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第5話「青春と隠匿の部室棟」

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」


 あれから二日が過ぎた。

 長期間の異世界生活で、元の世界でうまく馴染めるのかと不安だった俺だが、学校生活は今のところ順調。クラスの人とも普通に話せるし、何一つ滞りはない状態だ。

 元々、俺はコミュ症って訳ではなかったからな。最初に話せるようになってしまえば後は楽なものだった。

 ……問題があるとすれば、余りに生活が順調過ぎて何も面白味がないということだろうか。


「折角、現実世界に帰って平穏を手に入れたっていうのによぉ! 今度は退屈でうんざりするとか本当、俺ってわがままな奴だよなー!!」


 休憩時間。

 俺は今、部室棟に来ていた。購買で買ってきた惣菜パンをエーデルと一緒に貪っている。

 ……まあ、何だ。何故こんな場所にいるかというと、エーデルがどうしても俺と食事がしたいと言って聞かないから、仕方なく人気の無い場所に来た次第だ。

 そして俺達は、ここで非常に有意義な雑談をしているのだった。


「御主人、学校の授業に早くも飽きているようですねー。まあ、勇者時代でも勉強サボりがちでしたし」

「だって頭痛くなるんだもん。基本的に向いてないんだよ、勉強って」


 異世界でも、俺は勇者として色んな講師から勉強を受けていた経験があった。戦いのための実戦訓練はもちろん、異世界の歴史・時事問題。あと何故か数学や国語、外来語も学んだ。

 実戦訓練はともかく、ああいう頭を使った授業は本当に嫌いだった。


「でも、魔法についてはよく勉強していましたよね。その成果もあって御主人は勇者であり、最強の魔法使いとして名が轟いたくらいですから」

「魔法学は何故か気に入ったんだよ。多分、学べば学ぶ程強くなれるのが嬉しかったんだろうな」


 情報は武器だ、といって講師達はお節介にも色々なことを教えてきた。

 でも、別に俺が覚える必要なくね? 仲間の誰かが勉強して機会が来たら俺に教えてくれれば良くね? ……と常々思っていたことから、情報関連を覚えるのは後回しにしてきたのである。

 俺はスポーツマンだったからな。頭を使ったインテリ系よりも、体を動かして活躍する方がかっこいいと感じていたんだ。

 ……そういえば。だからという訳ではないが、俺の居たパーティーには割と知識人が多かったな。彼らの活躍があったからこそ、俺はスムーズに魔王を倒せたと言っても過言ではないだろう。


「そうだ。仲間だ!」

「仲間? 御主人、急にどうしたんですか?」


 俺は突然ひらめいた。

 異世界での暮らしで、俺の大部分の生活は魔王を倒す目的だけで成り立っていた。

 そんな窮屈な生活で、自分でも不真面目だろうと思うこの俺が逃げ出さなかったのは、ひとえに仲間の存在があったからこそだろう。

 異世界に来て五年。

 十代の半分を過ごしたあの時間の中で、俺は様々な人と触れ合い、経験を積んできた。

 退屈で面倒な勇者という職業を、明るく彩らせてくれたもの……。

 それは、《仲間》!!


「何かおかしいと思っていたんだ。でもようやくわかったぞ、今の俺に足りないものがあることを。そう、今の俺はボッチだ! 果てしなくボッチだ!!」


 久しぶりにゲーム仲間と協力プレイで遊んだ時、足手纏いでハブられたのは悲しかった。

 彼奴ら結構ガチ勢だからな。ゲームやっている時は普段と目付きが違って本当怖い。


「御主人!! 何を言ってるんですか!? ワタシという最高の仲間がありながら!!」

「でもお前、今は俺の恋人なんだろう?」

「恋人兼仲間、です!!」

「じゃあちょっと抱かせてくれ」

「わーい♪」


 エーデルは、ジャンプしながら俺の胸に飛びついた。

 何というか、積極的過ぎて逆に物足りなくなるな。

 エーデルとは、一緒にいる時間が近過ぎて他人という気がしない。

 最早こいつは仲間どころか、俺の体の一部と言っても良い関係性にある。

 ……流石にそれは過言か?


