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第6話「私は貴方の何ですか?」

「エーデルは外で見張りをしていてくれ。誰か来たらすぐに知らせろ」

「わかりました!」


 俺は自身に《透明化》をかけた。忽ち、俺の体は透明になっていく。

 扉を透過して室内に潜入。

 室内に入ってまず目に止まったのは、奥のソファーで横になる、まるで童話に出て来るお姫様のように麗しい少女だった。

 金髪を赤色のりぼんで纏めたポニーテール。魅力的に長いまつ毛。肌は骨董品のように美しい白い肌。

 年齢はどう見ても高校生には見えない小柄な少女だ。


(こりゃあ将来美人になりそうな女の子が居たもんだなぁ。……どう見ても日本人には見えないけど、どこの国の子供だ?)


 もう少し大人の女性だったら口説いてたかもな、とふと思いつつも、俺は浮かぶ疑問を整理していく。

 何故こんな美少女が、この鏡音第一高等学校で眠っているのか?

 ここは何の目的で作られた場所なのか?

 部屋を隠したのは誰なのか? その手段は?

 ……それらの疑問を解消するためにも、周辺の情報を漁るとしようか。

 さて、まずは部屋を軽く目星だ。


(ふんふん。部屋の作りは思っていたより普通だな。ソファーにテーブルに本棚。机の上にはノートパソコンと携帯ゲーム機。食器が入った棚なんてのもあるな。極め付けに置き菓子までありやがる)


 ……悪事を企む隠れ家というよりも、数人で軽く寛ぐための秘密基地みたいな所だ。

 本棚に至っては、漫画や小説などしかない。それもティーン向けの本ばかりで、如何にもイマドキ女子が好きそうな内容の物が揃ってある。


(棚にある食器の数から鑑みるに、この場所を利用している人数は三人程度とみた! 今ソファーで眠っている子がそれらの数に含まれているかはわからないが、この表情……。安心して眠れる場所だと自ら認識しているなら、少なくとも関係者であることは間違いないな)


 ……調べられる場所は大体見たかな?

 これがスパイ映画なら、そこにあるパソコンから情報を探ったりもするのだろうが、あいにく俺は元勇者であって秘密諜報員ではない。そんな高等テクニックは不可能だ。

 ……いや、まだ調べていない所が一つあったな。


「スゥ〜……。スゥ〜……。スゥ〜……」


 少女は、子供のように安らかな笑みを浮かべながら、気持ちよさそうにスヤスヤ眠っている。

 今や異世界最強と名高い俺ならば、魔法で少女本人から情報を得ることもできる。

 例えば、幻惑魔法《記憶干渉》で少女の記憶を見てみたり。

 例えば、変性魔法《追跡》で少女の動向を監視できるようにしたり。

 例えば、精霊魔法《闇精霊の呪い》で死の呪いをかけて脅してみたり。

 ……最後のは流石にやめておこうか。

 とにかく、俺なら簡単にここの秘密を暴き、その裏にある目的・存在も全て丸裸に出来る。

 プライバシーなど知ったこっちゃない。全ての情報がネット検索のように容易く習得できるんだ。

 まさにチート能力ってやつだよ!

 こりゃあ笑いが止まらないぜ! はっはっはっ!


「ごーしゅーじーんー?」

「おっと」


 いつの間にか、俺の背後に立つ何者が現れたようだ。

 振り返るまでもなく誰なのかはわかる。俺の相棒であり仲間であり専属メイド、今では恋人関係にある戦闘用アンドロイドエーデルさんだ!

 改めて考えると属性多いな、こいつ。ただでさえ属性過多だったのに、最近また役職が増えたから管理できなくなっちまったよもぅ。


「……御主人」


 ふざける俺を他所に、エーデルやたら怖い声色で俺の名を呼んだ。


「何だ?」

「今、ワタシの感が正しければ、そこにいるロリっ子にイカガワシイことをしようとしませんでしたか?」

「お前……、ロリっ子とか差別的な表現やめろよ。本人が気にしていたらどうするんだ?」

「答えてください」


 うーん。どうやら誤魔化すの難しそうだな。

 何だろう。エーデルって幻惑魔法が使えるのかな? だってさっき俺、『まだ』何もしてなかったじゃん!? 何で俺の考えてること読めるの!? あと、外で見張ってろって言っておいたのに、また主人である俺の言いつけ破りやがったぞこの駄メイド!!

 ……仕方がない。ここは素直に謝罪しておくか。

 大丈夫。真摯な気持ちで伝えれば、温厚なエーデルならきっと許してくれるよ。


「正直に話そう。誰も居ない一室で、無防備にソファーで眠る美少女を相手に、ちょっとだけやましい気持ちになりましイテテテテテテッッ!!!!」


 最後まで言い終わる間も無く、エーデル俺の顔面をアイアンクローをしてきた。

 《透明化》を一切無視して放たれた必殺の鷲掴み。

 元勇者である俺が苦しむくらいの激痛が襲ってきた。


「やめ、やや、やめ、やめろお前!! 主人に手を挙げるとか、メイドにあるまじき行動だぞ!?」


 堪らず幻惑魔法《鎮静》をエーデルに放つ。これは相手を鎮静にさせ、大人しくすることが出来る魔法だ。

 本来なら、この魔法一つでどんな激昂した人・動物でも心が静かになる。

 しかし、俺がいくら魔法を放ってもエーデルは何事も無くただアイアンクローを続けるだけだった。

 まるで、魔法が効いていないかのように。


(くそっ! やっぱり発動してるな! 《魔法無効化スキル》!!)


