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死の花が咲いた日  作者: 巫 夏希
三章 会議
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第14話 倦怠感

「……じゃあ、監視で問題ないですね」


 僕は確認するように、アルナとエレンに訊ねる。

 アルナはうん、と小さく言った。そうしてエレンに目線を向けるとゆっくりと頷いた。

 二人の了承は得られた。正確に言えば、エレンと祈祷師サイドの確認、と言えばいいだろうか。いずれにせよ、この両サイドの確認が得られなければ勝手に監視することすら出来ない。正直言ってその密室はどうなのか、という話だが恐らくそれでずっと問題は起きていないのだろう。厄介な話だ。

 了解を得られたのなら話は早い。夕食を小窓経由で提供した後、小窓から中の部屋を監視することとした。

 部屋の中身は小窓からも十分見えるのでそこについては何の問題も無い。ただ、強いて言えばこの監視の交代要員が誰も居ない、ということだ。エレンにお願いすると食事を作ってくれる人が誰も居なくなってしまう。だから今日に関しては取り敢えず僕が夜通し監視するしかない。そう思うしか無かった。


「……徹夜は身体に堪えますよ」


 そう言って、プレートを差し出したのはエレンだった。

 プレートには皿が二枚載せられており、その皿にはそれぞれパンとおかずが載せられていた。

 それを見て、僕は漸くそういえばお腹が空いていたことを思い出した。


「あれから六時間も経過しています。……おそらく今祈祷師の方々も深い祈祷を行っている最中でしょう。祈祷の深度が大きくなればなるほど、外から話しかけても無駄です。まあ、確かにそれはほかの人から見れば、『何をしてもいいような状態』と言えるのでしょうが」

「……エレン、言っていいことと悪いことがあるのでは」


 僕はエレンを(さいな)める。流石にこの空間で僕とエレンしかいないとはいえ、言っていいことと悪いことがある。いつどこで誰がそれを聞いているか解ったものではない。この小窓と同じようにどこかに風穴があいているとか、天井から誰かが耳を澄ませているとか、そんなことだって十分に考えられるのだから。

 僕の注意を受けたエレンは俯くと、頭を下げる。


「そうですね、言葉が過ぎました。以後、気を付けます」


 エレンは素直に頭を下げ、そのままキッチンの向こうにあるテーブルへと向かった。

 僕はエレンが運んでくれた料理を見てみることにした。一瞬、目を離すことになるがずっと目を離すわけでもないし、耳で聞くこともできる。だから問題ないと判断した。

 料理はハンバーグのようだった。ハンバーグだけではなく野菜も入っている。彩りのバランスも特に問題無さそうだ。ちなみに先ほど祈祷師に出す食事も僕が毒味を行っている。それはそういう決まりになっているということもあるが、エレンが進んでそれを僕にお願いしてきた、ということから行っただけに過ぎなかった。

 フォークとナイフを使ってハンバーグを切る。すると断面から肉汁が溢れ出し、とても美味しそうだということが解る。肉汁とは肉のエキスということだ。それ即ち、それほどにエキスが詰まっているということと同義だ。

 ソースは別皿についているので、フォークでハンバーグを刺し、ソースにつけて口に入れる。噛んでいくたびに、先程あんなに溢れた肉汁がそのまま染み出てくる。

 ハンバーグの余韻を口に残したまま、パンを一口大に千切って口の中に。こういう肉にはパンが合う。それによくパンが焼き上がっていて、口の中に香ばしい香りが充満してとても美味しい。


「うん、美味しい。……これは、さっきのメニューとは違うね。まさか、僕のために?」

「ええ、まあ。さっきと同じメニューじゃ飽きが来るだろうと思いましたので。さっきのメニューのあまりものですが」

「いやいや、全然大丈夫ですよ。……申し訳ないな、夜食まで作ってもらって。取り敢えず、もう眠ってしまっていいですよ。あとは僕が朝まで監視するので」

「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて。食べ終わったら、お皿は洗ってくださいね。……まあ、言わなくても解っていらっしゃるとは思いますが」


 そうしてエレンは別室にある寝室へと向かっていった。ちなみに寝室は一緒の部屋となっているので、僕とエレンが一緒に寝ることはしない。やっぱり女性と一緒に寝るというのは、若干抵抗があるからだ。

 だから元から別の部屋で寝るつもりだったので、この監視は寧ろ好都合だった。それを言ったときは、若干トーンを落としてそうですか、と言われただけだったが、彼女にもそれなりに守るという思いを持っていただきたいものだ。普通に考えて、何が起きるか解らないという可能性を徹底的に排除しようと思うのではないだろうか? 女心はわからない。

 眼を擦り、小窓から景色を見つめる。何も変わらない景色だ。円状に祈祷師が床に座っており、ただじっと俯いている。もちろん、ただ俯いているのではなく祈祷をしているのであって、それは立派な間違いあるいは認識の違いであるのだけれど。


「……眠いな……」


 天窓から月明かりが出ている。どうやら夜も更けてきたようだ。今日も朝早くから鍛錬をしてきたし、いろいろと想定外のことが起きていたので、とても疲れていた。食事をとったこともこの眠気に加担しているのかもしれない。



 ――と思った矢先、強烈な眠気に襲われた。



 まるで後頭部をガツンと殴られたような、そんな感じだった。

 眠い。だが、寝てはならない。監視を続けなければ。そう思いながら、僕はエレンが出してくれた冷めきったコーヒーを飲み干す。

 ああ、眠い。頭がクラクラする。コーヒーだって即効性があるわけでは……ない……。とても眠い……。



 ……恥ずかしい話だが、ここで僕の意識は途絶えてしまった。




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