5.5話
???視点
招かれた先の領内を視察する際に、身分を隠したことが裏目に出たらしい。
見た目がいかにも怪しいと、街の護衛任務を行う憲兵に捕まりかけた。
まさか捕まる訳にはいかないと、3人で必死に逃げたのだが、多勢に無勢。森に追い込まれ、剣などを使った乱闘になり、ようやく逃げた時には満身創痍になっていた。
切りつけてきた剣には何かしらの毒が塗られていたのか、意識が朦朧とし、足取りもおぼつかない。
それでも森の奥、森の奥へと進み、そして......
クルト視点
身体の変なダルさとか、重苦しい感じがなくなって、スッキリとして目が覚めた。
おかしいぞ、と思いながら周りを見渡すと、天使がいた。
見知らぬ天使に、身体中がぶわわわっと逆立つ。威嚇じゃないよ、驚いただけだよー。
緊張のあまり、唾を飲み込む。うぇっ、苦い。
「お前は、誰だ? お、おれたちに何をした! うぅ、口のなかが気持ち悪い」
天使に話しかけたら、思いっきりどもったし、なんか攻撃的な言葉になっちゃった!
なのに、目の前の天使は怒ることなく、両手を上にあげたままで、儚く微笑んだんだ。
「アツミ・リーフシードと申します。えとその、素人判断ですが、傷を負って倒れているように見られた為に、薬草で治療しました」
天使の名前は、アツミ。アツミかぁ。
彼女が指し示した薬草を見つめて、習性的にふんふん匂いを嗅ぐと、口内の味とおんなじだ。
あれ、この匂いアツミからもしたような......ふんふん、匂いを嗅いでみると、彼女の口から、薬草のに、にっ、匂いが!
もしかして、く、くくく、くちう! くちうつし!
「お、お、お、おま、な、なん、なんで......」
名前なんて呼べなくて、彼女の顔を見て固まったまま、吃りながら口移ししたかどうか尋ねる。
けど、言葉にならなくて、ほんと、どうしようもなくて、ただ目の前の天使を見つめて、この世の春を謳歌していた。
そうこうしているうちに、ご主人様とヴァイスさんの意識がハッキリしてくるのを感じ取った。
ヴァイス視点
意識が浮上すると、目の前には人間の美しい方がいた。
正確に言えば、クルト越しにだが、今まで見たことのないレベルの美しく可憐で、儚い雰囲気の女性がそこに居たのだ。
クルトはアタフタするだけで、状況の判断が出来ていない。
私は起き上がったサラザール様に目配せを送り、まずは私がこの場を取り仕切る事にした。
「......クルト、そちらのお嬢さんは?」
「ヴァイスさん! それに、サラザール様も!」
クルトに話し掛けたが、私達が目覚めたことに嬉しそうで、状況説明ができそうにない。
だが、クルトに目配せをして状況説明するように伝えれば、いそいそとやって来て、主観的だが状況を話始めた。
そして、クルトが言うには、私達の話し合いをおとなしく待っている美しいお嬢さんが、薬草を用いて治療を行ったらしい。
しかも、乳鉢など薬剤の調剤を行うものがなく、匂いで判断するに、お嬢さんが口移しで我らに飲ませてくれたと、クルトが言うのだ。
思わず我らは、お嬢さんを見つめる。そこには、とても美しすぎる、クルト曰く天使がいる。
なるほど、こうなってはお嬢さんに直接聞いた方が良いだろう。
「あー、お嬢さんは、その、我々を助けてくれたということで、間違いはないか?」
「はい、その、迷惑でしたでしょうか? ごめんなさい、勝手に素人判断で治療してしまって......」
話しかけると、お嬢さんは我らに嫌悪感を示すどころか、本当に心配そうに、そして、迷惑をかけたのだろうかと、困惑した悲しそうな顔をされた。
そのような顔をさせたくなかったのに、と、私は慌てて言葉を重ねる。
