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死の花が咲いた日  作者: 巫 夏希
三章 会議
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第15話 十字架

 次に僕の意識が戻ったのは、一瞬のようにも永遠のようにも感じられた時間を過ごした後だった。


「……不味い。眠ってしまったか? まさか。だとすれば最悪だぞ。一度自分で監視すると提起したくせにこんなことになってしまって……!」


 僕は慌てて小窓に視線を移す。どうやらまだほかの祈祷師は動いていないように見える。となると、それほど時間が過ぎていないということだ。現に、そのあとに時計を見て確認しておおよそ三十分くらいしか経過していない、ということを確認している。

 三十分であるとしても、眠ってしまった事実には変わりない。何も起きていなければいいのだが――そう思って僕は小窓から祈祷師たちが居る部屋を確認していく。

 アルナ、ナユシーは居る。……いや、待てよ。ミルシアが居ない。

 彼女はいったいどこへ消えてしまったのか。

 そう思って僕はあたりを見渡す。



 ――そして、漸く僕は彼女の姿を捉えることが出来た。



 彼女は壁に寄りかかっていた。どうしてそのようなことをしているのだろうか。祈祷師は祈祷をしている間は誰もかれも同じポーズをとっていると聞いたことがある。となると、今のミルシアは祈祷をしていないという認識になるだろう。

 彼女が一体何をしているのか、気になって小窓に顔を近づける。

 そうして、月の光が――天井の窓を通して、部屋を明るく照らし出す。

 そこに映し出されていたのは、磔になっていたミルシアの身体だった。

 項垂れている顔、十字架のようなものに縛られているのか、身体もその態勢で固定されている。

 そうして、彼女の身体の中心には、巨大な杭が打ち付けられていた。

 まるで、罪人であるかのように、彼女は部屋の隅に十字架とともに打ち付けられていた。


「……なんてことだ!」


 僕は大急ぎでキッチンを後にして鍵束を手に取ると、エレンを叩き起こしに行く。

 エレンの部屋の扉をドンドンドンと強くノックする。少し合間を空けて、ゆっくりと扉は開かれた。眠たそうなエレンの表情を見たところで、僕は出来る限り冷静になって報告する。


「どうしましたか、こんな夜更けに……」

「そんなことを言っていられる問題でもなくなっている。だから、エレンの部屋にやってきたということだ。着替えたら急いで祈祷の間へ向かってくれ。報告は以上、それじゃ」


 踵を返し、急いで祈祷の間へ向かおうとする僕の手をエレンが掴んだ。


「ちょっと待ってください。……いったい何が起きたのか、さわりだけでも教えていただけないですか?」

「……ミルシアが死んだ。それも、磔になった状態になっている。確か、祈祷師は祈祷を行っている間は、深度レベルが上がれば上がるほど周りの意識を感知しづらくなるんだったな? だから、今はまだほかの祈祷師が気付いていないかもしれない。だが、気付くまえにある程度整理しておかねばならないだろう? 犯人の目星がつく何か証拠もあればいいのだが……」


 それを聞いたエレンは目を丸くして、何も言えなかったようだったが――少しして頷くと、そこで僕の手を離した。


「解りました。私も少ししたら追いかけます。先ずは部屋へ向かって下さい。……どうか、お気をつけて」


 エレンの言葉を受け取って、僕は祈祷の間へと向かうことにするのだった。



 ◇◇◇



 扉を開けると、血の匂いがほのかに香ってきた。

 この状況でよく祈祷を続けられるものだと感心してしまったが、問題はそこではない。

 ミルシアが磔にされている十字架に近づき、彼女の手首に触れる。脈は無かった。ここまでは想像通りと言える。

 彼女の身体は縄で固定されていた。それを外そうとしたが――まずは状況の確認をしたほうがいいだろう。

 部屋の中心にある円状のマット。その淵にアルナとナユシーが向かい合って祈祷のポーズ――頭を下げていた。

 きっと今も彼女たちはまだ祈祷の真っ最中。神に思し召しを聞いている最中なのだろう。

 足跡も無ければ、何かいたような形跡もない。はっきり言って、密室と言っても過言ではなかった。

 しかし、アルナとナユシー、その二人が居る。祈祷師という存在が、その部屋にはいた。

 でも、それが可能性として残っているならば、祈祷師が祈祷師を殺した――ということになる。動機は判明していないが、どうして殺したのか? ということに繋がることは間違いなかった。

 それについては彼女たちの『祈祷』が終わってから、話を聞くしかないだろう。僕はそう思って、アルミアを十字架から外すべく両手両足にある縄を外しに取り掛かるのだった。





 そうして、祈祷師二人を死に追いやった地獄のような一日目は幕を下ろすのだった。


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