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【二期から結末分岐】お妃様シリーズ

第1皇子は婿ぐ

作者: 滝革患

「ですから…本来は第一皇子であるスヴィーズ様がふさわしいのです!!」


城内の重役達は第一皇子の成人を機に、次代皇をどの皇子が座すべきかを議論していた。


「ですが第1皇子であるスヴィーズは体が丈夫ではありません…王位を継ぐ事は難しいでしょう」

パレッティナ皇・トマーズの妃・パスティーカは政に携わる女傑、冷静にその場に相応しい判断を取る。


「直血の第一皇子が継ぐ事は通例だが、体がお弱いのではな…」

「ならば政略結婚しかあるまい」

長く黒い髭を生やした男は自慢の髭をなでながらニヤリと笑う。


「皇子が他国に婿入りなど異例ですぞ」

発展している他国から王女が嫁いでくることはあっても他国へ皇子が婿入りする事は古風なパレッティナでは例がない。

城内は多民族でありながらも保守的である。

一見アンバランスに見えて確固たる構えなのだ。


「しかし前者か後者なら後者が国の為にはよいと思うが…」

パレッティナの皇であり父でもあるトマーズは長子のスヴィーズを憐れんだ。


「兄上!やはり兄上が皇位を継承なさるのだろう?」

カラーズは病床のスヴィーズに、無邪気にたずねた。


「フフ…世迷い言をいうものではないよカラーズ私が継ぐ頃には生きていないだろうし…」


スヴィーズは病であっても明るく振る舞っていたのだがこのところ、成人を迎える頃には不安や焦りなのか少しずつ暗くなっていた。


「スヴィーズ兄上が仮に生き長らえてもほんの短期間、など城や国民への迷惑もいいところだと思う」


テスタードは第四皇子、妾の子とされており皇位継承とは二重に遠い。

それを悲観して卑屈めいた性格になった。


しかしいくら事実であってもオブラートに包めと、カラーズはテスタードを睨みつけた。


「私はたぶん政略として他国の王女の元へ行くだろう」

「兄上の妻となる王女はとても幸せ者でしょうな!」

明るく振る舞うカラーズとは対照的にスヴィーズは諦めていた。


本来ならば皇になれる筈の恵まれた立場である第一皇子だが、己の肉体のせいで叶わないから。

容姿や身なり、性格とは違って治らない病は手の施しようがなく、努力や気力で対処できるものでもない。


「不健康な皇子を選ぶ国などあるまいに…」

スヴィーズは地に足の着かない感覚に、ただ笑うしかなかった。

――

身なりのよい令嬢はソファに腰掛けながら本を読んでいる。

「イレイア~」

本を閉じてから侍女のイレイアを呼んだ。

「はーいお嬢様」

イレイアと呼ばれた侍女は貧しい家系に生まれた長女である。


「たまには休まないと~体に悪いわよ」

令嬢はイレイアにジャムのついたスコーンを手渡した。


「ありがとうございます!でも元気だけが取り柄ですから」

病気の両親を支えながら小さい弟や妹を養っていく為に屋敷で令嬢の世話をしている。


“その元気をわけてほしいわ”令嬢は嫌味なく言う。

それに対しイレイアは照れたように縮こまった。


「そういえば聞いた?近々皇子様が王女様の婿入りなさるんですってよ」

「ええ私も聞きましたその国では珍しい事だそうで」

正妃の子が王女だけだとして、どうても妾をとらないという限り王子は産まれるものだ。


だから余程の事がない限り王子が婿入りすることはほとんどないのではないか、偶然にもこの国には王女が一人いる。

しかし王女の誕生の時に王妃が亡くなり国王には妾はいない。

つまり王女は他国の王子に嫁げないので婿入りしてもらうしかないのだった。


「このフラワー国の王女様は花のように可愛いって聞くけれど、婿いでくる皇子はどんな方かしら」

「男性も婿ぐ(とつ)ぐって言うんですかお嬢様?」

イレイアはほんの些細な疑問を抱いた。


「さあ?」

「まあ、物事には対義語が必要ですからね」

善人には悪人、健康には不健康、幸せには不幸せという対がある。

嫁には婿があるのだから嫁ぐにも婿ぐという言葉があってもいいだろう。


「まあ私達には関係ない話だわ」

「それもそうですね」

イレイアは雲の上の話だと苦笑した。

==

「ああ…おいたわしや…」

「あんまりでございますわ姫様ともあろうお方にはとても逞しい殿方だとわたくしは信じてまいりましたのに…」

「まったくだわ!!私は嫌よ!こんな不等な政略があってたまるものですか!」

「ええ!そうですとも!!」

「余程病弱な第一皇子の扱いにこまったのね」

「だからと言って姫様に押し付けるだなんて」

===

「殿下!」

眠っていたスヴィーズは付き人に起こされる。


「あの…どうかなさいましたか?」

まだ着いてはいないだろうに何事だろう。

訝しげにスヴィーズが外を見ると周りを不振な輩が取り囲んでいるのが見えた。


「もうしわけありません!」

