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死の花が咲いた日  作者: 巫 夏希
一章 謁見
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第04話 勉強会(前編)

 王宮地区には巨大な住宅地が広がっている。もちろん、その家に住むことができるのは貴族としての地位が認められた人間だけだ。すなわちここに住むことはステータスとしてこの国では存在しているということになる。それに、ここに住むということは上級騎士の庇護に入ることができるため、犯罪に遭うことも無い。

 この国で一番平和な場所。

 それがこの住宅地であった。

 住宅地にある大きな建造物がある。共同住宅とはなっているが、入り口に王宮騎士が警備にあたっていて、住人は専用のカードを提示した上で本人である証明をしないと入ることが出来ない。まさに万全のセキュリティだった。


「ここがあなたと、祈祷師様が住む部屋になります」


 扉を開けるとそこに広がっていたのは、こじんまりした部屋だった。簡素なキッチン、本棚、ベッドが一つ、それに風呂場とトイレ。二人で住むには少々狭いのではないか……? そんなことを思ってしまうほどの狭さだった。

 エレンの話は続く。


「……一応お伝えしておきますが、私もここに住むこととなっています。隣に部屋がありまして、そこにも寝室があります。私は玄関に近いこの部屋で眠るとして……、アルファス上級騎士様と祈祷師様はそちらの部屋で眠っていただくこととなります」


 彼女と、同じ部屋で眠らないといけないのか?

 いや、別に嫌いなわけではない。問題は変な噂が立てられないか、ということと、エレンの視点からしてそれについては全然問題ないのかという点についてだった。その二つの点さえ問題なければ構わないといえば構わない。

 彼女と僕は幼馴染だが、それ以上の関係にはなったことがないし、多分階級の違いを考えてもそれ以上の関係になることは先ず無理だろう。

 もしかして、それを予測したうえで同じ部屋に眠らせようとしているのだろうか? だとすれば相当な策士だが、あいにくそこまで見抜けることは出来なかった。


「それでは、これからのスケジュールについて簡単に説明させていただきます。面倒ではあると思いますが、最後までお聞きいただければ幸いです。先ずは、そちらのテーブルにお掛けください」


 そう言ってエレンは部屋の中央に位置するテーブルに座るよう誘導した。別にそれに従わない理由は無いから、僕も彼女も素直にそれに従った。

 僕と彼女、それにエレンが椅子に座った段階で、エレンは小さく溜息を吐いた。


「……さて、それでは話を始めましょうか。これからのスケジュールについて、非常に簡単ではありますが、それくらいにしておかないとこれからが非常に面倒になりますから」

「……とはいえ、僅か一週間だろう? それ程面倒な仕事とは思えないが」

「あなたは少し、祈祷師が狙われる危険性についてあまり理解していないようですので、先ずはそちらからお話ししましょうか」


 何だか軽く蔑まれているような気がするが、それについてはあまり考えないほうがいいだろう。とにかく、今は知識を蓄えるべきだ。

 そう思って、僕はエレンの話を聞くこととした。



 ◇◇◇



「祈祷師が何故今のような地位に上がっていったのか、先ずはそこから簡単にお話しすべきでしょう。祈祷師という職業が世間的に認知されたのはついここ数百年のことですが、祈祷師自体はずっと昔から存在していました。職業が生まれたばかりのころはただの占い師として人々の悩みや不安を聞いてそれを少しでも解消する。そうしてそれによって毎日を生きてきた……そういう存在だったといわれています」


 そうだったのか。

 今では祈祷師が随分と幅を利かせているような気がしないでもないが、そんな最近のことだったとは思いもしなかった。まあ、数百年を『最近』と言ってしまうのはどうかと思うが。


「祈祷師が認知されるようになったのは、大災厄を予言するようになってからです。この国と隣国との戦争……それも祈祷師により予言されたものだと言われています。そしてそれが当時の国王陛下の耳に入り、祈祷師を国仕えの役人とすることとしたのです。今までただの一般市民と同等の地位だった祈祷師が、それによって上流階級に上がることが出来ました」

「話を逸らすようで申し訳ないが……当時、上流階級に遷移した時って相当の苦情があったのではないか? 祈祷師を殺してしまう人間も、恐らくは現れたんじゃ」

「ええ。その通りです。そして祈祷師が殺されたケースもありました。しかし、祈祷師は能力が開花するメカニズムがあまり判明していません。面白いことではあるのですが……。いえ、それはあまり言わないほうがいいでしょう」

「祈祷師の絶対数は、相当少ないという認識で良かったか?」

「ええ。祈祷師は一握りしか居ません。中でも国の政にかかわる重要な思し召しを進言できるのはたった一人……。この国でいえば今ここにいらっしゃるアルナ様ということになります」


 彼女――アルナはその言葉を聞いても何も反応することはしなかった。

 アルナはいつもそうだった。無関心、という言い方はよくないかもしれないが、それに近い。アルナはいつも不愛想な感じを装っている。未だ彼女の感情が変わっていないのならば、今の彼女は恐らく――。


「そして、祈祷師は世界の重要性を担う存在にまでのし上がることが出来ました。この世界にある国……すべての国とまでは言いませんが、ほとんどの国に祈祷師が居ます。それぞれ国を代表する祈祷師であり、国の看板を背負って会議に参加するのです」

「今は世界平和と言われているからな。……まあ、それはあくまでも表向けではあるけれど」


 世界平和。

 簡単に言えば、戦争を止めようという世界共通のルールめいたものだった。

 数年前に大規模な戦争が起きて以降、戦争は何も生み出さないことが世界的なムーブを生み出した。そして、最終的に祈祷師会議にて『このまま戦争を続ければ生まれるのは破滅のみだ』という思し召しにより、世界各国が平和条約を締結するに至った。もちろん、それは祈祷師が居る国しか平和条約を締結していないため、祈祷師が居ない国はその条約を締結していないことを理由に戦争を行うこともある。だから正確には、未だ世界は平和になっていない――ということになる。


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