表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深紅のアイリ - Scarlet Airi -  作者: 水色奈月
ー第4章 血の盟約ー
89/612

 第5話 餌(えさ)とおなり



 荷馬車の車輪の音が遠ざかってゆく。



 名も知らぬ膝丈ひざたけの雑草が視界を隔てているので本当に去って行ったのかと裏の魔女キルシは手足を後ろでしばられたままじっと様子をうかがっていた。



 呪詛返じゅそがえりで割れた額からの噴水の様な出血はひとまずおさまっていたが、血飛沫ちしぶきを浴びた顔中がむせかえる様な鉄の臭いをただよわせていた。



 野原に放り出して見下ろした女のにやついた口元がいまだに気がかりだった。動くときの音で気づいたがその女は商人の服の下に明らかに甲冑(アーマー)を着ていたので女騎士だとキルシは思った。



 その騎士が捕縛ほばくしていた魔女を野に放つのになぜゆえにあの様なさげすんだ笑みを見せたか?


「楽しみな────」とは何だ!?



 がたごととした車輪の音が聞こえなくなり、キルシは魔法で後ろ手にしばられた手足を自由にさせようと簡単な詠唱えいしょうを始めた。



「照りつける陽のごとく、火蜥蜴(サラマンダー)の舌のごとく────」





 何か音が聞こえた!





 裏の魔女キルシはイルミ・ランタサル一行が戻って来たのかと警戒し詠唱えいしょうを中断し耳を立てた。



 聞こえてきたのは荒々しく繰り返される鼻息。



 自分のものではない。



 横たえられたままキルシは頭を動かし周りを見回したが、見えるのは重なる膝丈ひざたけの雑草ばかし。



 ゴブリンが徘徊はいかいするような遮蔽物しゃへいぶつ多き場所ではなかった。あれらはおのが姿を見られる事を本能のごとく嫌う。







 いきなり目の前の雑草が開け小汚い痩せた犬が顔を突き出しキルシは驚いてびくついた。







 野良犬──か。



 1匹の野良犬ごときにビビった自分が恥ずかしかった。



「しっ、しっ!」



 キルシは声で野良犬を遠ざけようとした。



 痩せた犬はキルシの臭いをぐと牙をいてうなり声を上げ始めた。



 鬱陶うっとうしいこの犬め! 焼き殺してやるとキルシが詠唱えいしょうしようと口を開いた瞬間────周囲の草が広がり数頭の犬が顔を突き出した。





 やっ、野犬の群れだわ!




 見える範囲だけで小汚い犬十数頭が牙を見せうなりだした。ぜんぶまとめて焼き殺してやる!


 そう裏の魔女キルシが思った刹那せつな、背後からも数え切れないうなり声が重なりだしてキルシは顔を引きらせ女騎士の言葉をまた思いだした。







「楽しみな────」







 あの女騎士は野犬の群れが来るのを知っていたんだ! 腹を空かした痩せ犬どもが血の臭いに死肉があると集まるのを期待して唇をひずませたんだ!


 大陸1み嫌われる悪辣あくらつの魔女が息を吸い込みながら悲鳴を上げた一瞬、二十頭余りの痩せ犬らが狼のごとく襲いかかった。











「なんで魔女を放りだしたんだよ」



 操馬台(コーチ)手綱たづな握るアイリ・ライハラが非難するようにイルミ・ランタサルへ尋ねた。



「あら、わたくしと父上をあやめようと岩の魔神を送り込んだ手練てだれですよ」



「だから危ねぇじゃん。きっともっと凄いもん引き連れて戻ってくるぞ」





 横に腰掛けるイルミ王女はいきなり少女へ振り向いたのでアイリは恐るおそる横目で王女を盗み見た。





「そのもの凄いもの(・・・・・・)あなたが(・・・・)────お相手するんですよ(・・・・・・・・)



 当たり前のように言う大きな馬糞にアイリは唇をひん曲げた。下手に突っ込むとまた丸め込みいいように返されると少女は無言で突っぱねた。



 いきなり遠くで悲鳴が聞こえアイリは両肩に首を縮めた。



 荷馬車のかなり後ろからだった。心なしかあの魔女の声に似ていた。突然ぶつぶつ言っていたと思ったら血をぴゅーぴゅーと噴き出した魔女を扱いあぐねて荷馬車を止めると女騎士──後続のヘルカ・ホスティラが歩いてきて野原に放り出しましょうと王女に進言した。



 イルミ王女は女騎士と何か目配せすると、馬の間で血だらけになっている魔女をしばったままホスティラが吊りなわを切り肩にかついで荷馬車から離れて行った。





 魔女に何か起きたんだ、とアイリは気になり始めた。





 女騎士がみんなが離れたところで引き返し魔女の首をねた、とか──。



 アイリは操馬台(コーチ)の横から顔を突き出し荷物越しに後続の荷馬車を見ると操馬台(コーチ)に座ったヘルカ・ホスティラが手綱たづなを握ってアイリ達の荷馬車が進むのを待っていた。



「ちっ」



 アイリは舌打ちして顔を戻すとイルミ・ランタサルが言いだした事に顔を引きらせた。



「ヘルカがそんな事(・・・・)をするわけないでしょ」







 こいつ心を読めるのかと、少女は横目でくるんくるんをにらんだ。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