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深川あやかし綺譚 粋と人情とときどきコロッケ  作者: 高井うしお


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31話 富岡八幡例大祭③

「ミユキさん、さっきのミユキさんも聞こえましたよね」

「ああ、もちろんさ」


 衛は、不気味な雰囲気にぞくりと肩をすくませた。


「この人混みじゃ余計な被害が出る。いったんここから離れよう」


 衛達はそう示し会わせると、祭りの行列から離脱した。


「八幡様の神域まで急ごう」


 そうミユキが言うので、一行は富岡八幡に向かって駆け出した。ところが祭り本番の人混みである。そうそう思い通りには動かない。


「遠回りするか」

「そうするしか無さそうだね」


 衛達は裏道を通って八幡様の境内を目指す。すると、あと少しと言ったところで目の前のアスファルトがじんわりと濡れて地に響くような声が聞こえた。


『そうはさせるか……』


 そこにはボロボロの衣をまとった東方朔の姿があった。


『ははは! そこをどけ、私は龍神の愛し子に用がある』

「はいそうですか……なんて言う訳がないだろう!」


 衛は瑞葉の前に盾となって立った。そんな衛に向かって、東方朔はひからびた手を伸ばした。すると東方入道の手は大きく広がり、衛を一掴みににぎりしめた。


「ううっ」

「パパ!」


 とても老人の力とは思えない圧迫感に、思わず衛はうめき声をあげる。


「おん めいぎゃ しゃにえい そわか」


 そこに聞こえて来たのは、ミユキの真言である。以前現れた時はこの音に苦しんでいた東方朔であったが、今日は様子が違った。


『うははは、効かぬぞ。ミユキ。なぜ今日という日を選んだか考えて見ろ。これだけ人が集まれば、聖も邪も同じだけ集まってくる』

「小賢しいね、東方朔」


 ミユキは吐き捨てるように言うと、東方朔に向かって木札を何枚か投げつけた。


『効かぬといったろう』


 東方朔はその木札をバラバラとはじき飛ばした。


『人々の邪気というのは良い物だな』


 そう行って東方朔は高笑いをした。そんな東方朔をミユキは笑い飛ばした。


「馬鹿だね、それだけ負の力があるって事は聖の力も高まっているってことだろ?」


 ミユキは透明な水晶の数珠を取り出すと、衛を掴んでいる手首に巻き付けた。


「ましてや今日は三年に一度の大祭の日だよ! 瑞葉!」

「はい! ミユキさん」

「ちゃんと覚えてるね、こいつが嫌いなおまじない」

「うん!」


 ミユキと瑞葉は手を合わせると、一斉に目を閉じた。


高天原に坐し坐してたかあまはらにましまして天と地に御働きを(みはたらき)現し給う龍王は大宇宙根元の御祖の御使いにしてみおやのみつかいにして一切を産み一切を育て萬物(よろずのもの)を御支配あらせ給う」


 二人が唱えたのは龍神祝詞である。穢れを払い、願いを叶えるという言葉の力に呼応するようにミユキの数珠が光りはじめた。


『ぐ……う……』


 東方朔は苦しそうに呻き、衛を掴んでいた手がパラパラと枯れ木のように崩れて行く。


「この化け物め!」


 最後は衛が自分自身の力で東方朔の手を振り払った。その反動で衛は盛大に尻餅をつく。


「さぁ、うちの孫娘に二度も手を出そうとしたんだ。もう二度と現れないようにバラバラにしてやろうかね」


 ミユキが怒りに満ちた視線で東方朔を見た。すると東方朔は突然こんな事を言い出した。


『……のう、お前達は騙されとるぞ』

「なんの話だ」

「衛、あやかしに気軽に話しをあわせるんじゃないよ」

『なに、お前等が大事に拝んでいる龍神が愛し子に何をしたのか、知りたくはないかとな』


 その言葉に一番反応したのは瑞葉であった。


「それってママの事!?」

『そうさ、お前の母御は……』


 東方朔はそこまで言うと、アスファルトにズブズブと沈んでいった。


「ちょっとまて、穂乃香がなんだって?」

「衛!!」


 半分消えかけている東方朔にくってかかろうとしている衛を、ミユキが止める。


『お前等の大事な愛し子は今、地獄におるぞ。へっへっへ』


 そんな衛をあざ笑うかの様に東方朔は笑った。


『それではまた会おう……。大きな厄災がまもなく……やってくる……その時に……』


 そう言って東方朔の姿は完全に消えた。後に残された衛に混乱を植え付けて。


「穂乃香が……地獄にいる……?」

「パパ……」


 動揺を隠せない衛と瑞葉をいさめたのはミユキだった。


「衛、あんたしっかりしな。化け物の戯れ言を真剣に受け取るんじゃ無い」

「ミユキさん……そうか、そうですよね」


 衛は大きく深呼吸をした。やっと少し落ち着きが戻って来た。


「それにしても……厄災とか言っていましたが、なんなんでしょう」

「あたしもそれは気になった。なんとか調べてみるよ。だからしゃんとおし」

「はい、もう大丈夫です」


 ミユキの励ましに衛は顔を上げた。しんと静まり返ったようだった裏路地だったが、今は祭り囃子とわっしょいのかけ声が響いていた。


「……とりあえず、祭りに戻りましょうか」

「ああ」


 衛達は、富岡八幡宮の前で最高潮の盛り上がりを見せる御輿渡御の列に向かって歩き始めた。


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