第2話 円卓謀議(えんたくぼうぎ)
夕刻遅くイルミ・ランタサルはアイリの思いをしかと拝聴した。
だが国を動かすとなると根回しが必要となる上にことが戦となると負けるものを積極的に推し進めるにはゆかず騎士らや家臣らの意見を聞いて判断しなければならない。
そこでイルミ・ランタサルは翌日、騎士らの代表や数人の家臣らを集め円卓会議を行うこととした。
会議とは世間体で他国への侵略なので実質謀議だと王妃は思った。
場所は謁見の間。急拵えの円卓が作られた。
12人の配下のものらを見回して最後に現れたイルミ・ランタサルを一同立ち上がり敬意を表し彼女が腰を下ろしてから全員が座った。
「今日、集まってもらったのは他でもない。我が国の領地拡張についての会議です。このように集めたのは新たな領地として手にする国が大きく武力も相応に強いと思われるからです」
「どこですかなその矮小の国は」
家臣の中では1番発言力を持つエリヤス・ヒエッカランタ長老だった。
「矮小かどうかは名を聞いて判断してください────東の大国、イモルキです」
円卓の半数以上がどよめいた。
そうだろう。恐れおののくがいい。簡単に答えに屈しないようにその名を心に刻めとイルミ・ランタサルは思った。
「待ってください。ランタサル王妃、どうしてこの場にライハラ剣竜騎士団長がお見えにならないのですか」
騎士として第7位の中堅──ヴェルネリ・オクサラが他のものらにではなくイルミ・ランタサルに問うた。だが声高にヒエッカランタの腰巾着──家臣ミスカ・ラポラが思っていることを歯に絹着せぬ物言いで指摘した
「まだ子ども、お子様だからのう。重要な施策には荷が重すぎるのであろう」
だがその物言いには触れずイルミ・ランタサルはアイリ・ライハラの威厳を口にした。
「彼女が口にすれば天秤が一気に傾くからです」
そう言うことで騎士団長アイリの意志を最後のカードとして手にしているとイルミ王妃は皆に知らしめた。
「簡単でしょうランタサル王妃様。総力戦で攻め滅ぼす」
腕組みしたまま眼を閉じている騎士団長代理もつとめたことのある剣竜騎士団第2位のヘルカ・ホスティラがぼそりと告げ。皆が好き勝手に発言し始めた。
「ライハラ公の意志は決まっている。総力戦だ」
「軍事力は武力だけの問題ではなかろう。兵站で優位に立つイモルキが前線を押し返してくれば当方、東の領地を失うぞ」
「総力戦をちらつかせイモルキを和議に持ち込ませるのが重要でしょうな」
「デアチ国騎士団と近衛兵、総力4万に届きそうな兵力を持ってして譲歩することは何もない押し切ってみせましょうぞ」
「戦は避けねば。下四半期の台所事情をご存じであろう。万が一負け戦になれば我が国は戦事賠償で終わりですぞ」
眉根寄せ眼を細めて唇をへの字に曲げて黙って聞いているイルミ・ランタサルがいきなり立ち上がり振り上げた星球武器のチェインの先につけた打撃部位を円卓に打ち込んで、身勝手な会話を圧制した。
「ここは思いの丈を気ままに述べるティー・パーティーの場ではなくてよ」
イルミ王妃は男らを見回して続けた。
「理由はなんでもいい。やれるかやれないかのために貴方がたを集めたの。やれないもの挙手!」
王妃が叩きつけた金属製殴打部分を見つめながら恐るおそる7人が手を上げた。その中に騎士が4人いることをイルミ・ランタサルは留意した。
「やれるもの手を上げて、はい!」
5人が勢いよく手を上げた。その中に騎士が3人いることをイルミ・ランタサルは心に置いて椅子にドカッと腰を下ろして背もたれに身をあずけた。
「いいですか。これは意見を聞く場であり、決定する場ではありません。すでに言ったようにアイリ・ライハラの気持ちは決まっています。私は止めに入りましたが彼女の意志は鉱石のように固く苦難の道を選びました」
「戦争万歳!」
騎士団中堅の第13位騎士サロモン・リストラが拳振り上げ奇声上げた。
いきなり椅子を背後に倒し立ち上がったイルミ・ランタサルは星球武器の柄を両手でつかみ身体を一回転させると手を放し鎖張り詰めた得物が恐ろしい勢いで回転して飛ぶと騎士サロモンの前の円卓に打撃部位が食い込み、彼が安心した寸秒チェインで跳ね上がっ柄の部分が顔面に食い込んで第13位騎士は鼻血を吹き出し両脚を崩してその場に倒れ込んだ。
「何度も言うようにアイリ・ライハラの堅い意思を私は止めに入ったんです────」
「これより開戦準備に入ります」
そう言い捨てるイルミ・ランタサルの声が投げやりに聞こえた。