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深紅のアイリ - Scarlet Airi -  作者: 水色奈月
ー第3章 蟷螂の斧(とうろうのおの)ー
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 第15話 心眼


 手綱たづなを握りながらアイリ・ライハラは悶々(もんもん)としていた。



 横に座るイルミ王女は風景をながめながらにこやかに口ずさんでいる。



 とても大国デアチをひっくり返そうとたくらむ女に見えない。だが騎士達の眼前、言い放った決意はその場限りのものではない。



 騎士団長リクハルド・ラハナトスや女騎士ヘルカ・ホスティラは唖然としていた。彼らだけではない。他の騎士達も顔を強ばらせていた。



 イルミ王女はきっと誰にも相談せずにここへ来たのだとアイリは思った。



 軽い口笛が気にさわり、少女はいい気なものだと感じた。それをまぎらわす様にアイリは女暗殺者(アサシン)イラと王女の侍女じじょヘリヤへ声をかけた。



「イラ、ヘリヤ、あんたら本当について来るつもりか? 死ぬぞ」



 それに荷物の後ろからイラが陽気に返事した。



「私は大丈夫でぇす。御師匠が私をおそばにおいて下さるとろうから連れだした時から命を預けていますもの」



 まあ確かにそうだけど、何もそこまでつき合わなくても良いだろうしとアイリは顔をしかめた。



「ヘリヤお前はどうなの?」



 すぐにかしこまった声が聞こえた。



「はいはい、私はどこへでも王女様におつきしお世話いたしますから」



 仕事熱心はいいけれど、少しは自分の命や先行きを考えろと少女は口を曲げた。



 きっと凄い乱闘になる。(ソード)が使えるのは王女とヘリヤを除いて8人。あんまり入り乱れたらイルミやヘリヤだけでなく他のイラや騎士達の命も面倒見切れなくなる。



 イルミ・ランタサル────あんたは自分だけでなく9人を投げだすのかと横目で1歳年増(としま)のくるんくるんをにらんだ。



 イルミは口笛に合わせて細いむちをひゅんひゅん振り始めた。



 いいや、こいつもむち持たせたら(ソード)並みに戦える。アイリはちょっと思い出しイルミの振り回す先鞭せんべんを9割以上(かわ)していないことに気づいた。どうしてこいつのむち(さば)きはあんなに上手いんだ?


 いいやこいつは(ランス)を握らせてもいけるぞ。あんな重いものでぽかぽか殴りやがって! そのせいで魔女キルシを取り逃がした。



 デアチ本城の謁見えっけんで触発までいったらイルミに(ランス)むち持たせて前に押し出してどうするか見てみようとアイリがニヤケた瞬間、ひゅんと音がして少女が顔を強ばらせて横へ逃げ踊った横髪をむちがかすった。



 また狙いやがった。



 かわすのがわずかでも遅れたらまた馬車から転がり落ちるところだとアイリは胸をなで下ろした。



 どうしてイルミはこうも都合よく狙ってくるんだ!? まるで考えを読まれているようだと少女は感じて鳥肌立った。



 もしかしたら敵意や悪意に敏感びんかんなのか?


 バカ王女! 変態! あほう! どブス!


 刹那、正面に迫るむちが見えてアイリは顔を引きらせ手綱たづなを放り出し操馬台(コーチ)から横に跳び逃げ荷台の角にしがみつき遅れた肩を先鞭せんべんがかすった。



 ひえ────! (ソード)なら斬られている。



 イルミ王女が何事もないように口笛に合わせて胸の前でむちを揺すってリズムを刻みだすとアイリは恐るおそる操馬台(コーチ)に戻り手綱たづなつかみあげた。



「アイリ、少しはかわし方が上手になりましてよ」



 口笛の合間にイルミ王女がそうめた。



 くそう! 適当に振り回してない。確実に狙ってやがるとアイリは一瞬唇をへの字に曲げイルミ王女に告げた。



「騎士30人、近衛兵150人」



 王女が問い返した。



「何ですの? 配下が欲しいの? それくらい────」



「違うよ。あんたとヘリヤだけでなく他のものを護れるぎりぎり。襲ってくるデアチの兵の数だよ」





 イルミ王女がいきなり揺らしていたむちを止め、また打つのかとアイリは見つめた。





「わたくし、買い被りはしませんのよ、アイリ」





 どういう意味だと少女は怪訝な面もちになった。



「数でその10倍、いいえ20倍でもあなたなら軽くあしらえるじゃないですか」



 いいや無理だから。第一そんな人数相手に暴れたことないし、とアイリは眼を寄せた。



「なんでそんな事わかるんだよイルミ?」







「軍を指揮する将、それに命する王位につくもの──能力や勢力を見誤れば一気に倒されます」







 確かにそうだけど、16のあんたがそれほど経験あるわけないじゃん、とアイリは王女をにらんだ。



「アイリ・ライハラ、いつであろうと特別な力を自分だけが持っているとおごらない事。わたくしには心眼という特技があるんですよ」



 『しんがん?』アイリが聞き慣れぬ言葉の意味を探っていると木々の曲がり道の先に馬を横に向け1人の(アーマー)を身につけた男が待っていた。







 アイリ・ライハラが手綱たづなを引いた須臾しゅゆ、男が馬上で抜刀ばっとうした。












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