「エーデル。お前の抱き心地は相変わらず最高だ。だが、俺が欲しているのは仲間。フレンド。宿命のライバル。俺の物足りない人生にささやかな刺激を与えてくれる、そんな存在なんだよ」

「ワタシより仲間の方が大事だというんですか?」

「は、何言ってる? お前より大事な奴なんてこの世にいるはずがないだろう」

「キャーーッ、ごしゅじ〜〜ん♪ 愛してますぅ〜〜♪♪」


 エーデルは俺の胸に激しくすり寄ってくる。

 甘えるようなその素振りは、まるで小動物宛らな愛らしさがあった。

 こうして甘えられるのは嫌いじゃないので、しばらくこの状態で居ようか。



 〜 十分後 〜



「……満足したか?」

「割と」

「そうか。では話を戻すが、仲間を増やすに当たってこの学校という環境はこれ以上にない場所だ。そこで俺は、部活に入ろうと思う」

「部活? 前に御主人が言っていた、共通の者同士で活動をする集まりのことですね」

「そうだ。同じ境遇の中で楽しさや喜びを分かち合い、学校生活を豊かにするために入る憩いの場。まさに、今俺が求めているものだ」

「部活動にも種類があると聞きました。御主人は、どのような部に入る予定なんですか?」

「御誂え向きに、ここは部室棟だ。ちょっと覗いてみるか」


 有言実行。

 俺達は、人気のない部活棟で各スペースを順番に見ていく。


「うーん、ここは屋内の部室棟だから文化系の部活が多いな。……俺の趣味とは少し違うが、新規開拓も悪くはないか?」

「御主人は、これまでに部活をしていた経験はあるんですか?」

「ああ。中学まではバスケ部に入っていた」

「バスケ?」

「今度教えてやるよ、楽しいぞ」


 手芸部。華道部。囲碁・将棋部。ゲーム研究部。映画制作同好会。

 一つ一つ、扉に貼られてある部の名前を確認してみるが、どれもピンとくるような部活ではなかった。

 そして、いよいよ最後の扉に向かおうとしたところで……。

 俺は、あるとんでもないことに気付いてしまった。


「おいおいおい。どうなってるんだこりゃあ?」

「……? 御主人、どうしましたか?」

「エーデルにはわからないのか。この空間、間違いなく特殊な力によって隠蔽されている。何者かが部室棟に術を施したんだ」

「……魔法、ですか?」

「わからない。けど、現実世界の物理法則ではあり得ない『何か』がある」


 とにかく、百聞は一見にしかずだ。

 俺は、エーデルに変性魔法《魔力の眼》をかける。これで、エーデルにも隠されていたスペースが見えるようになるはずだ。


「な!? こんな所に、秘密の扉らしき物が……!」


 エーデルからしてみれば、目の前にいきなり扉が出現したように感じただろう。しかし、実際はそうではない。元々あったこの扉が、何者かの手で意図的に隠されていたんだ。

 その扉には、他の扉のように部の名前が書かれたプレートは無く、何の変哲もない状態にあった。

 俺は扉を調べてみる。

 通常では見えないものも見えるようなる《魔力の眼》は、透視・状態確認・罠感知等ができる非常に汎用性の高い魔法であり、俺のお気に入れの魔法の一つでもあった。

 《魔力の眼》を使った状態で扉を調べると、扉は強固に施錠されているだけでなく、侵入者を撃退する罠が数個設置されているとわかった。


「……罠ありだ。こりゃあ、かなり『臭い』ものを見つけてしまったかな〜」

「御主人。しかも扉の奥に人影があります。数は一。どうやら眠っているようです」

「平穏無事に学校生活を謳歌したい身分としては、出来れば見なかったことにしたいなぁ〜」

「しかし、あの佐々江という人物もかなり胡散臭いですからね。もし仮に、この学校が我々が予知しない特殊な力を持つ者共の巣窟だった場合、今度彼奴等が何しらのトラブルを招いてくるかもしれません」


 佐々江美典。

 異世界帰還後、初の通学日に謎の力を使ったのではないかという疑惑を持つ少女だ。

 エーデルに言われ、あの後も佐々江美典を観察していたのだが、その甲斐あって彼女についてわかったことがあった。

 真面目な優等生である佐々江さんは、何故かいつも遅刻ギリギリの時間に登校してくること。そして、放課後はすぐに帰宅してしまい、誰も佐々江さんの姿を見ていないということ。

 これだけの情報でも、クラスの誰もが佐々江美典のプライベートを知らないということがわかる。

 生徒達はすぐに帰宅すると言っているが、実際には佐々江さんはクラスに残っているし、下駄箱で靴も置いたままだから学校のどこかにいるはずなんだ。

 しかし、誰も彼女を目撃していない。

 まさにミステリーってやつだ。


「……トラブル未然に避けるためにも、ある程度情報を得た方が良さそうだな」


 本来、こういう仕事は俺の担当ではないんだが、ここには諜報技術に特化した人物はいない。人に任せられない仕事は、自分でやるしかないようだ。

 幸いにも俺には《透明化》という素晴らしい魔法が使える。これがあれば、いかなる罠が仕掛けてあっても物理干渉不可で壁をスイスイとすり抜けて室内への潜入が可能だ。

 さらに各種幻惑魔法を応用すれば、魔王クラスの術者でもない限り俺達を発見することは出来ないだろう。

 さあ、偶然見つけてしまった秘密の扉。

 様子を見に潜入を試みるが、それは吉と出るか? 凶と出るか?

読了ありがとうございます。

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