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眠り姫と呼び方

 姫のことが好きすぎて、基本的に話しかける時はテンションが高くなる。しかも今までほぼ姫は話さない。だから話を聞く必要がなかった。なので実は、姫が眠れて話せるようになってからもあんまり話をちゃんと聞けてなかった。

 だから最初は姫が不眠症って聞いても、だからいつも学校で姫が授業中うとうとしてばかりなのが、不眠症の末眠くて仕方ないけどやっぱり眠れないからのうとうとだと言うことも、先生にすら話しかけられても無視するのも、常に眠くてうとうとしてる結果と言うことも、よくわかってなかった。


 まあどういうことかと言うと、睡眠ちゃんととった姫は普通に喋るし笑うし可愛い!


「狭山さん、美味しい?」

「美味しい! 死ぬほど美味しい! むしろ死ぬよ!」

「いや、普通にして」


 昨日も食べたけど、姫の料理は美味しい。姫がつくったと思うとなおさら美味しい。しかも今日は朝から笑顔とお喋りつきで、最高のシチュエーション。めちゃくちゃ幸せ。

 朝御飯を食べて、普通状態らしい、感情があってお話してくれる姫にも慣れてきた。今までのクールなのも最高に素敵だったけど、普通に可愛いのも素敵だ。どっちの姫も可愛いし、好きだー!


「さて、じゃあ洗い物くらいするよ」

「あ、いいよいいよ。家事は全部するよ。そう言う約束でしょ?」

「えー、いや、さすがに何もしないのは申し訳ないよ」

「ううん。本当に。起きてて眠くない状態なんて、ずっとなかったから。清々しい気分なの。今なら何十人前のお世話でも、前よりずっと楽だもの。それだけ助かってるの。ありがたいの。だから、やらせて?」

「そ、そこまで言うなら」


 にこっと微笑んだ姫路さんは私の食器ももって立ち上がる。申し訳ないけど、その気持ちを踏みにじるのもあれだよね。


「でも姫路さん、今までそんなに眠かったんだね。気づけなくてごめんね。あ、て言うか私、めちゃくちゃ構わず話しかけてたし…………て言うか、あまつさえ無理やり家にあがりこんでたよね。ご、ごめんね! 眠かったよね!?」


 基本ノーリアクションだし、何しても悪反応ないから、無言ながらも受け入れてくれてると思ってめっちゃぐいぐい行ってた! ただ眠いからリアクションしてないだけなら、内心めっちゃうざがってた可能性も……あわわ。


 慌てすぎて立ち上がるのに失敗して転がりながらキッチンの姫路さんに近づく私に、姫路さんは食器を置いてから私の頭上にしゃがんだ。


「うううん。全然。むしろ、救われてた。いつでも眠くて、世界が曖昧で、でも狭山さんだけは毎日話しかけてくれたね。ろくに反応できなかったけど、でも、嬉しかったよ。今、側にいてくれて、本当に嬉しいの」

「! ひ、姫路さん!」


 ぱっと顔をあげると、まぶしい膝小僧の向こうにはにかむように微笑む可愛すぎる姫路さん。


「ねぇ、今更だけど、あなたのこと、友達だと思ってもいい?」

「もちろん!」

「よかった……ねぇ、名前で呼んでもいい? 友達にはなんて呼ばれてるの?」


 なぬ!? これはチャンス! 好きな呼び方をしてもらえるぞ! 普段は狭山透(さやまとおる)で、透が透けるとも読めることからサヤスケって呼ばれてるけど、そんな可愛くないのは却下だ!

「えっと、じゃあ、さ、さやちゃん、とか?」


 ちゃん付けに憧れてたんだよね! 昔から透で女らしくない響きだからちゃん付けされたことないし!


「うん、わかった。じゃあ、さやちゃんね」

「うん! えっと、じゃあそのー、私も、姫って呼んだりとかしても、いいかな?」

「いいよ。えへへ。何だか、照れるね」


 うわー! 可愛い! 姫可愛い! そしてどさくさに紛れて渾名呼びも通したぞ! やったね!


「姫……」

「ふふ、なぁに?」

「呼んだだけです! 可愛い!」


 おっと、思わず心の声がもれた。ぱっと口元を押さえて、恐る恐る姫の様子を伺うと、僅かに頬を染めて視線をそらしてから、姫はまたはにかんで私に微笑む。


「さやちゃんも、可愛いよ」


 かーっ! なんすか! 脈ありですか! 可愛すぎる! まさにデレた! デレデレ姫最高! 天使! 女神!


「さ、じゃあ片付けたら、買い物行かない? この辺りの案内するよ」

「いえっさー!」

「ん、じゃあテレビでも見てて待っててね」


 あー、可愛い。愛しい。なんなの、この新妻感。私もしかして死ぬの? 未来の走馬灯なの? 未来日記なの?









「ここが一番近いスーパー」


 近い順にコンビニ、最寄り駅、スーパーと案内される。最寄り駅がまじで近い。いや確かに近いから選んだけど。二人であるいたら一瞬だわ。そこからまた少し歩いたらスーパー。

 ふむ。前の家はスーパーがすぐ近所でコンビニの方が遠くて、駅までは自転車だった。通学には自転車だったけど、買い物は便利だったんだよね。さすがに寝巻きで行ける距離ではないか。


 まあ、コンビニ近いし、なにより姫とこんな関係になれた以上これ以上の物件なんてないけど。ほんと、よく考えなくてもたまたま隣に天使が住んでるとか奇跡だよね。


「姫は普段からスーパー使うの?」

「ん……実は、あんまり」


 話を聞くと、どうもいつも眠いから基本あんまり食べないし、コンビニ弁当ばかりらしい。

 とここで疑問。そのわりに料理上手だよね。キッチン用具も揃ってた。て言うか不眠症でいつも眠いって、どう言う理屈? 眠れないのに眠いってわけわかんなくない?

