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死の花が咲いた日  作者: 巫 夏希
四章 解答
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第20話 走馬燈

 エレンはその言葉を聞いて、膝から崩れ落ちた。

 どうやら彼女はもう諦めたようだった。僕にとってもそれが有難かった。このまま泥沼の戦いに突入するのは非常に宜しくない。どうせなら血が流れることなく終わったほうが気分がいい。……祈祷師を守るために剣を鍛えている上級騎士の言う発言では無いかもしれないが。


「……裁きを受けるがいいでしょう。神の裁きを。あなたはやってはいけないことをしてしまった。それは神の発言、その代行者たる祈祷師を三人も殺してしまったということ。一人だけならまだしも、三人も殺めてしまった。その罪は……、きっと一生かけても償うことは出来ないでしょう」

「代行者……たる、存在……!」


 エレンはそれ以上何も言うことはなかった。

 しかし、アルナはまだ言いたいことがあったのか、深い溜息を吐いたのち、話を続けた。


「祈祷師は神の代行者です。正確に言えば、その言葉を人間に届けるための仕事、とでもいえばいいでしょうが……、いずれにせよ、その言葉で何ら間違いはないでしょう。あなたが何を思い描いているのかは、解りませんが」

「……祈祷師さえいなければ、神の言葉がこの世界に流れることは無い。つまり、お前たちさえいなければ……!」

「それは逆説に過ぎませんよ。それに、祈祷師が死んだとしてもその意志は永遠に流れ続ける。祈祷師の才能がある人間が採掘されるだけの話。神の裁きを受けることでしょう、あなたは。それがあなたに残された最後の手段」


 そう言って、アルナは踵を返した。

 僕のほうを向いて、アルナは笑みを浮かべていた。

 ちょうどその時だった。

 彼女の身体を、剣が貫いた。


「……え?」


 アルナもそれに気付いて、下を見つめる。

 それと同時に、彼女の口から血の塊が零れた。

 背後に立っていたのは、エレンだった。

 エレンの目は血走っていた。そして彼女が握っていたのは、調理用に使っていた包丁――。


「これで、祈祷師は皆死んだ! 私の野望は叶えられる。私の家族を殺して、めちゃくちゃにした祈祷師の思し召しを、もう聞く必要もなくなるというわけだ! ははは、祈祷師め。結局はこういう奇襲には何も対抗出来ないというもの。思し召しが出来るからといって、自らの死は見ることは出来ないというわけか!」

「貴様……」


 僕は、その状況を見て――やることとしたら、一つしかなかった。

 腰に携えていた剣を構えて、エレンを見つめた。


「貴様ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 そうして、そのまま振りかざすと――エレンの身体を真っ二つにした。



 ◇◇◇



 アルナは夢を見ていた。

 それはとても楽しい夢だった。過去に、アルファスと話した物語。


「……アルファス」


 あのお香が充満する部屋で、アルナはアルファスに語り掛けた。

 まだ彼が上級騎士として神にその命を伝えられる前のこと。

 アルファスとアルナは、普通ならば近寄ることすら許されない存在だった頃のこと。


「どうしたんですか、アルナ。……僕は急いで戻らないと、師匠に殺されてしまいます」

「そうなったら、私が呼び寄せたと言えばいいのよ。流石のあなたのお師匠様も、祈祷師に呼ばれたからと言われればぐうの音も出ないのではなくて?」

「そうかもしれないですが……」

「それと」


 アルナはアルファスの口にそっと触れる。


「今は私とあなたしか居ないのだから、普段のような話し口調でいいのよ? そう、昔みたいに……」

「それは、アルナと僕が一緒の地位だったから。今は天と地ほどの差があるけれど……」

「それがどうだっていうの?」


 アルナは言った。


「私とあなたは、たとえ地位が変わってしまったとしても、環境が変わってしまったとしても、私とあなたの関係は変わらないでしょう?」


 彼は頷いた。

 けれど、その頷きはどこか納得していない様子にも見えた。


「……あなたは真面目な人だから、きっと納得してくれないと思う。けれど、私もずっと敬語で話をされてしまうと、緊張してしまうのです。あなたはずっと昔から私とともに遊んでいたでしょう? だから、あなたと私しか居ない時は……、昔のように気さくに話をしたいのですよ」


 その言葉にアルファスは答えなかった。

 けれど、アルナはそれでも幸せだった。

 それが、一時の夢であるということを、理解しながら。


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