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2話

 アツミ・リーフシードの朝は早い。


 6時前には起きて、台所に火を入れて、手早く身支度を整えて、簡単にご飯をすませる。


 7時には家族を起こすので、それまでに炊事を終わらせていないと、怒られてしまうからだ。


 また、家族がご飯の時には、邪魔をしないように家の外に出ていって、家の回りをきれいにしておかなくてはいけない。


 下級階層の人々が暮らす場所だから、毎日きれいにしないと、すぐに汚ならしくなってしまう。




「シンデレラか、っていうね」




 毎日、毎日、朝早くから夜遅くまで、働かされて。


 家族からは感謝の言葉の1つもない。


 まぁ、シンデレラと違って、私の場合は街の皆と仲が良いから、色々助けてもらえるから、それほどは悲観しておりませんが。







 お買い物のとき


 下級階層の人々が暮らす街の一角、ちょうど中級階層の人々が暮らす所に隣接するように、様々な店が軒を連ねている。


 売っている物も様々なら、売っている人も様々で、多種多様な人種が商いをしている。


 その中で犬の獣人の店は、前世の地球にあたる犬種の特徴を受け継いだ人が働いており、また家族経営が多いことから似たり寄ったりの容姿の人があくせくと働いていて、ペットショップを覗いている気持ちになる。


 私の行きつけの店はシベリアンハスキーの獣人がやっているところで、イケメンパラダイスと言っても過言ではない。もちろん、こちらの世界では不細工の巣窟らしいが。




「ラルフー、このメモの材料ちょーだい!」


「あ? アツミか、待ってろ用意すっから、それまでこれ食ってな」




 ニッと犬歯を剥き出しにして笑いながら、ラルフは店の品物である真っ赤に熟れた林檎をアツミに投げて寄越した。


 ちなみにラルフは、というよりこの世界の獣人は、獣耳と尻尾、身体の一部に表れる毛皮が特徴的で、大抵の種族はすらりとした細マッチョのイケメンやナイスバディーな美女が多い。


 種族によってはマッチョマンもいたり、ぽちゃぽちゃがいたりもするが、私が見た限りでは、イケメン美女の割合が多い。


 ラルフの場合も例に漏れず、身長が高くて細マッチョ、ふさふさの犬耳とパタパタと嬉しそうに振り回されている尻尾が可愛い、ワイルドな顔立ちのイケメンだ。


 髪の色は濃いシルバーに所々に黒が混じっており、ウルフカットで髪の毛を逆立てさせて遊ばせている。


 瞳は灰色で切れ長で見つめられたら、きっとキュンキュンくると思う。



 そんなラルフには、私が小さい頃からお世話になっており、頼れる兄貴といった感じだ。


 獣人も人間も見た目の老いかた、年の取り方は変わらないので、ラルフは20代後半の男盛りのイケメンである。


 ちなみに私は14才、ラルフの一回り下で彼にはよく遊んでもらったし、家族からこき使われるようになってからも助けてもらった。




「なぁ、アツミ。やっぱりオレんちの嫁になれよ」


「えー、ラルフの兄弟いっぱいいるから、やだー」




 この世界の獣人種である犬、猫、兎といった種族は、もれなく多産の傾向にあり、ラルフの家もラルフを入れて18人兄弟なのだ。


 私は林檎にしゃりしゃりとかぶり付きながら、ラルフの提案を否定する。


 ラルフの尻尾がびたーんと垂れ下がったのを見て、少し気がとがめるが仕方ない。




「今はただの店番だけどよ、いずれはオレがここの店長だぜ? 兄弟には手を出させねぇって」


「でも、法律上難しいじゃん」



 ここの世界の法律で、多産の傾向にある種族の男の未婚率の高さから、結婚相手の兄弟とも結婚しなくてはいけないのだ。


 一妻多夫になってしまうが、獣人達からすれば、家族で仲良く独占するだけのこと、気にしない気にしない、らしい。




「まぁ、考えといてな?アツミ」


「うん、わかった」




 ラルフから品物を受け取り、お金を支払う。


 普通に買うよりも、安くなっていて、差額は私の懐に入る算段だ。


 ここの世界のお金は、リルという単位で、コインと紙幣、ぶっちゃけて言えば、前の日本と同じ感じで存在する。


 物価もあまり変化がないので、買い物はしやすい方だ。




「じゃあ、またね、ラルフ」


「おぅ、また、な?」




 ラルフの端正な顔が近づき、ちゅ、とおでことほっぺたに、キスをされる。


 そのまま、キスをされていると、ざらざらした舌が伸びてきて、首筋をペロペロ舐めてくる。


 ふんふんと鼻息が荒くなってきて、甘噛みまでされるが、私は甘んじて受け止める。


 イケメンにされているから、というのもあるが、彼には色々と、そう色々と助けてもらっているので、割り切っている。


 ラルフが満足するまで付き合うだけで、安く買い物ができるのでウィンウィンの関係なのだ。




「っ、はぁ、このままヤリたいけどよ、そろそろ帰らねぇと怒られちまうよな?」


「うん、ごめんね、また来るね」




 ひとしきり首筋や耳たぶを舐められ、甘噛みされ、こちらもそろそろ、といったときに、ラルフが顔をあげて、耳をピンと立てた。


 上級階級と中級階級の街の境目にある時計塔の鐘の音が聞こえたらしい。


 ラルフが名残惜しそうだが、私もお仕置きと称してご飯を抜かれたくないので、買い物したものが入ったかごを持ち上げ、店から出る。


 ラルフが後ろからついてきて、店から出る時に頭を撫でられ、見送られる。


 私も、ラルフに手を振り返し家路につく、帰りたくはないが仕方ない、まだ出て行くには早いからだ。



 いずれ、出ていくために、今は大人しくするに限る。


 手のひらのお釣りを握りしめ、差額を隠しつつ家路についた。





.

蛇のへの字も出てこない

まだまだお待ちを!

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