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深紅のアイリ - Scarlet Airi -  作者: 水色奈月
 群青のアイリ ★ 第1部 ★ ─第1章 出逢い─
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 第21話 娯楽



 眼にするものに唖然となった。



 近衛兵長ライモは広場の端に仁王立ちで光景をにらみ据えた。正門からいたる広場入口にマント姿の何ものかがその身体向こうに火花を散らしている。



 その何ものかは異様な頭をしていた。おどるマントから手足が見えるのだが、頭が──蛇がのた打ち顔は石像のように見えた。



 アイリ・ライハラはどこだ!?



 こいつに倒されたのか!?



 彼は下げたランス──ヴァンプレイト(:大きな笠状のつば)がついた細長い円錐の形のやりを握り直し身体をひねり引き構えると、マント姿の怪物を回り込んできた稲妻を眼にしてさらに驚いた。



 ジグザグに踊り狂う真っ青な雷光がいきなり動き止まるとそこに両(ひざ)を広げ石畳に足を滑らせながら少女がソードを振り下ろし怪物に打ちつけていた。



 その反った細身のソードを蛇頭の石像が振り上げた右の一の腕で受けている。だがその腕の幾つもの傷を眼にしてライモは少女のやいばが怪物を傷だらけにしていると直感で悟った。



 しかし軽量級のアイリが怪物に有効な痛手を負わせられずにいると彼は判断し加勢に入ろうとした瞬間、怪物の腕を押し切ろうとする少女に怒鳴られた。





「バカやろう! 手を出すなライモ!」





 馬鹿野郎だぁ!? 近衛兵長は口を開いて唖然となった。彼は気持ちを引き締め腰を下げ(ランス)を構え直し怪物へ突っ込もうと前のめりになった刹那、蛇頭がアイリのソードを弾き上げ、少女が一瞬振り向きまた怒鳴った。





「てめぇ! 本気で殴るられるぞ!」





 その寸秒、彼は怪物の振り出した腕を腹に受け少女が飛ばされたのを眼にして、その小さな身体を追い顔を振り向けると広場中央の噴水に派手な水柱が上がった。



 あの阿呆、斬り合いの最中に──ライモが顔を怪物に戻すとその蛇頭が噴水に悠々(ゆうゆう)と向かい歩き始めていた。



 いかん、アイリにとどめをさすつもりだ!



 近衛兵長が止めようと駆けだしたその時、噴水の池縁に少女が立ち上がった。



 その姿が見え、ライモ近衛兵長が逃げろと怒鳴ろうとした少女の異変に気がついた。







 ずぶ濡れのはずのアイリ・ライハラの髪がまったく濡れていないことにライモは駆けながら困惑し眉根をしかめた。











 乱暴なノックに返事をする間もなく、王女の居室のドアを開かれイラ・ヤルヴァが駆け込んできた。テーブルに向かいソファで布告の草稿を広げ読んでいたイルミ王女がイベントなのかと顔をほころばせた。



「王女様、城内に侵入した何ものかがここへ向かって来ています。アイリ・ライハラが対応しておりますが、万が一のことを考え避難して頂きます」



 説明した直後女暗殺者(アサシン)の真剣な表情が崩れた。



「まぁ!? アイリが!? 見に行きましょうぞ。で、どこなのです?」



 イルミ・ランタサルは破顔しソファから立ち上がるとイラに強く尋ねた。



「王女様! アイリが逃げるようにと!」



 女暗殺者(アサシン)の警告を無視するように彼女に歩み寄った王女は腕を握りドアの開いた出入り口に歩こうとした。



「さあ、案内しなさい。われにあの子の雄志ゆうしを!」



 引っ張られる腕を力任せに振り戻し王女を立ち止まらせさせるとイラ・ヤルヴァは本気で怒った。



「もう何人も倒されているんだ! あんたが行ってアイリの足枷あしかせになったら、今度は本気で俺が殺すぞ!」



 その意気込みに王女が平気で水を差した。



「命をして闘う我がソードを命をもってでるのは摂理せつり。そなたが我がソードに命を預けるように我の命もそのソードになっているのです」



 もっともらしいことをいけしゃあしゃあと言う君主だと女暗殺者(アサシン)はカッとなりこぶしにものを云わせようと右手を後ろに引いた。その時、イルミ・ランタサルが素早く伸ばした右手指数本をイラ・ヤルヴァのあごに絡めた。





「わたくしと最高の娯楽(ご・ら・く)を──」





 ご・ら・く──だと!?