 エーデルは、異世界を苦しめる魔王を倒すために莫大な費用と優秀な研究者達が技術の粋を集めて作った最強の戦闘用アンドロイドだ。

 そんなエーデルが持つスキルは、《魔法無効化スキル》。

 通常、アンドロイドのような人工生命体は、魂を持たないため魔法が使えない。

 それなのに、何故エーデルのような戦闘用アンドロイドが作られるのかというと、アンドロイドは人の手で作れるメリットとして自由に《スキル》が習得出来るからだ。

 スキルとは、わかり易く言えば才能のこと。

 《魔法無効化スキル》は、あらゆる魔法を打ち消すことが出来る、対魔法使い戦では負け知らずの超強いスキルだ。

 魔王、そして魔王の下僕達は魔法を駆使して人間達を襲う。だからこそ、人類は《魔法無効化スキル》を生み出そうとし、それを所有するエーデルというアンドロイドが生まれたんだ。現に異世界では、このスキルを所有しているのはエーデルしかいない。

 人類が本気を出して作ったエーデルの性能は凄まじい。実際に魔王と対決した際は、戦闘面において無類の活躍をしてくれたものだ。俺を除いて。



 詰まるところ結論を言えばだ。

 エーデルが《魔法無効化スキル》を発動すれば魔法は通じない!

 かといって肉弾戦でエーデルに勝てる気はしない!

 俺、『ウルトラスーパーデラックス大ピンチ』……って訳だよっ!!



「というか、《透明化》も魔法無効化で解除されちまったじゃねーか!! 痛い痛い!! え、エーデル!! 話し合おう!? 俺達仲間じゃないか!?」

「……仲間?」

「仲間だけじゃない! 俺達は、苦楽を共にしてきた掛け替えのない相棒!! パートナーだ!! そうだろう!?」

「……相棒?」

「え、違う!? じゃあ…………そう!! エーデルは実に優秀なメイドとして俺の世話をしてくれた!! 感謝してるぞ!! …………これも違う!? なら、アレだ!! エーデルってよく見なくても途轍もなく美人だよな!! スタイル良いし顔も整ってて凄く俺好みだ!! チャームポイントの眼鏡もまた良い味出してて大人の色気を感じさせられるぜ!!」

「……………………」

「えええもう何が正解かわかんねえヨォ!! あぁぁぁエーデル好きだ愛してる!! 世界で一番お前のことを見てるぜハニー!!?!」


 俺は激痛に耐え切れなくなり、自棄っぱちで最高の褒め言葉をぶつけた。

 すると、突然パッとアイアンクローが解かれ、俺は力無く地面に倒れた。


「……ふふふ。御主人ったら積極的過ぎます。ここは神聖な学び舎ですよ? 学生が必死に勉強する場所でワタシに欲情しちゃうなんて、本当にしょうがない御主人ですね♪」


 エーデルは、倒れた俺をどこか蠱惑的な表情を浮かべて抱き寄せた。そして同時にギュッと力強くハグをしてくる。

 女の子特有のほのかに甘い香りと柔らかい感触が伝わってくるが、正直今は痛みから解放された安堵で胸いっぱいだった。本当に頭蓋骨が割れるかと思ったからな。


「うう……っ。仕事を放棄した挙句、折角かけた幻惑魔法も無効化しやがって」

「申し訳ございません。つい、職務より感情が優先してしまいました」

「お前ホントそういうところ、俺にソックリだよな」

「これ以上ない褒め言葉です」


 ……本当にそうかもしれないから困る。

 ああ。そんなことよりも魔法が!

 どっかの馬鹿のおかげで《透明化》が解けて二人共丸見え状態じゃねーか!

 もし今、ここの住人が入ってきたらアッサリと見つかっちまう……。


 ガチャ。






「ごめんなさい。遅れてしまいました」

「……お菓子買ってきたぞ。梨緒」

「うう〜っ、うるせ〜なぁ人が寝てる時に。誰だ部屋で騒いでる奴は……」






 ……………………。

 …………。

 ……。


「「あっ」」


 隠匿されていた秘密の部屋。

 そこへ扉を開けて入ってきたのは、二人の少女だった。

 そして、騒がし過ぎる環境でついに目が覚めてしまった金髪美少女。

 謎の少女三人は、部外者であり潜入者である俺達を『目撃』した。

 波乱の予感がするそんな状況下で俺、待浩二は、この自分の不幸な運命バッドラックをただただ呪い続けるだった。

読了ありがとうございます。

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