6話
サラザール・リュシオンは、爬虫類系の獣人を司っている、いわば領主と言えども、とても位の高い貴族であった。
しかしながら爬虫類系の獣人は、その見た目のおぞましさから、あまり好まれておらず、サラザールもまた、最も醜悪な獣人として疎まれていた。
けれど蛇の獣人でも仲良くしてくれている人間の領主(アツミの街の領主)ヒースがいて、こうして招かれ、この街へとやって来たのは、運命の導きであったのだと、今では思う。
人目につかないように、同類以外の目に触れないように。見た目のおぞましさを隠すように生きてきたサラザールは、ヒースの見た目だけの美しさではなく、中身の美しさにも憧れていた。
自分を友と呼び、こうして笑いあえるというのはとても貴重なのだから。
サラザールは、ヒースと話をしながら、ふぅ、と小さく溜め息をついた。
ヒースの小さい眼が心配そうに細まり、ふくよかな手のひらが労るようにサラザールの肩に触れる。
「何かあったのかい?サラザール」
「いや、何でもない。ただ、今日は思いがけないハプニングに見舞われことを思い出して、自分の不甲斐なさに溜め息が出ただけだ」
「ハプニングって...まさか、報告の不審者って......サラザール、君も本当に不憫な人だねぇ」
ヒースは生暖かい目をサラザールに向け、ポンポンと慰めるように、肩に置いていたままの手で叩いた。
深く追及することなくあえてスルーしてくれたヒースに感謝をしつつ、サラザールはもう一度だけ溜め息をついた。
今度は自分への不甲斐なさにではなく、美しいあの人への想いが思わず零れてしまったが故の溜め息だ。
「その、ヒースに頼みがあるのだが、良いだろうか」
「ん、僕に出来ることなら言ってよ。僕と君の仲じゃないか」
「今日出会った美しい人に、もう一度会いたい、そして助けてくれたお礼がしたいと思っている」
「へぇ、美しい人かぁ、どんな子なの?」
「おそらく、彼女は下級階層の人間とは思うが、」
ヒースは側に控えている筆頭執事に目配せを送り、サラザールの話を聞いていく。
森で出会った可憐な儚い、美しい少女に助けられたこと、しかも倒れている自分と従者全員に、治療のためとはいえ口移しで薬草を飲ませてくれたこと、嫌悪感を抱かずに笑ってくれたこと。
サラザールは青白いほほを僅かに染めつつ、興奮冷めやらぬ声で語っていく。
ヒースはサラザールの語る「アツミ・リーフシード」という少女が、サラザールの想像上の人物か、天使ではないかと思いついた。
だがその思い立ったのが天使ということで、あまりの荒唐無稽な自身の考えに、思わず叫ぶ。
「天使か!サラザール、その子は神が遣わした天使じゃないのか!?」
「私もそう思っている、だがこのバスケット、この手当をするために割いてくれたドレス、彼女は存在しているのだ。......もう一度会いたい」
ヒースは項垂れるサラザールの肩を抱き寄せ、微笑んで見せた。
「大丈夫だ、必ず見つけてみせるよ、君の天使、アツミって女性をね!」
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続きです。
投稿が遅くなってすみませんでした。