!」

「頂きます」


 皆、お腹が減っていたのかさっそくかぶりついた。


「あふふふふ。おいしー」


 瑞葉が満面の笑みでもぐもぐしている。口の端についたソースを穂乃香がぬぐってやる。


「うーん、コロッケは美味しいし、ママもいるし、ミユキさんもいるし……いーな。なんかこれいいな」

「そっか。瑞葉、そういうのを幸せっていうんだ」

「幸せかー。うん、瑞葉、幸せ!」


 無邪気な瑞葉の言葉に、大人達はほっこりしながらコロッケパンをたいらげた。


「ああ、瑞葉。テーブルで寝ちゃだめよ」


 穂乃香は疲れたのかそのまま眠ってしまった瑞葉を二階に連れて行った。


「ミユキさん、いままでありがとうございました」

「……娘のした事を親が責任持つのはあたり前の事だよ」

「それで、これからの事なんですけど」


 衛は勇気を出して切り出した。ここに住まわして貰ったのはミユキの好意からで、穂乃香が戻って来た以上、ケジメを付けなくてはならない。


「……俺、どっかで仕事見つけて、それで……」


 衛がそこまで言いかけた所だった。ドンドン、とシャッターが叩かれる。


「……誰ですか」

「あのう、『たつ屋』さんはここでしょうか」


 衛はシャッターを開けた。するとそこに居たのはボロを纏った男であった。但し、足が四本ある。


「私は雷獣、先程の雷で落っこちてしまいどうにも戻れなくなったみたいなんです」

「ミユキさん」


 衛がミユキを振り返ると、ミユキは薄く笑ってこう言った。


「衛、まだしばらく手伝いがいるかもしれないねぇ……」

「そ、そんな……」


 衛がミユキを見つめると、ミユキははじけるように笑い出した。つられて衛も笑ってしまう。そしてどこかホッとしていたのはミユキには秘密である。

 そしてお客の雷獣だけが、事情が分からずキョロキョロと二人の様子を眺めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