 学校では授業中見るたびにいつもうとうとしては、はっと起きるを繰り返してるけど、夜寝れないなら別に昼寝ればいいのに。テストはいつも一番で頭いいんだし。

 て言うか一人暮らしなんだ? いつから不眠症なの? ずっと眠いって結構危ないんじゃない? それで一人暮らしってご両親はなにも言わないの?


 とか、まあさすがに疑問がなくはない。でもそこはやっぱ、踏みこみすぎだよね。友達で同棲してるっていっても、姫からしたら他に選択肢がない人選だ。たまたま選ぶしかなかった人員だから、正式に友達になれた。

 それまで友達未満でしかなかった私が、そこまで突っ込んだことを聞けるはずがない。疑問は飲み込んで、へー、ところでと話を変える。


「姫って好きな食べ物なに?」

「えっ? え、えっと……パスタ、かな」

「うーわ、チョイスがおしゃれ」

「ええ? 普通だと思うけど。さやちゃんは?」

「カレー」

「あ、じゃあ今日カレーにしよっか」

「まじで! やったー」


 そんな感じで、買い物しつつぶらぶらした。









 そしてまた、夜がやって来た。


「じゃあ、おやすみ」


 そう言って適正な距離をあけて、人一人くらい入れるくらいの距離をあけて挨拶した姫は、案の定と言うかすぐに寝息をたてたかと思うと自然に転がってきて、また私に抱きついた。

 予想してたけども! でもドキドキしないかと言うとそれは全く別なわけで! て言うか昨日のことがあるからドキドキ通り越してムラムラする!


 多分だけど、不眠症だと言う姫は人肌に触れることで眠れてるんじゃないかと思う。そう言う気持ちは私もわかるし。でもだから、姫は寝てから無意識に私に抱きついてきてるんじゃないかと思う。

 そう言う感じなのかな。そもそも不眠症とか、何気に重い話だよね。普通は同情したり、可哀想が先走るんだと思う。思うけど、めっちゃムラムラする私は最低だと思う。


 いやだって、言い訳させて。好きな人に無防備に抱きつかれて、何してもいいとかムラムラしないわけがない。いや何してもいいとか誰もそんなこと言ってないけど。


「姫……姫、寝ちゃったの?」

「……」


 う、うう……。体が、体が勝手に……!


 駄目だー、姫はやっと眠れてる状態なんだぞ。ちょっとでも睡眠を邪魔するようなことは、て言うかそもそも、寝てるとこ襲うとか、いや襲うは言い過ぎ。そこまでしてない。でも寝てるとこイタズラするとか、犯罪だからね!

 と思うのに、気づいたら右手は姫の髪を撫でながら鼻先を姫の頭に突っ込む。あー、いいかほり。


「姫……大好き」


 ぼそっと呟く。寝てるのはわかってるけど、告白するのはやっぱりドキドキする。現状めちゃくちゃだし、こんな状態で告白とかしたら、どう考えても弱味をたてにしてるとしか思えないから、ますます告白からは遠ざかってるわけだし、ちょっとくらいいいよね!


「はぁ……姫ぇ」


 髪から手をおろして、姫の柔らかほっぺたさわさわ撫でる。おー、なんてもちもちしてるんだろう。そっと頬擦りしてみる。なんて気持ちいい。


 昨日結構好き勝手やっても全然起きなかったし、今日は最初から遠慮なしだ。はー、すべすべ。これ、唇をあてたらどんな感じだろう。


「…………く、口じゃなきゃ、いいよね? ね、姫、いいよね?」


 うん、いいよ。と都合のいい脳内返事をした気がしないでもないでもない。オーケーと言うことにして、そーっと顔を回して、唇を姫の頬にあてた。


 お、おー……


「ちゅる」


 あ、やべ。舐めちゃった。すごい、すごい柔らかくて、もちもちしてて、あっまい! めっちゃ甘いぃぃ!

 あああああ、やばいやばいやばい。軽くほっぺちゅーのつもりが、興奮しすぎたほっぺたぺろぺろとか変態度が全く違う。でもとめられない。


「んぅぅ」

「!?」


 え!? まさか起きた!?


「んー……」


 すわ! 起きたか! とびびって舌を出したままかたまった私だったけど、姫はんぅんぅむにゃむにゃ言いながらぐいと私に向かってさらに寝返りをうつだけだった。私にぶつかるようにしつつ、左肩に自分の左肩をのせるような形になってまた静かになった。

 セーフ。セーフセーフ。でもこれ、図らずも耳が私に向けられた。いつもは髪に隠れて見えない耳。ちょっと福耳気味だ。知らなかった。

 人差し指でちょっとつついてみる。ぷにっとしてる。可愛い。耳まで可愛いとか、さすが天使は神に愛されてる。驚いてイヤらしい気持ちは収まったので、まっさらな綺麗な気持ちで、そっと姫の耳たぶをお舐め遊ばさせていただくでそうろう。ぺろぺろ。


「ん……」


 かすかに声を出した姫だけどちょっとなのでスルー。むしろ寝てても反応しちゃうとかムラ、もといときめく。調子にのって耳の穴までなめなめする。興奮がピークを迎えた私は姫を抱きしめて、昨日と同じように幸せな夜を迎えたのだった。



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