表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋愛ものっぽい話

記念日だと、彼女は言う

作者: 雲雀 蓮


短針があと何周かしたら、年を取る。

ただそれだけのことなのに、彼女は嬉しそうに笑う。


いつものとはまた違う、その顔は僕を困惑させる。

どうしてそんなに笑うの?と聞けば、「大事な日じゃない」と言う。



まったくもって理解ができない。



確かに明日は僕の誕生日だ。

しかし、別に明日生まれなおすわけじゃない。

きっと明日以降の僕は変わらない。

今までの僕と一切変わらないはずだ。


それでも、ケーキやらごちそうやらを用意している彼女。

プレゼントなんてもらう年じゃあないよ、とこぼしても意味はなかった。



カチカチ、針は進む。

僕らが今か今かと待つその時間まで。

余りにも楽しみなのか、じっとしていられないらしい。

用もないのにキッチンとリビングを行き来して、躓いている恋人が何度も見られた。

同じ年なのに、と笑うとふくれっ面をしてこちらへ寄ってきた。



ボスン、と勢いよく音を立てて僕の隣に座る。

柔らかめのソファなので、多分痛くはなかっただろう。

僕をからかう時は必ずさっきの座り方をしているから。



カチ、と音がするのに合わせて呼吸音がする。

僕のか彼女のか。

いや、僕じゃないな。

合わせてしまったら負けてしまったような気分になるからしない。

じゃぁ、彼女か。

そう思って横を見ると、



「・・・・・・(すー)」



爆睡していた。

あんなに待っていたのに。

僕も寝てしまおうか。


しかし彼女をこのままにしておくわけにはいかないので、そっと抱きかかえてベッドへ運ぶ。

幸いなことに、息を乱すことさえしなかった。

ここまで深く眠るなんて。

本当はずっと眠かったんじゃないのか。

明日は休日だけれども、今日まで働き詰めだったし寝たかったのでは?


無理をしてまで、祝う必要なんてないのに。


少しの怒りと冷めた感情。

いつも彼女が怒る、僕の悪い思考癖。

やめた方が周囲との関係良好を保てるのは、わかってはいる。

納得も理解もしていないし、ましてや実行なんてしていない。


こんな僕よりも、もっといい人がいるよ。

そう言った僕を思いっきり殴ったのが彼女だった。

驚いたなんてものじゃなかった。

言葉も出なかった。

酷い、痛い、なんて言おうものならもう一発くるところだった。

泣きそうになった僕よりも先に、彼女が泣いて更に驚いたのだけれど。



ぐたっとした状態の彼女を寝かせて、布団をかけてしまう。

少しだけうめいたみたいだが、やはり疲れているようで起きない。

静かに離れてリビングのソファに戻った。



ふぅ、と一息ついて缶ビールを開ける。

一口飲んで、冷えたアルコールが全身に回るような感覚に浸る。

大人になったななんて今更老け込んで思うことじゃない。

酒もたばこも免許も、結婚も。

何だって自分の意思で出来る。



カチ、



あと数分で僕は年を取ることになる。

一年経った。

でも僕は変わらない。

ずっとこれからも、変わらない。



「・・・・・・・・」



静寂に耐え切れずにもう一口。

グビ、と喉がなるのが分かった。


彼女がいなければ、こんな風に起きて待っていることもしなかっただろう。

自分に向き合うような静かな時間。

「忙しい」と口癖の様に言う毎日では考えられない事だ。

世界から隔絶されたような恐ろしさもあるけれど、もっと違う何かも感じる。



あぁ、それは何だと考えているうちに日付をまたいだ。

そして鳴り響くクラッカー。を握る彼女。

狸寝入りをしていたのか。

道理で起きないわけだ。そもそも寝ていないのだからこれはおかしいか。

道理で、大人しいわけだ。

彼女の寝相は酷い。言語同断としか言いようがない。

だからいつまでも同じ寝具で寝ることはできない。



「誕生日、おめでとー!」



深夜0時に騒音を出して平気な顔をする彼女を見て、僕はまた一つ皺が増えた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うわーっ めちゃくちゃ 可愛いです。 あっ失礼しました。 初めまして…です。 とても とても高揚していた言葉の動が、徐々にないで 行って 静となる。 そして 息使いを 感じる程の 静寂さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