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眠り姫と現実

 姫と夢の同棲生活をし始めて、今日で5日目だ。あと少しで新学期が始まる。夜だけじゃなく、十分仲良くなれて、これってまじで脈ありじゃない? ってなるくらいになった。


「おやすみ」

「おやすみなさーい」


 と挨拶してからぺろぺろするのも、もはや日課である。段々エスカレートしてる感がなくはないけど。

 私は慣れた感じで姫の頬にキスをしてから、そっと背中を撫でてから今回で二回目のパイタッチを試みる。


「ん……」


 僅かに反応するのはいつものことだ。スパイスになりはしても、今更危機を感じることもない。昨日は表面に手をあててふにふにしたところで幸せになったけど、今日は最初からふにふにさせてもらう。


「はぁはぁ、姫、可愛いよぅ」


 指先に伝わる、何とも言えない柔らかさ。指先が姫の体に沈んでると言うよくわからない背徳感。たまりませんなぁ。

 そのままそっと手のひらもあてがう。押しあてて、そっと手をすぼめるようにして揉む。き、気持ちいい! 私と同じものとは思えない!


 姫の胸を揉んでいると、自然と反応してきて、それを服越しに感じてるだけじゃもう我慢できない。

 幸いと言うべきか、姫は前開きでボタン式のパジャマだ。プリティである。ともかく、要はこのまま簡単に前をはずして姫のおっぱいとこんにちはできるのである。最高だね!


 息を荒げつつも、さすがに脱衣状態で起きられたら言い訳しようがない。まずはそっと姫の抱きつく腕をゆるめて、肘をたてて起き上がる。これで少し空間ができたので、動いても姫にまで動きが行くわけではない。

 そして慎重に片手で一つずつボタンを外していく。完璧主義者な私は、半端に途中まで外してポロリは好みではないので、全てのボタンを外す。

 う、見る前から緊張と興奮で鼻血でそう。


「……、はぁ」


 唾をのみこみ、何とか自分を落ち着けてから、そっと服をめくった。

 

「っ……姫……綺麗すぎるよ」


 レースカーテンごしの月明かりだけの暗さでも、つんと可愛いピンクなことがわかる。見た瞬間、頭の中がはち切れて、私は我慢できずに、そのまま顔を寄せてそっと口づけた。


「! ん、ぅ」


 姫が声を出したけど、今までの感じから起きないだろうし無視する。て言うかそこまで配慮する余裕がない。

 ほのかにミルクの香りがする気がする。ぺろぺろと舐めると甘くてキャンディを舐めてる気にさえなるくらい美味しい。


「……ん、ん」


 断続的に声をあげる姫に、寝ながらでも感じてくれてるのかと嬉しすぎて余計ぺろぺろに力が入る。たまらん! この声だけで脳天までしびれそう。


「んん」

「!? ひ、姫!?」


 このままいっちゃえ爆走モードだったけど、突然胸に何かがあたってきてびくっとして、はっと見ると姫の手が私の胸を押し返すような形であたっていて、まるで揉むように動きだした。


「……」

「あ、ちょっ、姫……ね、寝てるよね?」


 名前を呼んでも反応がなくて、手だけ動いている。やり過ぎな私に無意識に体を押し返そうとしてるだけなのかも知れないけど、そんな、姫の方からそんなことされたら、気持ちよすぎるよぅ。


「ひ、姫……気持ちいいよぅ。ああ、もう、姫、姫ぇ」


 気持ちいいけど、切ないよぅ。姫の手を潰さないように距離があるままだから、いつもみたいにぎゅってしてすりすりできないと、幸せの頂きにたどりつけない。


「姫、ひわっ!?」


 もどかしくて身をよじっていると、突然姫の左足が私のお腹に突き刺さった。い、痛い。こ、これは姫からの天罰か。やはり天使……!


「はぁ、姫、おやすひいっ!? え、ちょっ」


 痛みでムラムラが引いたので、今日はもう寝ようかなと思って姫の手をつかんでやめさせよう、としたんだけど、それより早く姫の膝が下がり、それと同時に姫がまくらに顔をうずめるように上半身を斜めにして膝をより私に向かって付きだしてきた。

 そしてどうなったかと言うと、ちょうど私の股のすぐ下に姫の膝先が入ってきているのだ。これはまずい。


 断然直接的過ぎる刺激に、一気にピークまで興奮が振りきれた。いまだに胸をさわられているし、こんなので興奮しないわけがない!


