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死の花が咲いた日  作者: 巫 夏希
三章 会議
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第16話 二日目

 二日目の朝は雨から始まった。

 アルナとナユシーは揃って僕の前に腰かけていた。

 理由は単純明快。今から、僕が話す言葉を聞くためだった。


「……もう知っているかもしれないけれど、昨日ミルシアが殺された」

「知っていますよ、アルファス」


 僕の言葉にすぐに反応したのはアルナだった。

 アルナはもしかしたら昨日のことが思し召しで見えていたのだろうか?

 いや、だとすればそれを進言すればよかったはずだ。どうして進言しなかったのか? ということに繋がるのは自明だろう。ならば、どうしてアルナはその発言をしたのだろうか。


「……簡単な思考ですよ。ここにミルシアが居ない。そして会議室ではなくこのキッチンに集められた。そして、あなたから重要な話があると、会議を中断させてまで呼び出した。……そこまでくれば答えは簡単に導き出されるのではないですか?」


 それを聞いて僕は頭を抱えた。確かにその通りだ。アルナのいう通り、僕がそう指示したということはそう考えるのが妥当かもしれない。


「それにしてもアルファス、厄介な話になってきたのね。……だって、この中に犯人がいるということでしょう? 祈祷師二人を殺害した、狂人が。仮に祈祷師が犯人だとすれば、同族殺しになるのかな」

「……アルナ、それって私が犯人だって言いたいわけ?!」


 アルナの隣でずっと震えていたナユシーが、口を開いた。

 彼女のストレスは限界に達していたのだろう。おととい初めて出会った様子とは違う、まるで別人になってしまったような感覚といってもいいだろう。

 アルナはナユシーを宥める。


「別にそんなことは言っていないでしょう。あくまでも、可能性の問題です」

「可能性の問題、って……! つまり、考えているってことじゃない!」


 ナユシーは立ち上がり、キッチンから廊下に出る扉へと向かっていった。


「どちらへ」

「決まっているじゃない! この中に犯人がいるのでしょう? だとすればこのような場所にはいられません! 私は会議室へ戻らせていただきます。あそこなら、心を落ち着かせることもできますから!」


 そう言って、ドアノブを手で少し探すようなそぶりを見せて、ドアノブをひねり、外へと出て行った。

 あちゃあ、まずいな。ありゃ、完全に怒ってるよ。

 どうすればいいかな。アルナが火に油を注ぐような発言をしたから……、と言ってももう後の祭りではあるけれど。

 とにかく、アルナに話をしよう。

 僕はアルナに目線を戻す。アルナは目の前に出された食事に手を付けていた。ナユシーは何も食べずにそのまま会議室へ戻ったのと対照的だ。それに、同じ祈祷師なのに、今危険に晒されているというのに、追いかけようともしなかった。


「アルナ……。追いかけなくていいのか?」

「それよりも、この食事を食べておかねばならないでしょう。向かった場所は会議室だと分かっているのですから、焦ることではありません。それに、アルファスの予想ではこの中に犯人がいるのでしょう? 三人以上いるのならば、ここで人を殺す場合二人とも殺すしかありませんよ。そして、ナユシー単体を殺すこともまた、この部屋を出ること以外では対応できないでしょうから」


 ……そういわれてみると、それもそうだった。確かにここからでなければナユシーのいる会議室へと向かうことはできない。となると、今この状態でいたほうが逆に安心である、というアルナの持論は間違っていないのかもしれない。


「まあ、慌てる話ではありませんよ。確かに祈祷師が二人死んでしまいましたが……。それは私たちに課せられた運命の一つであると受け入れるしかありません。どこまでこれが続くかは分かりませんが、祈祷師にも敵が多いことは重々承知しています。当然ですよ、神から確定された予言……『思し召し』をいただくのですから」


 その表情はどこか達観しているようにも見えた。

 僕はその時気づいていればよかった。アルナの決意に。

 けれど、その時の僕はただアルナの顔を見つめることだけしかできなかった。



 ◇◇◇



 会議室に戻ると、鍵は閉まっていなかった。

 別に閉める必要は無いので、そこで疑問を抱くのは少々おかしいのかもしれないけれど、しかしながら実際のところ、あれほど不安がっていた彼女が扉の鍵を閉めておかないのも何か不自然だった。

 そして、部屋に入った僕たちはすぐに見つけることとなる。

 口から血を吐き出して倒れているナユシーの姿を。


「ナユシー……! あなたまでも、やられてしまったというの……!」


 アルナはゆっくりとナユシーの身体に近づき、そして彼女の身体に触れた。

 おそらく彼女の身体はもう脈が通っていなかったのだろう。僕のほうを向いて、ゆっくり首を横に振った。


「それにしても、まさかナユシーさんまで……! でも、私たち全員あのキッチンにいたはずでした。だから、誰にも殺害を実行することはできないはず……!」


 エレンの言葉を聞いていた、ちょうどその時だった。

 ナユシーのそばに何か紙切れが落ちていた。

 それが答紙であることに気づくまで、そう時間はかからなかった。


「……それは?」


 そしてやはりいち早く気づいたのはアルナだった。やっぱりアルナはよく人間を観察していると思う。

 感心している場合ではないか。まずはこの答紙をチェックしないといけない。そう思って、僕はその畳まれていた答紙を広げた。

 そしてそこに書かれていた内容を見て―ー僕は絶句した。

 そしてそれは、そのあとに見ることになるエレンやアルナが見ても絶句するほどの内容だった。


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