御者は馬車を捨て、そそくさと逃げ出した。


「あれは…」

少女は通りがかりに襲われている馬車を見る。

「危険ですからお嬢様はこちらに!」

「ちょっと危ないわよ…!」

令嬢の制止を振り払うと、少女は走り出した。


「さて、金目のモンでも…」

「…やめなさい!!」

馬車を取り囲んでいる粗野な男達を威勢よく怒鳴る。


「…なんて素敵な方だ」

スヴィーズは馬車の中から勇ましい少女を眺めていた。

「殿下何か…?」

「いいえ何も」

―――

「なんだテメー」

「ナメてっと売り飛ばすぞ!」

少女は男達の威圧に怯まずきつく睨みつけた。


「そのくらいにしてはもらえないでしょうか?」

「なんだぁ?優男が偉そうに出てきやがって」

馬車の仲から優雅で儚げな青年が現れ、少女はあっけに取られた。


「きさまらこのお方はパレッティナ第一皇子スヴィーズ殿下なるぞ!!」

スヴィーズの付き人はどうだと言わんばかりに振る舞う。


「どこの金持ちかと思ってたら皇子かよ!?あの病弱で皇位を告げないっつー可哀想な皇子な」

「ええ、私は厄介払いされてしまいました」

スヴィーズは笑顔で答える。


「貴方はパレッティナの民ではないですね…少し安心しました」

パレッティナではスヴィーズが病弱であることは隠されており、民が知ることはない。

「あ?」

この男達は別の国の者だと判断した。


「最後に、自国は私がおらずとも平和であると知れました」

スヴィーズは自身の境遇を悲観せずおだやかに微笑んでいる。


「けっシメっぽい話しやがって」

男達は結局何もとらずに帰っていった。


「…あのさっきは割り込めなかったんですがもしかして本物の皇子様でいらっしゃいます?」

少女は恐る恐る訪ねた。


「ええ、フラワー国の第二王女様の所へ行くように云われ、こうして参りました」

ようは皇子王女の結婚なのだが、ロマンも何もない義務的な話だと言う。


「先ほどは助かりましたぞ勇ましいお嬢さん」

「ええ…とんでもない」

「そんなことないわ!!すごいじゃない!!」

興奮した令嬢は少女の肩に手をやりぶんぶんと振り回した。


「本当にありがとう…

先ほど言われてしまいましたが私はスヴィーズ、パレッティナの第一皇子です。

よかったら貴女のお名前も聞かせてもらえないでしょうか」

スヴィーズはかぶっていた布をはずす。

とても長くさらりとしたストレートの白髪と、優しげな顔だ。


「え…?イレイアです」

皇子の姿に見とれたイレイアは先ほどの勇ましい姿とはうってかわって真っ赤になりながらおどおどとしている。

令嬢は何もいわずニヤリとわらった。


「またお会いできると良いですね」

スヴィーズは馬車に戻る。

遠くに隠れていた御者が戻ると馬車が出発していった。

――――

「はあ…」「“嗚呼…雲の上の皇子様…もうすぐ王女とご結婚なさってしまわれるのね…”」

「お嬢様!?」

令嬢はイレイアの心の声よ。と茶化す。


「ははは!!奪ってしまえ!」

「だんなさま!?」

バンと扉を開けたのは雇い主である令嬢の父。


「当たって砕けなさいな!」

「奥さま!?」

令嬢によく似た母親も勢いよく扉を開けて現れた。


「チャンスは今よ!今しかない!」

「ですがお嬢様!」

イレイアは平民の自分が皇子に相手にしてもらえるわけがないと言う。


「でも皇子様は貴女の名前を聞いたのよ他の女と結婚するのによ!!」

仮にも王女を他の女よばわりするのは宜しくないのでは…イレイアはそういいかけてやめる。

変わりにひきつった笑みを浮かべた。

====

「それで、どうするの?」

「私は皇子様の病気を治して差し上げたいです」

イレイアはスヴィーズに少しでも長く生きてもらいたいと思う。

だからまずは病をどうにかしたい。

それを上手く表せないが一生懸命伝える。


「なるほどね皇子様の悲しみを取り除けばきっと彼はアナタの虜よがんばって!!」

「お嬢様…」

長女で姉のいないイレイアにとって令嬢は年の近い姉のようなもので、また、令嬢も妹のように思っているのだろう。

===

「…」

「殿下…やはりこの婚姻は…」

付き人はスヴィーズの気持ちを察していた。



「そんな我が儘を私は言えますか?」

「…」

ただの政略結婚ならまだしも厄介払いに他国へ送られているのだ。

弱音を吐くもよし、憂鬱になるだろうと哀れんだ。

――――

このフラワー国にはどんな病をも治す花があるという。


「ではとって参ります」

「気をつけてね!!」

令嬢に見上げられながらイレイアは崖をのぼる。


あまりに急な崖をスイスイ登る彼女を見て「愛は強しね…」と頷く令嬢。


「あった!」

やっとの思いで頂上にたどり着き、目的の花を見つけた。


「待ちな!!」

「きゃっ」

花を摘もうと手を伸ばしたイレイアの手を若い女が叩く。

====

―――どうして叩かれたの?