 私は決してそのような思いで──あのものが命を救ってくれて──『わたしの玩具に──手出しするな!』──まるで口述伝承の魔物と競り合う少女の言葉がイラの耳に蘇った。





「ほら──あなたもあがないきれない」





 耳打ちするような王女のささやきが女暗殺者(アサシン)をなし崩しにした。



「ちょっとでも──あなたの身に危険が及ぶなら──引きてでも連れ去りますから」



 そうイラが言うと王女は腰に両手を当て満面の笑みを浮かべ命じた。





「案内なさい、イラ・ヤルヴァ」











 兵士の手薄になった跳ね橋付近の物陰の石畳に紫色の魔法陣(マジックサークル)が広がるとその中央の闇から腰までの長い髪をした年齢に不釣り合いな不気味さを漂わせる笑みを携えた少女が浮き上がってきた。



 少女の黒い爪をした左手指数本が軽く手首を回し閉じると彼女の足元にあった魔法陣(マジックサークル)が吸い込まれ紫の残渣ざんさが火の粉のように舞い上がった。



 石畳が元の明るさを取り戻すと少女は物陰から出てくるなり辺りに視線を流し送り危害のおよびそうなものを探した。



 城門そばの広場に十人以上の兵士らが倒れている。



 黒爪の少女にとって兵士などどうでもよかった。



 土塊つちくれから生み出したガウレムとは魔石の繋がりで疎通そつうがはかれても、その視界から見える状況や場所は限られており彼女にとって真の見当をつけ辛かった。



 ウルマス国王と王女の心の臓をえぐり出せと命じられたガウレムは埋め込まれた双眼の魔石の力により自動で二人を探り出す。たとえどんなに深く入り組んだ洞窟に逃げ込んでも魔石のもたらす魔眼には見通せた。



 だが不都合なことにガウレムから見えるものには何の注釈もなく、命令に支障が出ていないかもこうやって陰ならず見張る必要があった。



 少女は見てくれの都合良さから堂々と広場を渡り歩くと奥へ向かった。



 ガウレムから見えている光景に噴水が見えていた。



 あの馬鹿頭、どこへ向かっているんだ? ウルマス国王やイルミ王女はどうしたんだ?



 黒爪の少女は城門前の広場から狭い通りへ入り歩き続けると、噴水の縁石に池から少女が立ち上がるのが見えた。ただの少女なら気にも止めなかった。ガウレムは目的に支障がある場合を除き無駄な闘いはしない。



 だが噴水に仁王立ちになった少女は黒爪の少女の見たこともないソードを手にしていた。細身のわずかに湾曲した長剣だった。だがもっと珍しいもの──噴水の少女はあお色の魔石ような髪色をしていた。



 ガウレムは明らかに群青ぐんじょうの髪の少女へと向かっていた。敵と──障害とみなしているのだ。



 何をそんな小娘に関わっているんだ!?



 黒爪の少女は、まさかあお髪の少女が自分と同じように見てくれと本性が違うのかといぶかしんだ。



 あの群青はどこかで見た色合いだった。



 その記憶がもたらすのか言い知れぬ違和感を黒爪の少女は抱いた。



 そんなことはあるまいと黒爪の少女は無視して噴水のある広場を目指した。そうして次の広場に出るとその瞬間、ランスを手にガウレムの横手に突撃した大柄の兵士がこぶし一つで広場外周の居館パレスの壁に殴り飛ばされた。



「だから殴られると言っただろ! 馬鹿ライモ!」



 群青の少女が飛ばされた兵士にそう怒鳴り噴水の縁石から石畳に飛び下りた。その反動で着ている緑の服から多くのしずくほとばしった。



 群青の少女がまったく怖じずに黒爪の少女が仮の命を与えた土塊つちくれに向かい服からしずくを滴らせながら歩き始めソードを片手で振り上げ切っ先を向けた。



 そんなソード一つで──鋼に勝る金剛石の強さを持つガウレムをめるな!



 そう黒爪の少女がにらみつけた瞬間、彼女は違和感の理由に気がついた。



 何なのだ!? 噴水の池から出てきて服がそれほど濡れているのになぜお前の髪は濡れそぼっていない!?





フォー()ステップ!」





 黒爪の少女が困惑した刹那、群青の少女が言い捨て姿が幾つもの残像を引き連れ稲妻になった。










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