「いや、そうではない! 助けて貰ったことを感謝することはしても、恨んだりなどとするものか! ただ、我らのような醜悪な者にどうして、お嬢さんのように美しい方が助けてくれたのかと、疑問に思ってな」
そう言うと、彼女はホッとしたような顔になり、そして笑顔になった。
思わずほっこりしていると、とてつもない威圧感を背中に受けた。振り替えれば、サラザール様の笑ってない瞳が、私を見ていた。
「ヴァイス、私からも礼を言わせてくれないか?」
「サラザール様! っ......はい、わかりました」
サラザール様の無言の圧力、私にも天使と話させろ、を受け取り、私はその場を引いた。
サラザール視点
いい加減私も彼女と話したかった。
クルト曰く、天使のお嬢さんは、今まで見たことのないレベルの本当に美しい人で、しかも、私に嫌悪感を持っていなかった。
とても興味があり、彼女のことを知りたくて、つい、この場を任せていたヴァイスを恨めしく思い、話しかけてしまった。
「お嬢さん、もう一度名前を教えて貰えるだろうか? 私はサラザール、訳あって姓を名乗れないが許して欲しい」
「えと、そのアツミ・リーフシードと申します」
「そうか、アツミ嬢。私達を貴重な薬草で治療し、助けて貰えたことを、感謝する」
美しいお嬢さんの名前は、アツミ。見た目に似合った名前の持ち主だ。
私は心からの感謝の気持ちを伝えるべく、頭を下げた。感謝を表すには、これだけでは足りないが、せめて気持ちだけは伝えたくて。
頭を下げたままの私に、アツミが慌てて近寄ってきて、頭を上げるようにお願いされた。
私は思わずギョッとして、アツミを見た。そして、どうして私なんかに優しくするのだ、と疑問が生じた。
彼女は天使もかくやといった、本当に美しく可憐で、見たことのないレベルの絶世の美女。
私はと言えば、醜くおぞましい、醜悪な男。
それなのに、アツミは、アツミは私に優しくて。
「あー、その、アツミ嬢、私達を気持ち悪いとは思わないのか?」
「いえ、まったく! もし、気持ち悪いと思っていたら、治療しませんよ」
「そ、そうか......」
思わず尋ねれば、彼女は慈愛に満ちた女性だと言うことがわかった。
アツミは人を見た目で判断することなく、我らに治療を施してくれたのだ。
「アツミ嬢、その優しさと慈愛の深さに感謝している、本当にありがとう。本当ならば、今から感謝の意を込めて、色々としてやりたいのだが、すまない。今は何もしてやれないのだ」
目を見てしっかりと、もう一度彼女に感謝を伝える。
こうして私のような醜悪な顔を向けても、彼女は顔を背けるどころか、目を反らすことなく、私を見つめてくれる。
そのあまりの美しさに、言葉もなく見つめていると、彼女がふいに辺りを気にすると、スッと立ち上がった。
「気にしないでください、サラザール様。あ、そろそろ帰らないと、怒られてしまうので、私は帰りますね」
彼女はそのままどこかへ走って去ってしまった。慌てて引き留めたが、彼女は振り返ることはなかった。
残された3人は、もう一度顔を見合わせる。そして、彼女が去った方向を見つめた。
「アツミ、か」
「サラザール様、彼女の姓は控えておりますので、ここは一旦、滞在している屋敷に戻り、それから話をしましょう」
「おれ、匂いも覚えてるし! ちゃんと見つけられるよ!」
治療された為か、身体中の痛みはなく、ダルさも抜けていた。
帰り支度をしながら、自分達の荷物を確認していると、薬草や木苺の詰まったバスケットがそこにあった。
きっと、彼女のものだろう。
サラザールは、そのバスケットを大事そうに抱えると、クルトを先頭にして、滞在先の屋敷へと戻っていった。
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少しずつ進展してます