「この花は致死草、毒草だよ」

「え!?」

叩かれた手の痛みを忘れ、血の気が引いた。


「本物はあっちだよ」

「ありがとう図鑑はモノクロだからわからなかったの…」

ピンクの致死草とよく似た紫の花、これが蘇生花なのかと見つめる。


花を手に入れた少女はさっそく皇子に花を渡そうと考えた。

しかし皇子は城にいて、平民のイレイアが簡単に会いに行けるような相手ではない。

どうやって花を渡そうとイレイアは頭を悩ませた。


「結婚前にお城でパーティーをやるそうよ私は招待されてるからイレイアも付いてきて」

どう城に入るか悩んでいたイレイアだったが良いタイミングで城内に入る手立てが見つかった。

===

当日、パーティーが開かれた。

イレイアは皇子が付き人と移動した隙を見計らう。

イレイアはせっかくの結婚パーティーに王女と一緒でない事に違和感を感じたが、令嬢に言わせれば好都合と言える状況。

===

「私はこれで」

付き人は去り際にイレイアをチラリと見て皇子に微笑んだ。


「あの…皇子」

体が弱いのにテラスに出て大丈夫なのか心配になる。

「また会えましたね…」

(覚えていてくださった!!)

「美しく着飾られていたのでどこの高貴なご令嬢かと思いました」

「おっ皇子…(高貴なんて結婚なさる王女様にふさわしい言葉なのに)」

イレイアは手に持っていた花を渡す。


「これは…?」

「どんな病をも治す花ですこの国の崖の上にしか咲かない花です…」

スヴィーズは花を受けとる。


「そんな貴重な物を…高かったでしょうに…」

「いえ、摘んできたのでタダでした」

「え?」

==

「あのこの度はご結婚おめでとうございます…」

イレイアはいかにも今思い出したような態度で祝った。


「…」

スヴィーズは急に黙り込んだ。

スヴィーズならありがとうと笑顔で答えると思っていたのだが、どうしたのだろう。


「病を治せば私はここを去れるでしょうか…それとも治さず短い余生をここで過ごすべきでしょうか」

月明かりに照らした淡い色の花を見つめながら悲しそうな顔をしていた。


「貴方はどうしてこの花を…危険な場所に出向いてまで…」

「お…皇子様に生きて頂きたいからです!」

イレイアは行き場のない手を顎の下あたりで祈るかのように組む。


「なぜ貴女は王女様じゃないのでしょうね」

スヴィーズは諦めたような暗めのトーンで静かに言った。

「だって…平民じゃなかったらあんな道を歩いて馬車を囲まれる皇子様には会えません」

イレイアはクスりと笑っている。


「そうですね…貴女が定められた結婚相手だったならこんな感情は芽生えなかった」

スヴィーズは花に口付けて、その花をイレイアの唇へ近づけた。


「その時が来て逝く最後まで貴女が隣にいてくれたら…」

スヴィーズは静かに倒れた。


「皇子!!」

イレイアは受け止める。


「気分はどう?」

王女はにこやかにスヴィーズにたずねた。


「貴女が崖で私の雇った暗殺者に騙されてくれたおかげでたすかったわ

皇子、本当はその花は毒草なのよ!!紫の…え!?」

王女は拾い上げた花を明るい広間に持っていく。


「ピンク…どうして!?」

紫の花だと言われた筈だと王女はイレイアに聞いた。


「こっそりどっちも摘んできたの…皇子様のと私の分」

本当は病を治す紫の蘇生花を皇子に、桃色の致死草を自分が持つ筈だった。


しかしどちらが紫の花かが暗がりでわからなくなったとイレイアは泣きながら言った。


「スヴィーズ皇子…目を覚まして!」

頬に雫が数滴落ちて、スヴィーズが目を覚ました。


「皇子!!」

「すみません…話は全て聞いていました」

スヴィーズは先ほど倒れてから死んだフリをしていたのだと申し訳なさそうに言った。


「あ…あ…」

第二王女は顔面蒼白でテラスから逃げ出した。


「所でご病気のほうは…」

「そういえば…体が軽くなりました」スヴィーズは座り込んでいたイレイアの手を取って立たせる。


「行きましょう」

「え!?」

スヴィーズは行き先も告げずイレイアの手を引いて、二人は晴々とした気持ちで城を出た。


スヴィーズとイレイア、この二人が結ばれた事は両国の王族とスヴィーズの付き人のみぞしるお話。

七月に思い付いたものをようやく書き終えました。

今までの短編では一番長いです


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