「姫っ、姫! 愛してるよぅ!」


 私は滑稽にもゆさゆさと自分の体を揺すって、姫の膝にすりつけて、今まで以上の幸せに包まれた。寝た。








「……んー、ひめぇー……むにゃむにゃ」


 完全に眠ってしまったのを確認してから、私は目を開ける。闇の中に浮かび上がる、呑気なさやちゃんの寝顔。


「ふふっ」


 思わず笑ってしまう。本当に、馬鹿だね。

 あれで私に気づかれていないつもりなのだから、笑ってしまうに決まってる。


 さやちゃんは、私にとって現実だった。高校の入学式の帰り、交通事故にあった。両親は死に、私も死の縁をさ迷った末に、私は眠れなくなった。

 眠ろうとすると、決まって事故の瞬間が瞼の裏に浮かんできて、とてもじゃないけど眠れない。睡眠薬をのんでもあまり効果はなくて、いつも気絶で仮眠をとるくらいしかできなかった。


 事故現場を見るともうたまらなくなるから、引っ越して学校を変えた。お陰で激しい情緒不安定になることはなくなったけど、やっぱり熟睡することはなかった。

 もはや眠すぎて、眠りたいのに、眠りにつくことができない。うとうとしては悪夢に飛び起きる。もはや寝ているのか、起きているのか。自分が今何をしているのか。現実が夢うつつで、死んでるのか生きてるのかさえ曖昧になった。殆ど反射と義務感で生きてるだけだ。


 そんな感じなので、当然誰かとコミュニケーションを満足にとれるはずもない。引っ越し先では変に扱われたくないから、事故のことは言わなかったけど、多分そんなの関係なく、変に扱われてるんだろうと思う。

 思うけど、それを認識できるほどはっきり起きていられない。眠い。


 そう言う状態だったのが、あるときから毎日話しかけてくる存在がいることに、ある日急に気づいた。今日がいつなのか、いつ日付が変わってるのかわからなくて、アラームと予定表に従うだけだった日々だった。

 だけどそれに気づいた瞬間から、その人を認識しだしてから、私はその時だけは僅かにだけど、比較的意識が起き出した。それでも夢うつつですぐに忘れる私に怒らず、ずっと話しかけてくる。

 それは私の白黒の日々の中、唯一のカラーな現実だった。私の1日の基準は狭山さんだった。


 それだけでも、私にとっては救いだった。永遠の地獄のような夢うつつな日々から、年月を数えられるようになったのだ。今、夢ではなく生きているのだと、自覚できるようになった。

 苦しくて辛くても、私は生きたいのだと自覚した。生きていこうと、思えた。彼女は私の現実だ。


 そして、ある日、奇跡が起こった。


「すみませーん、隣に引っ越してきた、あえ!? ひ、姫路さん!? うっそ! お隣!?」


 奇跡が隣に引っ越してきた。そして展開について行けずにまごつく私に構わず、私の現実は家に入ってきて、どんどん騒いで、私の部屋に色をつけて、現実を広げていく。

 そして、気づいたら、私は現実に抱き締められた状態で目を覚ました。そう、覚ました。私は眠っていたのだ。自覚すらできないほど、ぐっすりと。朝の七時を過ぎていて、少なくとも五時間は寝ている。

 悪夢で飛び起きた不快感はない。清々しい朝を迎えた、ひどく懐かしい気持ちよさ。


 奇跡だった。彼女がいれば、私は眠れるのだ。涙が溢れた。よだれを口の端からたらしながら眠るさやちゃんに、気づいたらキスをしていた。そのよだれをなめて綺麗にして、私からもぎゅっと抱き締める。


 ああ、この人が好きだ。この人の為に生きたい、と思った。


 抱き締めて、ドキドキして、だけど同時に途方もなくほっとする。安堵の感情は何年ぶりか。そのまま私は幸せな気持ちで、二度寝した。


「姫! 愛してるよぅ!」


 それからお願いして、同棲できることになった。病気の為というのは嘘ではないけど、好きだからと言う下心もなくはなくて、少し申し訳ないけど、了承してもらえた。

 そして夜、また抱きついてキスをしてから寝ようと思って、とりあえず寝たフリをしていたら、予想外なことが起きた。


 好きとか、愛してるとか、嘘みたいなことを言ってさやちゃんから抱きついてきたのだ。現実だと思ってたけど、実は長い夢なのかと本気で疑った。

 だけど本当なのだ。こんなに幸せなことはない。だけど、言い出すタイミングを失っていて、どうしようか困る。


 夜な夜な悪戯されることも、すごく気持ちよくて、癖になっちゃってる。もうどうしようもない。もう自然に気づかれようと思って、今日なんてこっちから動いたのに、まだ寝てると思うなんて。

 本当に、可愛い人だ。


「さやちゃん、大好き。愛してるよ」


 耳元でそっと囁くと、さやちゃんはえへへと寝ながら笑う。その笑顔を見てるとドキドキして仕方なくて、そっと、もう一度さやちゃんの胸元に手を伸ばして、さやちゃんに貸してるパジャマのボタンを外していく。


「だから、次は私の番ね」


 毎日の悪戯が、順番制だと、さやちゃんはいつ気づくのだろう。その時のことを思うと、ぞくぞくして、息が熱くなる。愛してるよ、さやちゃん。絶対に、離さないから。



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